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出会ったのは、悪魔だった!?

作者: 影月 
掲載日:2026/01/03

 夜の街灯に照らさた初雪が、差し出した手元へと舞い降りていた。


 俺はコートに身を包み、真冬以外では使わないマフラーや手袋という防寒着を装着し、顔面以外、完全防護となっている。


 そして、今!!俺は待ち合わせ中である。


 相手はなんと!!女の子!!


 俺にとって縁もゆかりもなかったはずの女の子。

これまでの俺なら、緊張で、こんな堂々と立つことも儘ならなかっただろう。


 ……ただの人間の女の子ならな。


 それは含みを込めた言葉であった。


「待ったっ?」


 白い雪を被った女の子が甘い声でそう言った。黒い翼を小さな動きだけで、空から舞い降りてきた。



 彼女は天使の対極として生まれてきた存在の悪魔である。


「見ての通りだよ」


 肩に被さった雪を払い落として、そう言った。

俺は皮肉を放っていた。俺とこいつの仲では、こんな風に言っても何も問題がない。

 前はこうではなかったんだけどな。


 ……確か


 こいつと出会ったのは、昨年のこと。

 確か、あの日も今と同じ雪の降る日の夜のことであった。




「はふぅ」

 軽く開いた口から暖かい空気を、手に吹きかけた。

 今日は手袋を忘れたのだ。


 二千二十四年、十二月二十六日。


 そう今日は、あの恋人同士でイチャイチャする日であるクリスマスの翌日。

 彼女なしの俺みたいな童貞にとって忌まわしい日だ。何もなく、いつも誘えば来てくれるような友達も、彼女と遊んだりして俺だけは何もない。


 今年から、県外に出てきて、一人暮らしの俺は、親と過ごすということもなく、クリスマスプレゼントはない。


 大学が同じ、友達と昼までは一緒で、クリスマスを満喫していたはずだけど、あいつも今年から、リア充の仲間入り。


 一体昨日ナニしたんだろうな……あいつら。


 いいもん。俺は昨日……


 うん、何も無かったな。

 午後三時にあいつと別れてから、家に直帰するのは、なんだか物足りなく感じなかったので、だらだら街を歩いた。


 イルミネーションの光で、街が溢れかえり始めた頃に、我に帰った。

 周りには恋人と手を強く結びあった男女がごった返していた。


 やってられるか、こんなことならゲームでもしたら、良かったと愚痴を溢した。

 家に帰ったのは、風呂や食事を終わらしたら、日が変わりそうな時間だった。



 あんな、寂しいクリスマスは初めてだ。

思い返せば、より心が虚しくなる。


「良いんだよ、今日はあいつと飲み明かすんだ」


 あいつとは、昨日、俺を置いてイチャイチャしていたあいつだのことだ。


 まだ未成年なので、酒は飲めないが、コンビニに寄った俺の右手にはコンビニで貰ったビニール袋があった。

 正確には買っただがな。


 そんな袋の中にあるのは袋系のお菓子が六つほどと、つまみが、コンビニで目に映ったものを無造作で取ったので、数えられないのが億劫になるくらいある。




「久しぶりだね、全く。相変わらず今日も寒いね?」


 隣に並んだ悪魔はそう言った。


「もう冬だからなぁ」


 隣り合った俺たちは歩きだした。俺の大きな歩幅に対して、悪魔は小さな背に対して、圧倒的な歩幅を誇っていた。

 が、悪魔は歩くたびに翼を隠しながらも、羽ばたいているので、実際の歩幅はもっと小さいはずだろう。


「そうだよ、もうクリスマスだなんて驚きだからね」


 去年は何もなかったクリスマスから、一年経ったんだ。


「それで、どうする?何するんだ今から、俺はお前に呼ばれたんだから、何もすること考えてないぞ」





 俺があいつを待っていると、スマホに着信がなった。そこには『少し待って、今から家出るわ』と一言。


 即既読をつけた俺は、返信することなく、スマホでアプリを開いた。が、充電が三十パーセントを下回りそうのを見て、スマホをポケットにしまった。


「まだか、あいつ」


 暇で、空を眺めて呟いた。その呟きは、白い息となっていた。

