番外編:休暇
2人っきりの朝、窓から光が
カーテン越しにやわらかく差し込んでいた。
鳥が空を飛び、遠くから波のざわめきが聞こえ、
風により木々の緑がゆっくりと揺れる。
別荘の朝は、
屋敷よりもずっと、時間の流れが遅い。
シェリアは、まだ眠っていた。
規則正しい寝息。
力の抜けた指先。
わずかに動く睫毛。
時折、髪が当たりこそばゆいのか唇を落ち着きなく動かす姿は愛らしい。
ずっと見ていたい、そう思いながらも、
髪を耳にかけてあげる。
彼は枕に肘をつき、
ただ、隣で眠る妻の顔を眺めている。
公爵としての顔でも、
騎士としての顔でもない。
ただの一人の男として。
別荘に来て、三日目。
休暇は1ヶ月。
使用人も連れず、
本当に二人きり。
シェリアに近づき唇にキスをしようとした。
そのとき。
シェリアの瞼が、
ゆっくりと動いた。
――目が合う。
「…………」
数秒の沈黙。
「……おはよう、ございます」
小さく、少し照れた声。
「おはよう」
アレクシードは、
何事もなかったかのように答えた。
だが。
(……キスしようとしてた?)
シェリアは、
その事実に気づいていた。
寝起きのまま、
じっと見られており、たった今キスしようと顔を近づけていたことを。
「……ずっと、起きてたんですか?」
「少し前から」
「……」
シェリアは、
布団を鼻のあたりまで引き上げた。
口をもごもごさせながら言う。
「……恥ずかしいです」
それを聞いて、
アレクシードは、わずかに目を細めた。
「可愛かった」
「そういう問題じゃありません……」
結局、
先に起き上がったのはシェリアだった。
「……髪、少し乱れてる」
アレクシードが言うと、
シェリアは一瞬迷ってから、櫛を差し出した。
「……お願いします」
椅子に座り、
背を向ける。
髪が長く、自分では大変。その為使用人がいない今はアレクシードに任せている。
アレクシードは、
ゆっくりと櫛を入れた。
絡まないように。
引っ張らないように。
(……ずっとお世話するのもいいな)
朝食は、
二人で作っている。
別荘の台所は、
広すぎず、狭すぎず、ちょうどいい。
「野菜、洗いますね」
「じゃあ、火を起こす」
パンを温め、
スープを作る。
失敗もある。
少し塩が足りなかったり、
焼きすぎたり。
それでも。
「……美味しいですね」
「そうだな」
それだけで、十分だった。
食後、
窓辺に並んで座る。
外では、
風が木々を揺らしている。
「……ここに来て、よかったです」
シェリアが、ぽつりと言った。
アレクシードは、
その手を、そっと取った。
「それなら、良かった。」
「……一か月じゃ、足りませんね」
「足りないな」
二人は、
顔を見合わせて笑った。
特別な出来事は、何もない。
でも――
この何もなさが、
何よりも大切だった。
静かな別荘の朝は、
今日もゆっくりと、
二人だけの時間を刻んでいく。
いちゃいちゃを入れようかと思いましたがほのぼのにしました。




