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クール王子とご対面

「ほら!キャリー!」

「ア……ア……アラン様ぁあ!」


は……恥ずかしい!!!

言われた通り甲高い声を出し語尾をのばしてみたものの、自分の声ではないみたいだった。


「お兄様!」


セレーナ様も呼びかける。


すると背の高い黒髪の後ろ姿がゆっくりと振り返った。


息を呑む


艶やかな黒い髪を揺らしながら、黒にも見える神秘的な深い群青の瞳がこちらをみた。

直視できず目を伏せてしまった。


「セレーナ?高等部に来るなんて珍しいじゃないか。」


「お兄様、きちんと紹介したいお友達がいましてよ。」


セレーナ様がそう言えばアラン様の視線がこちらを向いたのがわかる。


「ハーフナー伯爵令嬢キャロライン=ガンボール嬢よ。キャリー、こちらが私のお兄様。アランよ。」


「君が……。いや失礼。モリス侯爵家が長男のアラン=マルルロードだ。よろしく。」


「キャロラインです。よろしくお願いしますう、ぅ」


震えそうになる声をどうにかおさえながら、何とか語尾を伸ばして丁寧にお辞儀をした。


「キャリーは交流を兼ねてこちらの学園に通い出したというのに会う機会がないようだから、連れてきたわ!同じ学校に通っているのに勿体無いでしょう?」


「……そうだな。」


「また来てもいいでしょう?お兄様。」


「……学校内はどこでも俺の許可などいらないだろう。」


「いいという事ね!わかったわ!では戻りましょう、キャリー。」


少し不機嫌のようなアラン様に気にする様子のないセレーナ様は明るく言うと機嫌よくクルリと踵を返した。


「え、ええ!では失礼いたします。」


ああ、ドキドキしすぎて息が苦しい……

目なんて合わせられなかったと言うのにこの体たらく。


あの方が私の婚約者?

冗談だと言われても信じるわ。


「キャリー?」


「え、はい!」


「さっきから呼んでいるのに……でも気にする事ないわ!誰に対してもあんな感じで素っ気ないのよ。折れることはないわ。次からはもっと強引なくらいでちょうどいいわよ。」


黙り込んでいる私をみて落ち込んでいると思ったらしい。


「アラン様にお会いするのは1年以上振りだったから、少し緊張してしまったの。気にしていないわ。」


しかも会ったと言っても視察に来られていたのを遠くから見ていただけだ。

対面し、挨拶まで交わしたのは初めてだった。


まだどきどきと興奮冷めやらず、震える手でウィッグを外す。


「でもきっとキャリーのあの喋り方にグッと来ているはずよ……あら?外してしまうの?」


「ええ、借り物ですもの。」


「ではメイクが合わなくなってしまうわね。メイクを落とす?」


「そうね。そうするわ。」


私は授業に出なくても問題はない。

だからこその提案だろう。

私はセレーナ様と別れ、おば様の研究室でメイクを落とした。


(本当にアラン様はあんな喋り方で引いていないのかしら。)


甲高い声と語尾をのばす喋り方は地方の田舎では少し幼くみられるだろう。


王都ではそんなことないのだろうか。


でもセレーナ様がそう言うのだから、少なくともアラン様は不快ではないというのは嘘ではないのだろうけど……にわかには信じ難い。


そんな風に思っていた私に、次の日に至極意外な内容の手紙がアラン様から届いたのだ。




『突然の訪問は驚いたけれども、嬉しかった。君の可愛らしさにどれほど私が歓喜したかわかるだろうか。私の名を呼ぶ声や喋り方に思わず立ち尽くしてしまうほどの愛らしさだった。是非また高等部へ来てくれはしないだろうか。』



ハーフナー領に居た頃から見ているアラン様の文字。

見慣れたその文字でまさかの文章が綴られている。

その衝撃たるや。



「ほうら!やっぱり喜んでいるでしょう?!昨日も帰宅してからお兄様ったら随分機嫌が良かったんだから!」


馬車の中で手紙を読み、それを横から覗き込んでいたセレーナ様が興奮気味に言った。

私は間抜け顔を真っ赤に染めてセレーナ様を見つめ、そしてまた手紙に目をやる。


『ウィッグまで被って私の好みに近付けてくれるなど、そこまでしてくれる令嬢など今までいなかった。いやこれからもいないだろう。きっとハーフナー伯爵令嬢、君だけだ』


キュと胸が痺れる様に縮こまる。

私だけを特別かのように言ってくれるその文章に、昨日の恥ずかしさなどすべて吹っ飛んでしまった。


(嬉しい……)


単純にそんな気持ちが湧き上がった。


ぽーっと舞い上がっていると興奮冷めやらぬセレーナ様が声を上げた。


「こうなったら毎朝行きましょう!本当にお兄様っておモテになるから、あなたが婚約者だって知らしめないと!」



この言葉を皮切りに私は毎朝学校につけば皆にメイクを施され、ウィッグをつけて、高等部に通う日々が始まったのである。







「アラン様~ぁ!おはようございますぅ~!」


甲高い声で呼び掛け、腕にしがみつくときはいつも緊張する。

ほぼ勢いで飛び付いているようなものだ。

そして極度の緊張でアラン様の反応など知る由もない。


そうしてスイーツの話やアクセサリーの流行の話など、セレーナ様に教えてもらった話をする。

アラン様は外では無口なのでとにかく強引に話をしろとセレーナ様に言われていた。

でなければ静まり返ってしまうため、アラン様も私も困ってしまうからと。

そうしている内に始業の予鈴がなる頃になり、アラン様から戻るように言われ私は戻る。


これを毎朝続けている。




『いつも君への好意を示す事ができず済まない。しかし誤解しないでほしい。君の話し方や仕草。すべて好ましく思っている。スイーツやアクセサリーの話が好きなところも魅力的だ。侯爵令息として体裁を取り繕わねばならない私を許してほしい。』



セレーナ様から手渡されるアラン様からのこのお手紙がなければ恥ずかしくて毎日続けることなどできなかっただろう。



「悪役令嬢のような御令嬢は少し破天荒だから、お兄様があからさまに喜んでみたりすれば少し体裁が悪いわ。でも毎日来る婚約者に絆されて態度を軟化しているなら体裁も保てるの。お兄様ったら家では上機嫌で私にもキャリーによくよくフォローしておいてくれなんて言ってくるのよ!だから塩対応でも安心して頂戴ね!それにしてもすごいわキャリー。大成功よ。」


セレーナ様もニコニコと私の努力を讃えてくれる。

アラン様に喜んでもらえているのが単純に嬉しくて、毎日恥を忍んで頑張っていた。


それでも思う事がある。


アラン様の好みのタイプだとはいえ悪役令嬢は私とは真逆の個性を持った人間だって自覚している。

長い目で見れば相手にして貰えなくとも、いつもの自分で対面するべきではないのだろうか。


そう思い始めた頃まさかの出来事が起きた。




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