王都を去る
三ヶ月という短い期間で私は王都を去った。
婚約はもうすぐで一年というところで破棄された。
アラン様との婚約は田舎ではあっという間に知れ渡ったというのに、この体たらく。
両親や兄達に申し訳なくハーフナー領に帰るのも気が重かった。
夏の長期休みに入ったからと、ステラおば様も一緒にハーフナー領に戻った。
おじ様が事の顛末をお父様に手紙で送っていたので私がわざわざ話す必要はなかった。
たった三ヶ月、しかも醜聞まみれで帰ることになった私を両親も兄も、叱ることもなく気遣ってくれた。
「本当に厳罰を望まないのか?」
お父様にはそれだけを聞かれた。
厳罰を望まない。
これはロバートおじ様に伝えた事だ。
おじ様はきっちり厳罰に処してもらうと意気込んでいた。
でも私の希望も聞いてくれた。
その時に言ったのだ。
何も望まないと。
アラン様は優秀で、何より存在感があった。
きっとこの先アラン様が何かをしようとすればついて行く人がたくさんいるだろう。
人を惹きつける華があるお方だ。
私とは違い未来この国の要となる。
そんな未来を潰すなんて出来ない。
ううん……
アラン様に私が疵だと思われたくなかっただけかもしれない。
私の恋心が不運の元凶だなんて、あまりにも辛すぎる。
ロバートおじ様はわかったと言いながらもこう言った。
「リーネが望まなくても罰はある。モリス侯爵家の名に泥を塗ったのだからね。しかも犯罪まで犯しているんだ。こちらからは何も望まないとは言っておくが、侯爵がどういう罰を下すかまでは干渉できないよ。それでいいかい。」
貴族社会の事はわからない。
だから、それで良いと言った。
アラン様やセレーナ様達がその後どうなったかなどはもう聞かなかった。
秋が来て冬が来て春が来るとまた夏が来る。
王都からハーフナー領に帰ってきて一年が経とうとしていた。
私はますます研究に没頭していた。
ステラおば様から頼まれた苗の研究、父や兄達の研究、それらを数値にしたり図にしたり。
それらは楽しく、ハーフナー領から出ない私は今までと変わりなく過ごしていた。
そんなある日。
お父様のいない時に執務室に入ると新聞が置いてあった。
大きく心臓が鳴り、見出しに釘付けになる。
『若き彗星達!スラム街を変えるのか!』
そんな文字と共にアラン様の名前があった。
新聞によれば我が国のスラム街の闇は根深いと。
災害の影響でスラム街に住み着いた孤児や老人でスラム街は溢れかえっていた。
教会の管轄になるけれど従来のように保護し面倒を見るのでは手が足りない。
そこで教会はスラム街を管理把握する役目を担い、子供には知識や技術を教え、働けるものは働かせよう、そういう仕組みを学生達で考え、国に提出したという記事だった。
これはニコラス様達の勉強会のメンバーで提出したものだろう。
私なんかアラン様の疵にもならなかったわね。
思わず笑みが溢れた。
私ももうすぐ高等部に進む。
高等部に飛び級はないので学生生活をしっかり送らなければならない。
大丈夫。
私だってやれるわ。
まだ胸は痛むけれど。
顔をしっかり上げると前より景色が明るく見えた。