 俺はそゆな息には目もくれず、この地域では珍しい雪が降っているのを目で追いかけていた。


「君、お金ある?」


 雪に集中していた俺の目の前にいたのはただの女の子だった。

 女の子でも、俺と同い年くらいだろうか。

俺が年齢を判断するのは、顔以外の掌などの肌だ。

 俺のネットで研ぎ澄まされたこの感覚で、分かったのは結構若い、それだけだ。未成年の可能性も考えたが、パッと見た瞳でその可能性もなくなった。


 クリスマスの翌日だ。女の子に話しかけられたのは嬉しい。


 が、あまり良くない声掛けのようだ。

夜のお店、少なくともお金目当ての逆ナン。

 クリスマスの翌日に無駄に傷を抉るような仕打ち。


 馬鹿にされているような気分だ。

 普段なら、どんな子であろうとも断っていたが、今なら、誘いに乗ってもいいかな。

 俺の貞操観念はぐちゃぐちゃになってしまいそうであった。


「寒いから、このコーヒーが飲みたいんだよね」


 そう隣にある自販機を指差した。





「やっぱ、優しいね、またコーヒー買ってもらって有難いね」


 悪魔は両手でコーヒーを握り、冷えたであろう手をあっためていた。


「また、強請られたんだからな」


 俺はあの時と同じようにコーヒーを買っていた。

文句を言っているように聞こえるが、俺もコーヒーを買っており、その味を嗜んでいた。


「良いじゃん、別にお金あるんだし」


 悪気が無さそうにそう言い放った。




 俺は有無を言わずにコーヒーを買った。

あったかいと書いてあるボタンを押し、下からコーヒーを取ると、彼女に渡した。


「ありがと、ぃやあ身体があったまるね」


 彼女の息が白く姿を見せて、上へと昇っていった。


「何の用なんだ……友達持ってるから、何もしないぞ」


 俺はわざわざコーヒーを買わせた彼女の態度に苛立っていた。


「あら、そうなの?暇そうだったから、頼み事をしようと思ったのに」


「あんた、何なんだよ?」


「悪魔だよ」


 悪魔……

こいつ何言ってんだ。


 サキュバスとかそういう設定ものなのか?すまんな、そんなこんだ設定でも俺はかるくないぞ。





「今日は友達さん、待たなくても良いの?」


「お前がな今日会わせろって言ってたから、断ったんだよ。知ってるか?今、俺の友達が何してるか」


「あなたのしたことのないことでしょ。セクハラするなら……ね」


「……お前……!」

「良いんだよ、あいつは今、俺のおかげで幸せなんだから」


 ……、別にセクハラしてるつもりなかったんだけどな。




 俺をどんだけ馬鹿にしたら気が済むんだ。


 俺をどんな風に見えてんだよ。

そんなに俺が欲情でもしてると思ってんのか。


「あんた、どのくらい俺を馬鹿にしたら、良いんだ?」


「別に馬鹿になんかしてないよ」


 彼女は両手を顔の近くまで上げ、その軽く振っている両手の間にある顔は笑顔を見せて、否定をしてきた。


「君……、どうしたの?怒ってるの?」


「怒ってはいない……」


 そう言ってはみたが、そのような何も気づいていないような態度が腹が立ってしまう。


 その態度に俺はため息をついた。

「で、お前はどうしたいんだ?俺から金を回収するのは無理だぞ」


「金も欲しいけどね、私は助けて欲しいだよ」


 俺はまたため息ついた。


「何をしたら良いんだ?」


 どうせ、金関係だろう。金も、と興味が無さそうに語っているが、そんなことないんだろうな。

 金にはがめついだろうな、という偏見が俺にはあった。




「何でそんなに卑屈になってるんだ?」


「うるせぇよ!!俺だって、彼女がいれば……」


「その肝心の彼女が出来た試しがないんだけどね」


 もう、苦笑いも出ねえよ。

その性格、本当に優しくねえ。


「お前、本当に悪魔みたいだな」


 すると、ハッとした顔をしてから、


「だって、悪魔なんですもん」


 と言った。






「私は暇つぶしに来ただけだよ」


「暇つぶしか、俺は暇じゃないんだよ」


「もっと、忙しくなるかもね」


 彼女は不吉な発言をした。何か深みのある言い方だ。


「そんな大層なものじゃないけどね」

「ただ、天使を探しに来たんだ」


 天使?何言ってんだ?

