第3話:運命は変えれますか?
ルーカス・ヴァルハルト侯爵令息。
私の婚約者だ。
そして私の運命を壊す名前でもある。
十三歳になった私は、
社交界デビューを控え、忙しい日々を送っていた。
礼儀作法、舞踏、会話術。
どれも貴族令嬢として必要なもの。
そして、そのすべてに
――ルーカスは、完璧に付き合ってくれた。
「無理をしていないか?」
柔らかな声。
穏やかな笑み。
原作通りの、
“理想的な婚約者”。
前世の私は、
「どうしてこんな人が妹を選ぶの?」
と不思議に思ったものだ。
ある日のこと。
庭園で、
私とルーカス、そしてシシィの三人で
お茶をしていた。
他愛ない会話。
穏やかな午後。
――そのはずだった。
「……」
シシィが、黙っていた。
視線は伏せられ、
時折、ちらりとルーカスを見る。
その一瞬の表情。
胸が、ひやりとした。
(……やっぱり)
恋だ。
間違いなく。
原作と同じ。
シシィは、ルーカスに恋をしている。
でも。
「お姉さま、砂糖を取ってもいい?」
声は、いつも通り。
笑顔も、作れている。
自分の気持ちを、
必死に押し殺しているのが、分かった。
原作のシシィは、
もっと分かりやすかった。
無邪気で、奔放で、
恋を隠そうともしなかった。
(……変わってる)
私の存在が、
彼女を――縛っている?
夜、部屋で一人になって、
私は考え込んだ。
このまま、
何もしなければ。
シシィは想いを募らせ、
いつか溢れ出す。
私はそれに気づき、
嫉妬して、壊れる。
――原作通り。
でも。
もし、私が
“最初から身を引いたら”?
婚約を、譲ったら?
そうすれば、
私は破滅しない?
いや――。
それでも、
シシィは第二の悪役令嬢になる。
第一王子に恋をし、
噂を流し、断罪される。
(……詰んでる)
私が何をしても、
物語は彼女を破滅へ連れていく。
それなら。
(せめて……)
私が、悪役を引き受けよう。
◆
翌朝。
私は、鏡の前で深呼吸をした。
――決めた。
私は、
“優しい悪役令嬢”になる。
妹を守るために、
婚約者を失う覚悟を持つ。
修道院でも、
平民落ちでもいい。
それでも。
この子が笑って生きていけるなら。
「……大丈夫」
誰に言うでもなく、
そう呟いた。
物語が始まるまで、
あと一年半。
残された時間は、少ない。
でも。
私はもう、
ただ怯えて待つだけの
三歳の子供じゃない。
――運命は、
変えてみせる。
たとえ、
“悪役令嬢”のままでも。




