エピローグ モリス侯爵家当主執務室にて
遡れば3年近く前の事。
「修道院からセレーナを王都に戻そうと思っている。」
そうアランに伝えればどういう行動に出るのか。
このまま婚約破棄に伴う罰にアランが何も物申さぬなら、廃嫡する予定だった。
「この件に関しては一切口出ししないと一筆書いていただけますか。」
ようやく息子のアランがそう申し出た。
渋々を装いわかったと返事をしたが心の中は真逆だ。
油断すれば口元が緩みそうになるのを堪える。
よくぞ言った!
これなら次期モリス侯爵家当主を任せるに値する。
娘だから甘いと言っておったがそんな事はない。
私は貴族筆頭侯爵家当主なのだ。
セレーナのような悪戯の範疇も分からぬ阿呆は元から隣国に行かせ戻す気はなかった。
モリス侯爵家を舐め腐ったカーティス子爵家とマーチ男爵家は最初から潰す気だった。
ただそれはアランが考えアランの手で為さねばならなかった。
学園で名を上げた。新聞に載った。
だからどうしたというのだ。
学生の内は頑張れば評価はついて来るものだ。
頑張りだけではどうしようもないのが貴族社会だ。
アランはあまりにも実直すぎる。
貴族社会をうまく生き抜かねば家名も領民も守れぬわ。
エイレン次期侯爵はなかなかどうして手強い相手だ。
不興は買いたくはない。
このようなゆるい罰のまま放置すれば次期侯爵も黙ってはいなかったろう。
アランが学園を卒業するまでに何の動きもなければ私がやるつもりであった。
それが、だ!
まさか!
それだけに留まらず、キャロライン嬢をもう一度手に入れるとはな!!
我が息子ながら恐ろしい執念だ。
だが、それでこそモリス侯爵家次期当主。
やるではないか!
キャロライン嬢との報告を受け取った時など久方ぶり声を出して笑うたわ!
「聞いたかお前!怖い怖い!おお怖い!彼奴め、蛇のような執着ぶりよ!」
執務室で妻に語りかけ、アッハッハと堪えきれず笑い出すと、もう止める事など出来ない。
「ゾッとするな!接近禁止からよくぞまあ……ヒッヒッヒ!腹が痛いわ!!」
腹を抱えて蹲るも笑いが止まらず立ち上がる事もままならない。
「ハハハハ!ハァハァ……!キャロライン嬢もフフフ!恐怖を感じなかったのかね?なあ?お前。ハ……」
ようやく笑いも落ち着き妻の方をふと見やれば、冷やっとした視線が突き刺さる。
扇子で口元を隠しこちらを見ている妻の目は冷ややかそのものだった。
「ん……コホン。まあ彼奴もよくやった。次期当主に相応しい働きであったな。」
膝を払い立ち上がると颯爽と執務机の前に座る。
手を組みそこに顎を置くと厳かに言った。
「帰ってくれば褒め言葉のひとつでもくれてやろう。」
フッ!!!
空気の漏れる音がした。
見れば妻は扇子で顔を完全に隠し俯いて肩を震わせていた。
ほらみろ!!
お前だって可笑しかったんじゃないか!
我が息子ながら怖いわって思ったのだろう?!
笑っている妻の姿を見るとまた笑いが込み上げてくる。
わっはっはっはっ
執務室に再び笑い声が響く。
しかし妻は息子の初恋の成就に大はしゃぎする私の姿を笑っていた事を後に知る。
クソッ




