出会ったのは、悪魔だった!?
夜の街灯に照らさた初雪が、差し出した手元へと舞い降りていた。
俺はコートに身を包み、真冬以外では使わないマフラーや手袋という防寒着を装着し、顔面以外、完全防護となっている。
そして、今!!俺は待ち合わせ中である。
相手はなんと!!女の子!!
俺にとって縁もゆかりもなかったはずの女の子。
これまでの俺なら、緊張で、こんな堂々と立つことも儘ならなかっただろう。
……ただの人間の女の子ならな。
それは含みを込めた言葉であった。
「待ったっ?」
白い雪を被った女の子が甘い声でそう言った。黒い翼を小さな動きだけで、空から舞い降りてきた。
彼女は天使の対極として生まれてきた存在の悪魔である。
「見ての通りだよ」
肩に被さった雪を払い落として、そう言った。
俺は皮肉を放っていた。俺とこいつの仲では、こんな風に言っても何も問題がない。
前はこうではなかったんだけどな。
……確か
こいつと出会ったのは、昨年のこと。
確か、あの日も今と同じ雪の降る日の夜のことであった。
「はふぅ」
軽く開いた口から暖かい空気を、手に吹きかけた。
今日は手袋を忘れたのだ。
二千二十四年、十二月二十六日。
そう今日は、あの恋人同士でイチャイチャする日であるクリスマスの翌日。
彼女なしの俺みたいな童貞にとって忌まわしい日だ。何もなく、いつも誘えば来てくれるような友達も、彼女と遊んだりして俺だけは何もない。
今年から、県外に出てきて、一人暮らしの俺は、親と過ごすということもなく、クリスマスプレゼントはない。
大学が同じ、友達と昼までは一緒で、クリスマスを満喫していたはずだけど、あいつも今年から、リア充の仲間入り。
一体昨日ナニしたんだろうな……あいつら。
いいもん。俺は昨日……
うん、何も無かったな。
午後三時にあいつと別れてから、家に直帰するのは、なんだか物足りなく感じなかったので、だらだら街を歩いた。
イルミネーションの光で、街が溢れかえり始めた頃に、我に帰った。
周りには恋人と手を強く結びあった男女がごった返していた。
やってられるか、こんなことならゲームでもしたら、良かったと愚痴を溢した。
家に帰ったのは、風呂や食事を終わらしたら、日が変わりそうな時間だった。
あんな、寂しいクリスマスは初めてだ。
思い返せば、より心が虚しくなる。
「良いんだよ、今日はあいつと飲み明かすんだ」
あいつとは、昨日、俺を置いてイチャイチャしていたあいつだのことだ。
まだ未成年なので、酒は飲めないが、コンビニに寄った俺の右手にはコンビニで貰ったビニール袋があった。
正確には買っただがな。
そんな袋の中にあるのは袋系のお菓子が六つほどと、つまみが、コンビニで目に映ったものを無造作で取ったので、数えられないのが億劫になるくらいある。
「久しぶりだね、全く。相変わらず今日も寒いね?」
隣に並んだ悪魔はそう言った。
「もう冬だからなぁ」
隣り合った俺たちは歩きだした。俺の大きな歩幅に対して、悪魔は小さな背に対して、圧倒的な歩幅を誇っていた。
が、悪魔は歩くたびに翼を隠しながらも、羽ばたいているので、実際の歩幅はもっと小さいはずだろう。
「そうだよ、もうクリスマスだなんて驚きだからね」
去年は何もなかったクリスマスから、一年経ったんだ。
「それで、どうする?何するんだ今から、俺はお前に呼ばれたんだから、何もすること考えてないぞ」
俺があいつを待っていると、スマホに着信がなった。そこには『少し待って、今から家出るわ』と一言。
即既読をつけた俺は、返信することなく、スマホでアプリを開いた。が、充電が三十パーセントを下回りそうのを見て、スマホをポケットにしまった。
「まだか、あいつ」
暇で、空を眺めて呟いた。その呟きは、白い息となっていた。
俺はそゆな息には目もくれず、この地域では珍しい雪が降っているのを目で追いかけていた。
