第4話:私が全て引き受けるから
それは、
確信に変わる出来事だった。
ある日の舞踏会。
私は、シシィの様子を
いつも以上に注意して見ていた。
ドレス。
化粧。
立ち居振る舞い。
どれも、完璧だった。
――完璧すぎるほどに。
「……」
シシィは、ルーカスと視線が合うたび、
ほんの一瞬だけ、表情を緩める。
でも、すぐに視線を逸らす。
決して、近づこうとはしない。
まるで――
“想ってはいけない”と、自分に言い聞かせるように。
(……優しすぎる)
原作の彼女は、
もっと自分の気持ちに正直だった。
でも、このシシィは違う。
私を、
――傷つけないために。
「シェリア?」
不意に、ルーカスに声をかけられた。
「疲れているように見える」
「……そう?」
「無理はするな。君は昔から、頑張りすぎる」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
彼は、
本当に私を大切にしてくれている。
だからこそ――。
(この人も、守らなきゃいけない)
誰も、悪くない。
悪いのは、
この物語だ。
舞踏会の終盤。
私は、意を決して、
ルーカスにこう言った。
「……少し、話があるの」
静かな庭園。
月明かり。
彼は、何も言わずに
私の話を待ってくれた。
「もし……もしもよ」
私は、言葉を選びながら続けた。
「私が、婚約にふさわしくないと言ったら……どうする?」
ルーカスは、驚いた顔をした。
「どうした? 急に」
「仮定の話よ」
沈黙。
やがて、彼は静かに答えた。
「それでも、君を大切にする。
婚約者でもあるが幼なじみでもあるから。」
……だめだ。
こんな人を、
“奪われた”なんて言葉で憎む未来なんて。
耐えられない。
その夜。
私は、シシィの部屋を訪ねた。
「お姉さま?」
少し驚いた顔。
でも、すぐに微笑む。
「どうしたの?」
私は、椅子に座り、
深く息を吸った。
「……シシィ」
「はい」
「あなた、ルーカスのこと……」
そこまで言って、
言葉が止まった。
シシィの肩が、
ほんのわずかに震えたから。
「……好きなの?」
長い沈黙。
そして――。
「……ごめんなさい」
シシィは、泣きそうな顔で、
そう言った。
「好きです。でも……でも、お姉さまの婚約者だから……」
――やっぱり。
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
でも。
それ以上に、
彼女が自分を責めていることが、辛かった。
私は、シシィを抱きしめた。
「謝らないで」
「お姉さま……?」
「恋は、罪じゃないわ」
それは、本心だった。
シシィは、
声を殺して泣いた。
「……私、どうすればいいのか分からなくて……」
「分かってる」
私は、彼女の髪を撫でながら、
ゆっくりと言った。
「だから……これは、お姉ちゃんの役目」
この子は、
悪役令嬢なんかじゃない。
悪役になるのは――
私でいい。
部屋を出たあと、
廊下でひとり、立ち止まった。
(決めた)
私は、
自分から――身を引く。
婚約を解消し、
シシィとルーカスを結びつける。
そうすれば、
少なくとも――最初の破滅は避けられる。
その先の運命は、
また考えればいい。
――女神様。
もし、
誰かが悪役にならなければならないのなら。
どうか、
それは――私にしてください。
私は、覚悟を決めた。
それが、
すべての始まりになるとも知らずに。