 俺はこいつに対して何も理解が出来なかった。

悪魔だとか、言っていたが、天使などと宣って、世界観が細かい。そこまでは俺もついていけない。


「あっ!信じてないな」


「そりゃあ、」


 俺がこの胡散臭い少女に文句でも言おうとした時だった。


 翼が擦れあう音がしたと思い、彼女を見たら、そこには大きな黒い翼を纏った彼女がいた。


「どう、信じた?」


「……え」


 俺は狼狽えながら、周りを見て、人気を確認していた。

 これ、人に見れれて良いやつなのか。

相場だと、見られたら、不味いだろ。

 見た人間を始末するなんて、ざらにある展開だろ。

 そうだよな?


「……触る!?」


「――あぁ」


 翼は、表面はゴツゴツしており、凹凸が激しい。

妙に暖かく、人肌がカラスの翼ち置き換えられたと言えば良いのか、変な……もの、当たり前だが、初めての感触だった。





「おい、今日は何も持っていないのか?」


「だから、何も用意してないって言っただろ」


 悪魔は俺のつまみをご所望のようだ。

しかし、あの時と違って俺はコンビニ帰りではないので、つまみなんて持っていない。


「つまんねぇな」


 横目で悪魔の顔を確認してみると、何か不服そうな顔を浮かべていた。


「まぁ、今日はクリスマスだ。家に行ったら何もないことはないけどな」


「そうか、何があるんだ?」


 こいつ、急に喜んだな。

字面だけでは淡白であったが、声の裏返り方から、そんなことは簡単に分かった。


「まぁ、クリスマスケーキとかか」


 ケーキと言っても、一人暮らしなんだから、ホールケーキなんか大層なものは用意していない。


「ケーキなんて、久しぶりだな」





「ケーキ食べるか?」


 家に帰った俺にはまだ悪魔がついてきていた。


 俺は悪魔にそう投げかけた。

冷蔵庫の中にあったカットされたチョコレートのケーキを取り出して、コタツでダラダラしている悪魔の方へと向けていた。


 ケーキは俺が一人で食べようと昨日買ったものだったが、すっかり存在を忘れていた一日前のケーキとなっている。


 一日前だが、まぁ、食べても大丈夫だよな。


 ケーキを包んでいたラップには、クリームが付着しているが、俺はその欲求を我慢していた。


「ケーキか……」


「要らないのか?」


「いや、いる」


 やはり、落ち着いたようなイメージを受け取る。

悪魔ではしゃいでいるのは、偏見だが、そぐわないイメージだ。

 だったら、こいつの態度もそんなものだろう。

と自分の中で妙に納得している。


「――はい、どうぞ」


 俺はケーキを乗せた皿の端を、フォークと共に両手で落ちないようにつまんで、コタツにいる悪魔の目の前まで、運んでいった。


 悪魔はケーキを見ると、不思議そうな顔を浮かべて、フォークでクリーム部分を突いている。


 何をしているのだろう。ケーキは何度も突かれ形を崩しそうだが、まだ、なんとかその形を維持している。


「これ、何の味だ?」

 

 味?見て分からないのだろうか。薄い茶色だ。チョコレート以外のものを俺は知らない。だが、悪魔の世界においては、他に何かあると言うのか。

 確かに、それなら俺が知る余地はないな。

いや、俺が知らないから何だよ!?

 これはどこから、どう見てもチョコレートだろ。

それを知らないということなのか?