「君、お金ある?」
雪に集中していた俺の目の前にいたのはただの女の子だった。
女の子でも、俺と同い年くらいだろうか。
俺が年齢を判断するのは、顔以外の掌などの肌だ。
俺のネットで研ぎ澄まされたこの感覚で、分かったのは結構若い、それだけだ。未成年の可能性も考えたが、パッと見た瞳でその可能性もなくなった。
クリスマスの翌日だ。女の子に話しかけられたのは嬉しい。
が、あまり良くない声掛けのようだ。
夜のお店、少なくともお金目当ての逆ナン。
クリスマスの翌日に無駄に傷を抉るような仕打ち。
馬鹿にされているような気分だ。
普段なら、どんな子であろうとも断っていたが、今なら、誘いに乗ってもいいかな。
俺の貞操観念はぐちゃぐちゃになってしまいそうであった。
「寒いから、このコーヒーが飲みたいんだよね」
そう隣にある自販機を指差した。
「やっぱ、優しいね、またコーヒー買ってもらって有難いね」
悪魔は両手でコーヒーを握り、冷えたであろう手をあっためていた。
「また、強請られたんだからな」
俺はあの時と同じようにコーヒーを買っていた。
文句を言っているように聞こえるが、俺もコーヒーを買っており、その味を嗜んでいた。
「良いじゃん、別にお金あるんだし」
悪気が無さそうにそう言い放った。
俺は有無を言わずにコーヒーを買った。
あったかいと書いてあるボタンを押し、下からコーヒーを取ると、彼女に渡した。
「ありがと、ぃやあ身体があったまるね」
彼女の息が白く姿を見せて、上へと昇っていった。
「何の用なんだ……友達持ってるから、何もしないぞ」
俺はわざわざコーヒーを買わせた彼女の態度に苛立っていた。
「あら、そうなの?暇そうだったから、頼み事をしようと思ったのに」
「あんた、何なんだよ?」
「悪魔だよ」
悪魔……
こいつ何言ってんだ。
サキュバスとかそういう設定ものなのか?すまんな、そんなこんだ設定でも俺はかるくないぞ。
「今日は友達さん、待たなくても良いの?」
「お前がな今日会わせろって言ってたから、断ったんだよ。知ってるか?今、俺の友達が何してるか」
「あなたのしたことのないことでしょ。セクハラするなら……ね」
「……お前……!」
「良いんだよ、あいつは今、俺のおかげで幸せなんだから」
……、別にセクハラしてるつもりなかったんだけどな。
俺をどんだけ馬鹿にしたら気が済むんだ。
俺をどんな風に見えてんだよ。
そんなに俺が欲情でもしてると思ってんのか。
「あんた、どのくらい俺を馬鹿にしたら、良いんだ?」
「別に馬鹿になんかしてないよ」
彼女は両手を顔の近くまで上げ、その軽く振っている両手の間にある顔は笑顔を見せて、否定をしてきた。
「君……、どうしたの?怒ってるの?」
「怒ってはいない……」
そう言ってはみたが、そのような何も気づいていないような態度が腹が立ってしまう。
その態度に俺はため息をついた。
「で、お前はどうしたいんだ?俺から金を回収するのは無理だぞ」
「金も欲しいけどね、私は助けて欲しいだよ」
俺はまたため息ついた。
「何をしたら良いんだ?」
どうせ、金関係だろう。金も、と興味が無さそうに語っているが、そんなことないんだろうな。
金にはがめついだろうな、という偏見が俺にはあった。
「何でそんなに卑屈になってるんだ?」
「うるせぇよ!!俺だって、彼女がいれば……」
「その肝心の彼女が出来た試しがないんだけどね」
もう、苦笑いも出ねえよ。
その性格、本当に優しくねえ。
「お前、本当に悪魔みたいだな」
すると、ハッとした顔をしてから、
「だって、悪魔なんですもん」
と言った。
「私は暇つぶしに来ただけだよ」
「暇つぶしか、俺は暇じゃないんだよ」
「もっと、忙しくなるかもね」
彼女は不吉な発言をした。何か深みのある言い方だ。
「そんな大層なものじゃないけどね」
「ただ、天使を探しに来たんだ」
天使?何言ってんだ?
