第7話:私の夢
町の朝は、
静かだった。
……いや、正確には分からない。
私には、
音がない。
平民として暮らし始めて、
三か月が経った。
小さな部屋。
最低限の家具。
窓から差し込む光。
貴族だった頃の生活とは、
何もかもが違う。
でも、不思議と――
苦しくはなかった。
(……静か)
この世界は、
私を責めない。
誰も、
悪役令嬢だと囁かない。
誰も、
妹の名前を出さない。
ただ、
今日を生きるだけ。
◆
私は、
花屋を開くつもりだった。
それだけは、
最初から決めている。
会話がなくても、
花は育てられる。
値段は、
紙に書けばいい。
注文も、
文字で受ければいい。
(……できる)
そう、
何度も自分に言い聞かせた。
◆
市場を歩き、
土と鉢を見て回る。
道端に咲く花を、
無意識に目で追う。
どの花を、
どの季節に並べるか。
どんな店にするか。
頭の中で、
何度も思い描く。
植物園にも、
足を運んだ。
背の高い木々。
整えられた花壇。
静かに咲く花たちは、
それぞれ違う表情をしている。
日差し。
水分。
風の通り。
花の状態が、
一目で分かる。
私は、
花壇の前で立ち止まり、
しばらく眺めていた。
この町で、
花屋を開く。
そのために、
私はここにいる。
過去も、
名前も、
立場も関係ない。
新しい人生を歩むと、そう決めたのだから。




