表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はあなたのために  作者: くきの助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/54

アランの再会

捨てたもの

焦がれる程欲しいもの


それが同じものだなんて悪い冗談だ。




みんな煙草を吸うようになったのは意外だったなあ、と言ったのはニコラスだ。

俺は指の代わりに煙草を咥えているんだ、と言ったのは誰だったか。

皆で笑った事は覚えているんだが。


そしてあながち間違ってはいないと小さく呟いたのは俺だった。



いつも心から離れないのはリーネの事。


もうずっと引き摺って生きていくのだと割り切れば少し楽になった。


ただただ仕事に邁進する日々。

この国を良くすれば、結果リーネにも幸せをもたらす事だと、モリス領を安全に過ごせるよう整える事が隣接する領にも恩恵がある事だと、そう信じて。




もうすぐ始まるハーフナー家と共同での橋の建設。

先に確認したい事が多くて、早めにモリスの領主邸に入ったのがつい先日。


そして今日はずっと遠くまで見渡せる丘に登り、川の流れを見つめていた。

来週から始まる橋の工事のことを考えながら煙草を咥える。

川の側にぱらぱらと人が見える。

そういえば今日はハーフナーの領民が下見に来ると報告を受けていたな。


煙草に火を付けようとして、火をつけ損なった。

もう一度やるもまた失敗する。

何度も何度もやって、嗚呼もう吸うのは諦めようかと思った時ようやく上手くいく。

苦笑いを浮かべながらゆっくりと吸い始める。

どのくらい煙を燻らせていたか。

遠雷が聞こえて我に返った。


見れば遠くに怪しい雲が近付いている。

煙草の火を消す。

今のうちに帰らねば。


するとガサガサと人が来る気配がした。


「そこの御方!」


ハッとする。

聞き覚えのある声に勢いよく振り返った。


「雨が降りますよ!」


言いながら木の間からぴょんと飛び出てきたのは可愛い小リス。


あの時と同じ。


あんなに想い焦がれた煌めく琥珀の瞳が俺を映している。






これは……


俺の願望が見せた夢なのか?



思った瞬間轟音が鳴り響いた。


丘の向こうの木が燃えている。

雷が落ちたのだ。


不味い。


上着を脱ぐと耳を塞いでしゃがみ込んだ彼女に被せる。


「こちらへ!」



確か近くに出張った岩があった。

そこを屋根にすれば雷も雨も避けられる。


なんとかそこに辿り着いた頃には、さっきよりも強い雨になっていた。



大丈夫か


何故ここに


寒くはないか


聞きたい事は沢山あるが口から出た言葉はひとつもない。

沈黙が続くばかりだ。


当然だな


きっと彼女は俺を恨んでいる。


俺に出来る事はといえば、今すぐここから立ち去ることだ。



私は人を呼んでくる。

君は雨が緩くなるまでここにいた方がいい。



そう彼女に言おうとした時だった。


「上着を濡らしてしまって申し訳ございません。」


リーネが上着を頭から被ったまま話し出した。

顔は見えない。


「構わない……」


不意に話しかけられ返した返事は自分でも情けないくらい小さな声だった。


「ご活躍はかねがね存じております。本日はいらっしゃるとは思わず、ハーフナー領の皆と工事の下見に参りました。」


「そうか……」


ザンザンとバケツをひっくり返したような雨が降り続く。


あれから4年だ。

学園も卒業し、王城に勤め、ずいぶん成長したつもりだった。

なのにどうしてこうもリーネの前では昔のままなのか。


思わず唇を噛んだ。


「この上着は乾かして兄に渡しますので、暫しお借りします。では、私はこれで……」


あっという間もなくリーネは雨の中を出て行こうとした。


「リーネ!!」


思わず腕を掴んだ。

本気で駆け出そうとしていたリーネは予想せぬ力にふらついてしまった。


転ぶ!


被せた上着が宙を舞う。

思い切り彼女を引っ張ると、ボスという音と共に自分の胸に重さを感じる。

またたく間に俺の腕の中に彼女の体がすっぽりおさまってしまった。



どうしてこうも4年前と同じなのか。


掴んだ腕も、彼女の体温も。


腕の中を見やると震えるまつ毛が見えた。



言葉にならない気持ちが湧き上がる。



いつも俺の中で燻っている気持ちは後悔。


あの時、婚約者だった君ときちんと向き合っていれば。

あの時、手渡された手紙を躊躇せず受け取っていれば。


あの時、あの時…………


思い返せばキリがない。



いいや


違う。


これらは全て言い訳で本当に後悔しているのは……



「好きだ。」



格好ばかりつけてこの一言を伝えなかったことだ。



「好きなんだ。リーネの事が。」



いつの間にか請う様に俺を見上げていた琥珀の瞳に、衝動的に口から想いが溢れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