俺はこいつに対して何も理解が出来なかった。
悪魔だとか、言っていたが、天使などと宣って、世界観が細かい。そこまでは俺もついていけない。
「あっ!信じてないな」
「そりゃあ、」
俺がこの胡散臭い少女に文句でも言おうとした時だった。
翼が擦れあう音がしたと思い、彼女を見たら、そこには大きな黒い翼を纏った彼女がいた。
「どう、信じた?」
「……え」
俺は狼狽えながら、周りを見て、人気を確認していた。
これ、人に見れれて良いやつなのか。
相場だと、見られたら、不味いだろ。
見た人間を始末するなんて、ざらにある展開だろ。
そうだよな?
「……触る!?」
「――あぁ」
翼は、表面はゴツゴツしており、凹凸が激しい。
妙に暖かく、人肌がカラスの翼ち置き換えられたと言えば良いのか、変な……もの、当たり前だが、初めての感触だった。
「おい、今日は何も持っていないのか?」
「だから、何も用意してないって言っただろ」
悪魔は俺のつまみをご所望のようだ。
しかし、あの時と違って俺はコンビニ帰りではないので、つまみなんて持っていない。
「つまんねぇな」
横目で悪魔の顔を確認してみると、何か不服そうな顔を浮かべていた。
「まぁ、今日はクリスマスだ。家に行ったら何もないことはないけどな」
「そうか、何があるんだ?」
こいつ、急に喜んだな。
字面だけでは淡白であったが、声の裏返り方から、そんなことは簡単に分かった。
「まぁ、クリスマスケーキとかか」
ケーキと言っても、一人暮らしなんだから、ホールケーキなんか大層なものは用意していない。
「ケーキなんて、久しぶりだな」
「ケーキ食べるか?」
家に帰った俺にはまだ悪魔がついてきていた。
俺は悪魔にそう投げかけた。
冷蔵庫の中にあったカットされたチョコレートのケーキを取り出して、コタツでダラダラしている悪魔の方へと向けていた。
ケーキは俺が一人で食べようと昨日買ったものだったが、すっかり存在を忘れていた一日前のケーキとなっている。
一日前だが、まぁ、食べても大丈夫だよな。
ケーキを包んでいたラップには、クリームが付着しているが、俺はその欲求を我慢していた。
「ケーキか……」
「要らないのか?」
「いや、いる」
やはり、落ち着いたようなイメージを受け取る。
悪魔ではしゃいでいるのは、偏見だが、そぐわないイメージだ。
だったら、こいつの態度もそんなものだろう。
と自分の中で妙に納得している。
「――はい、どうぞ」
俺はケーキを乗せた皿の端を、フォークと共に両手で落ちないようにつまんで、コタツにいる悪魔の目の前まで、運んでいった。
悪魔はケーキを見ると、不思議そうな顔を浮かべて、フォークでクリーム部分を突いている。
何をしているのだろう。ケーキは何度も突かれ形を崩しそうだが、まだ、なんとかその形を維持している。
「これ、何の味だ?」
味?見て分からないのだろうか。薄い茶色だ。チョコレート以外のものを俺は知らない。だが、悪魔の世界においては、他に何かあると言うのか。
確かに、それなら俺が知る余地はないな。
いや、俺が知らないから何だよ!?
これはどこから、どう見てもチョコレートだろ。
それを知らないということなのか?
