辺境伯領の学園
最近周りが忙しそうだ。
父や兄は隠しているけれど、私は知っている。
モリス領との境の川で橋の建設が始まるのだ。
必死に隠されているのは、モリス侯爵家と関わるからだろう。
大規模水害があって氾濫しやすくなっていた川の治水工事は済んだけれど見に行った事はない。
本当は見に行きたいけれど、私を思って隠しているのだから私も知らないふりをしている。
王都から帰って来てもう4年。
私はあの時のアラン様の歳をすっかり追い越し、辺境の学園高等部の3年生になっていた。
高等部に入れば友達もでき、それなりに楽しい学園生活を送ってる。
モリス侯爵令息と婚約して解消された令嬢というのは皆知っているけれど、意外とそれを当て擦られる事もなかった。
そんな中とりわけ仲良くなった令嬢がいた。
オルコット子爵令嬢のジョアンナことジョーだ。
彼女も飛び級で中等部は通っていなかったらしい。
きっかけはとても些細なこと。
道具オタクのギブ兄さんが作ってくれたからくり箱を私が持っていた事で話すようになり、
実は彼女自身もからくり箱を作るのだと聞いて、見せてもらったりしている内に親しくなったのだ。
ジョーと2人で図書委員になって、放課後は図書の貸出カウンターに座ると、彼女はずっとからくりの仕掛けや、建築の話をしてくれる。
私はそれが楽しくて仕方がなくて、気がつけばあっという間に時間が経っている。
そして思う。
友達というのは懸命に作るのではなく、自然と出来るものなのだと。
必死にセレーナ様達の仲間になっていた私はなにもかも間違えていたのよ。
そんなある日、ジョーに言われた。
「たまーに聞かれるのだけれども、新聞でよく見る氷の貴公子アラン様の想い人って貴方のことなの?」
こういうハッキリと物言うところが、人によっては敬遠されている様だけれども私は好きだ。
「違うわ。王都の子爵令嬢の事よ。」
「あら、そうなの。ではあなたが婚約者だったというのもデマかしら?」
「それは本当だけれど昔の話よ。私は侯爵夫人に相応しくないもの。」
「相応しいとかあるの?高位貴族って難しいのね。」
それでこの話は終わってしまった。
あっさり違う話題に移った時には笑ってしまいそうになったけれど、もう自分の気になることは聞いたし、ジョーはもういいのだ。
図書室には王都の新聞も置いてある。
たまにアラン様の話題が一面を飾る。
そこに書いてある文字はいつも『もう届かぬ想い人のために』だ。
メグ様とアラン様がひっそり心通わされていた事を、皆は知らない。
だから元婚約者の私が想い人だと勘違いしているのだろう。
新聞を見かけるたび、あの方の邪魔にしかならなかった私の恋を思い出して恥ずかしくなる。
アラン様に恨まれているのではないかと思うけれども、もうそれもわからない。
一生知る事もないだろう。
アラン様は新聞の一面を何度も飾るような立派な方。
たかが地方の伯爵令嬢の事なんて、とうに忘れているわ。
そして私がなぜ家族から隠されているにも関わらず、橋の建設が始まる事を知っているのかというと、建築好きのジョーがキラキラとした目をしながら教えてくれたのだ。
「父から聞いたのだけれど、リーネの領地は大規模な橋の建設の計画があるんですって?どういう橋をかける予定なのかしら?貴方は設計図とか見たりはしないの?」
ジョーはもちろん私は知っていると思って聞いたのだろう。
驚いた顔の私を見て、私より驚いていた。
知った以上、いつまでも知らないふりなんてできないわ。
一度聞いてみようかな。そして言ってみよう。川の様子を見に行ってみたいって。




