ハーフナー家 兄達の語らい
俺ロビンは兄のギブと夕食後ドローウィングルームで酒を飲みながらコソコソと話していた。
「リーネには知られていないだろうな。」
「多分ね。多分気付いていない。まー領境の橋の建設が始まる事くらいは知ってるだろうけどね。」
「クソ!それは知っているのか!」
「ギブ兄。さすがに工事を隠し通す事なんて出来ないよ。ただアイツが来る事さえ知られなければいいんだ。」
呆れた様な声を出しながら宥めるように俺が言う。
「アイツさえ来なければここまで隠さなくてもいいものを!なんであんな治水や橋に詳しいんだ!」
「つい話し込んじまうよな、悔しいけど。」
アイツ、とはアイツ。
アラン=マルルロード=モリス侯爵令息の事だ。
治水工事がひと段落し橋の建設にあたってアイツが関わる事になった。
関わるに相応しいだけの知識を持って。
ああ、本当に忌々しい、とブツブツ言っているのは一番上のギブ兄だ。
可愛い妹が初恋の君と婚約し、王都に行ったのは4年ほど前の話。
そうしてたったの4ヶ月足らずで帰ってきた。
事の詳細を聞いた時には怒り狂ったのだけどリーネがもういいの、と言うものだから黙るしかなかった。
「だいたい新聞に想い人だの何だの、迷惑だ!こんな田舎にまで記者が来たんだからな!記者が来なくなったと思ったら今度は橋の建設にはアイツが来るんだから、本当に嫌になる!そもそもこんな未練がましい事を言うなら最初からリーネを大事にしていればよかったんだ!」
それは本当にそうだ。
婚約破棄に至った事の顛末はお粗末なものだった。
詳細を聞けばアイツとリーネは結局相思相愛だったのだ。
アイツの妹に嵌められなければ学校卒業と同時に結婚していただろう。
結局誰も幸せにならない婚約だった。
そういえばと僕は呟くように聞いた。
「記者ってのはもっとしつこいものだと思っていたよ。ずいぶん諦めがいいもんだね。」
「ロバートおじが来た時に相談したら一発だ。だがおじが何をやったのかは知らん。」
エイレン次期侯爵ことロバートおじは権利や契約など全く気にしない父さんに代わって全部取りまとめてくれている。
なので度々ハーフナー領に来るのだけれど、その時に相談したらしい。
リーネの事で怒り狂っていたのはロバートおじもそうだ。
「いやあ、リーネをこんな目に合わせておいて、あんなぬるい罰しか与えなかった時はホンットどうしてやろうかと思っていたよ、あのタヌキ侯爵め。あのお坊ちゃんにもあれだけ発破をかけたんだから、いつまでもチンタラしていたらやってやろうと思っていた計画は……まあ結果やらずに済んだのは良かったと言うべきか、残念と言うべきか。」
と語ったのはロバートおじ。
一体何をやろうとしてたんだろうってゾッとしたけど、世の中知らなくていい事はある。
まあ、リーネが辺境の学園であからさまにヒソヒソされることなく通えているのは、モリス侯爵家とエイレン侯爵家が睨みを効かせているからだ、ということだけは言っておこう。
「リーネはアイツが想い人だなんだって言っていること知っているのかな?」
ふと疑問が口からこぼれ出る。
アイツが名前こそ出さないが新聞に想い人と言い出してからしばらくして記者が来るようになった。
どうやら王都では語らずとも彼の想い人はリーネとわかっているらしい。
記者が来た時はリーネも辺境の学園の高等部に行っており、鉢合わせすることはなかった。
リーネも何も言わないから知らないと思い込んでいたけれども……
「田舎に王都の新聞は珍しいし、こっちじゃあまり目にすることはないだろう。それよりアイツ本人がハーフナー領すぐ近くまで来る事が問題だ。絶対に合わせない様にしないとな。また嫌な事を思い出してこれ以上傷つく必要なんてないんだ。」
お隣さんは変えられないとは言え、あの出来事からまだ4年しか経っていない。
リーネは高等部に上がってからは家に招くようなお友達もできた。
建築好きという面白い御令嬢だ。
楽しそうに学園に通うリーネ、そこに水を差したくない。
そもそもお嫁なんかに行かなくてもこの家でずっと一緒に研究をしていればいい。
リーネが数値を出してくれないと俺たちの研究も捗らないもんな。
居てくれるだけでいいんだ。
そしていつかいい人が現れたらって、皆それだけを願っているんだから。
「そうだ、アイツが来るのは来月からだったよな?」
はたと思いついたようにギブ兄が言った。
「そうだね。アイツも仕事があるらしいからね。長期に休みが取れるのは来月からと言っていた。それが?」
「アイツが来る前ならアイツとはち合わすこともないだろう。あえて今リーネを連れて行って治水工事の川や橋の計画を見せてやろう。この先も確実にいない日を見計らってリーネを連れて行って進捗状況を見せてやればいいんだよ。下手に隠すよりその方がいいだろう。」
「そうだね。リーネも興味あるだろうに、隠すなんていい加減可哀想だ。」
行きたくないと言えばそれでもいい。
こちらが変に気を使っているように思っていても心苦しいものだ。
リーネも治水や橋の話を避けなければならない、なんてさ。
今度聞いてみよう。
一度見に来るかってな。