「――チョコレート」
「へぇ」
悪魔はそういうとフォークで、頂点に乗っている苺を押さえるように突き刺した。
俺はそれを立ちながら、眺めることしか出来ない。
足は冷たくなり、こたつを求めているが、悪魔と共にこたつに入るのは気が引ける。
悪魔と言っても、やはり見た目は女の子。
女性経験のない俺にとっては、緊張で、身体が震えてしまう。
「お前、震えているぞ」
「……あぁ、寒いからな」
震えている理由は明確には言わず、誤魔化した。
まだ目の前にいる少女が悪魔ということには慣れておらず、心の中では慄いていることを隠している。
しかし、こいつが悪魔だということに知った時からは、随分警戒心というものはなくなっている。
「……油断するようになったな」
「それは……な。いろんなことあったしな。そもそも、もう危険視するような必要ないんだろ」
「何言ってんだ、あの時はただの少年だったじゃないか」
ただの少年だと貶されているように聞こえるが、現にあの時は何も知らない、何も出来ない少年と言っても、過言ではなかった。
「だがな、今は俺も悪魔みたいなものだ」
「はは、それを悪魔に対して言うのか」
「じゃあ、俺もお前も悪魔だな」
悪魔は口角を上げ、頬が丸く赤らみを帯びた表情で、調子が良さそうに言った。
「……食べるか?」
はぁ、
俺は心の中で溜め息を漏らした。
悪魔が、苺に強く突き立てられたフォークをこちらに向けている。
身体を反らして、左後ろに未だ突っ立っている俺の方を向き、悪魔は見上げながら、言った。
苺にはゼラチンが垂れかけ、部分的に付いたホイップクリームは甘そうで、涎が垂れてきそうだ。
「――美味しいぞ」
中々動作を示さない俺に対して、痺れを切らした悪魔が行動した。
俺が危惧しているのはそこじゃないんだど……
これ食っても問題になったりしないか、間接キスだぞ。
俺、まだキスしたことのないのに……初めてあった悪魔と間接キスだなんて。
「しょうがないな――」
『バザッ』
悪魔は、黒い翼が生やした。
げぇ、何してんだよ。荒げそうになった声を抑えた。
黒い翼からは、黒く染まった烏のような羽が、足下へと舞い落ちていく。
俺が不満を漏らそうとした時だった。悪魔の羽は、自由に滑らかに動くと、俺の背中を覆ってきた。
「ぅぇ!?」
俺の身体は引っ張られ、悪魔の隣へと、ぽつんと足が折り畳まれるように座らせられた。
「あら、こんにちは」
可愛い悪意を孕んだような表情の彼女が微笑んでいる。
……全く、強引なやり方だ。
悪魔に力を見せつけられていた気分だが、俺は恐怖に駆られていることはない。
どこか力が抜け落ちたような気分になっていた。
「あれ?怒らないの?」
「え?」
怒ると思っていたのか?自分でしておいて?
その思考回路にも驚きたがな。まぁ俺もこんなことで、怒鳴ったり、キレたりするようなガキではない。いや、ガキだったら、恐怖でちびったりしてんじゃないのか。
「怒るわけないだろ、悪魔だから、何されるか覚悟はもうあるしな」
「おい、お前!?」
「はは、お前も悪魔か、言うようになったな」
悪魔は高笑いしていた。喜びような悪者ではなく、酒豪のおっさんのような気分だ。
「俺も今なら、お前にも負けないかもな」
俺は一度どころではなく、初めの頃は何度も戦いを挑んでいたが、一度も勝ったことはなかった。
「それはないだろな」
「一緒にいてくれるか?」
ケーキを食べる手を止めて、俺に大きな声で、声を掛けた。
「一緒にって何だ?」
俺は素朴に疑問をぶつけた。
「まぁ敵がいたりとか、罪についてだったり色々あるけどな」
何の話だ?敵?罪?
それがどうしたんだ。もしかして……俺に。
「お前、その調子だったら、まだ続ける気があるようだな」
さっきよりも悪魔の口角が上がった。
「だったら、」
「端的に言うと。」
『これからも宜しく』
「ってことだよな」「してくれる?」
ここから、これから、敵とも向かい合うことになることを俺には分かっているが、返事は一つだ。
「当たり前だろ」




