第12話:これでいい
花屋は、
無事に開店した。
小さな店。
けれど、
花の香りで満ちている。
「リアの花は、長持ちする」
「色合わせがきれい」
そんな言葉を、
紙越しにもらうたび、
胸が温かくなった。
それでも。
植物園には、
変わらず通っていた。
――アレクシード様に、会うために。
彼は、
いつも通りだった。
騎士団長としての威厳。
けれど、
私の前では穏やか。
でも。
私は、
気づいてしまった。
(……好き)
視線を追ってしまう。
隣にいると落ち着く。
それはもう、
花への好意ではなかった。
同時に、
恐怖もあった。
(……これ以上は、だめ)
私は、
平民。
彼は、
公爵家嫡男で騎士団長。
交わる未来は、
ない。
そして。
妹の結婚式の日が、
近づいていた。
紙に、
決意を書いた。
【結婚式が終わったら、
ここへは来ません】
アレクシード様は、
それを見て、
表情を曇らせた。
「……なぜだ」
私は、
笑った。
「忙しくなるからです」
「花屋ですから」
――嘘。
彼は、
何か言いたそうだった。
でも、
それ以上は聞かなかった。
その優しさが、
痛かった。
結婚式前夜。
私は、
花束を作っていた。
妹のための、
ブーケ。
希望と、
幸せと、
未来。
(……これでいい)
妹は、
幸せになる。
私は、
平民として生きる。
それで、
いい。
そう、
思っていた。