「――チョコレート」


「へぇ」


 悪魔はそういうとフォークで、頂点に乗っている苺を押さえるように突き刺した。


 俺はそれを立ちながら、眺めることしか出来ない。

 足は冷たくなり、こたつを求めているが、悪魔と共にこたつに入るのは気が引ける。

 悪魔と言っても、やはり見た目は女の子。

女性経験のない俺にとっては、緊張で、身体が震えてしまう。


「お前、震えているぞ」


「……あぁ、寒いからな」


 震えている理由は明確には言わず、誤魔化した。

まだ目の前にいる少女が悪魔ということには慣れておらず、心の中では慄いていることを隠している。


 しかし、こいつが悪魔だということに知った時からは、随分警戒心というものはなくなっている。





「……油断するようになったな」


「それは……な。いろんなことあったしな。そもそも、もう危険視するような必要ないんだろ」


「何言ってんだ、あの時はただの少年だったじゃないか」


 ただの少年だと貶されているように聞こえるが、現にあの時は何も知らない、何も出来ない少年と言っても、過言ではなかった。


「だがな、今は俺も悪魔みたいなものだ」


「はは、それを悪魔に対して言うのか」

「じゃあ、俺もお前も悪魔だな」


 悪魔は口角を上げ、頬が丸く赤らみを帯びた表情で、調子が良さそうに言った。





「……食べるか?」


 はぁ、


 俺は心の中で溜め息を漏らした。


 悪魔が、苺に強く突き立てられたフォークをこちらに向けている。

 身体を反らして、左後ろに未だ突っ立っている俺の方を向き、悪魔は見上げながら、言った。

 苺にはゼラチンが垂れかけ、部分的に付いたホイップクリームは甘そうで、涎が垂れてきそうだ。


「――美味しいぞ」


 中々動作を示さない俺に対して、痺れを切らした悪魔が行動した。


 俺が危惧しているのはそこじゃないんだど……

 これ食っても問題になったりしないか、間接キスだぞ。

 俺、まだキスしたことのないのに……初めてあった()()と間接キスだなんて。


「しょうがないな――」


『バザッ』


 悪魔は、黒い翼が生やした。


 げぇ、何してんだよ。荒げそうになった声を抑えた。


 黒い翼からは、黒く染まった烏のような羽が、足下へと舞い落ちていく。

 俺が不満を漏らそうとした時だった。悪魔の羽は、自由に滑らかに動くと、俺の背中を覆ってきた。

 

「ぅぇ!?」


 俺の身体は引っ張られ、悪魔の隣へと、ぽつんと足が折り畳まれるように座らせられた。


「あら、こんにちは」


 可愛い悪意を孕んだような表情の彼女が微笑んでいる。


 ……全く、強引なやり方だ。

悪魔に力を見せつけられていた気分だが、俺は恐怖に駆られていることはない。

 どこか力が抜け落ちたような気分になっていた。


「あれ?怒らないの?」


「え?」


 怒ると思っていたのか?自分でしておいて?

その思考回路にも驚きたがな。まぁ俺もこんなことで、怒鳴ったり、キレたりするようなガキではない。いや、ガキだったら、恐怖でちびったりしてんじゃないのか。


「怒るわけないだろ、悪魔だから、何されるか覚悟はもうあるしな」


「おい、お前!?」





「はは、お前も悪魔か、言うようになったな」


 悪魔は高笑いしていた。喜びような悪者ではなく、酒豪のおっさんのような気分だ。


「俺も今なら、お前にも負けないかもな」


 俺は一度どころではなく、初めの頃は何度も戦いを挑んでいたが、一度も勝ったことはなかった。


「それはないだろな」





「一緒にいてくれるか?」


 ケーキを食べる手を止めて、俺に大きな声で、声を掛けた。


「一緒にって何だ?」


 俺は素朴に疑問をぶつけた。


「まぁ敵がいたりとか、罪についてだったり色々あるけどな」


 何の話だ?敵?罪?

それがどうしたんだ。もしかして……俺に。




「お前、その調子だったら、まだ続ける気があるようだな」


 さっきよりも悪魔の口角が上がった。 


「だったら、」



「端的に言うと。」




『これからも宜しく』

「ってことだよな」「してくれる?」




 ここから、これから、敵とも向かい合うことになることを俺には分かっているが、返事は一つだ。


「当たり前だろ」


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