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アランは小リス令嬢を知る

「ハーフナー伯爵令嬢とのお茶会で何かあったのか?」


週明け学校で顔を合わせて開口一番こう言ったのはニコラスだ。


いつもならキンキン声を引っ提げて来るはずのハーフナー伯爵令嬢が来ないからだろう。


俺は結局あの後ニコラスの集まりにも行かなかった。

出掛けるような気分じゃなくなったのだ。


「何かどころじゃない。最悪だ。」


そう言えば期待を込めた目でニコラスがこちらを見てくる。

期待通り話すのも癪に障るが、俺も誰かに話したかったのかもしれない。

事の顛末を話して聞かせた。


「成程!ハーフナー伯爵令嬢は光の王子とクール王子を天秤にかけて、光の王子を取ったというわけか!」


ベルラトール伯爵令息は、華やかな外見や人当たりの良い明るい性格から光の王子と呼ばれているらしい。


「何なんだ、それは。」


ニコラスの言いように不快感を示すものの、ハーフナー伯爵令嬢がこちらをキャンセルして向こうのパーティーに参加したのは事実だ。


「あと、俺をクール王子っていうのもやめてくれ。」


ただただ口下手なだけだ。



「俺が言っているんじゃない。学園のご令嬢達がそう呼んでいるだからいいじゃないか!なに、そこが良いって言われてるんだぞ。」


そう言うと感慨深げに成程、ともう一度繰り返した。


「だから今朝は来ていないのか。お前に文句を言われる様なことをしていると一応はわかっているんじゃないか。」


そう言われて俺は思わず顔を顰めた。

流石に今日は朝来たら文句の一つでも言ってやろうと思っていた。

そうしたら今朝は来ないのだから怒りよりも今は呆れている。


俺は軽く手を上げ嘆息すると、これ以上この話をしても仕方がないとばかりにニコラスに違う話題をふる。


「それより、週末の集まりはどうだったんだ。何か面白い意見を言ったやつはいたか?」


「ああ!そうだな!やはり都市部の治水に興味津々だ。中でも興味深かったのが……」


ニコラスの話を聞きながら悔しい気持ちになる。

今回も集まりは大いに盛り上がったらしい。


治水の話なら俺も意見を聞きたい事がたくさんあった。


しかしまあ、言っても仕方がない。

彼の話を聞き、興味を持った意見は後で調べる事にしよう。


「そうそう!本題も盛り上がったが、今回は後の雑談も盛り上がってね。テーマは田舎の貴族令嬢だ!」


討論の後は皆で軽食をつまみながら雑談をして帰るのが勉強会の恒例となっていた。


「田舎の貴族令嬢?」


嫌な予感がする。

顔に出ていたのか、ニコラスが慌てたように言った。


「いやいや、まあ……ハーフナー伯爵令嬢の話が一切出なかったと言えば嘘になるが……しかし話題の中心は別の人物だ。」


ニヤリと笑うと楽しそうに続ける。


「小リス令嬢と噂される令嬢がいるらしい。」


「小リス令嬢?どこの令嬢だ?」


思わず怪訝な声を出してしまう。


「それが不明!謎らしいんだよ。」


「謎?」


「そう。謎なんだ。」


そして勿体ぶる様にコホンと咳払いをするとまた話し出した。


「事の始まりは……とある令息が期限ギリギリのレポートを放課後に提出しようと教師の部屋を訪ねたことだ。職員棟の裏に畑があるのは知っているだろう?」


「行ったことなどないがな。」


「そう!普通行った事があるやつなんていない。ただ畑があるだけだからな。ましてやご令嬢が行く事などまず、ない。ただその令息は必死だった。本日中に出さねば、期日を過ぎれば決して受け取ってくれない教師だった。」


「トウプチ先生か。」


「ご明察!よくわかったな。」


「俺も痛い目を見た。」


「成程。」


「それでどうしたんだ。」


正直この手の話はあまり興味がない。

適当に相槌を打って早く終わらせるつもりで先を促す。


「その令息は室内に教師がいないから畑に回った。しかしそこにも教師はいなかった。そのかわり畑にはそれはそれは愛らしい令嬢がいたんだと。あまりの素朴な可愛らしさに思わず声をかけようと近づくと……あっという間に逃げてしまったらしい。」


くだらないな。


なぜこんな話題で盛り上がったのか。


俺の頭の中を察したようにニコラスがあわてて続ける。


「待て、まだ続きがあるぞ?その話を聞いて興味本位で何人かの令息が放課後畑に行ったらしい。すると確かに会えるらしいが近付けば必ず逃げられる。それが小リスのようだと、今じゃ小リス令嬢と言われて令息の間では有名らしいんだ。」


そしてその子は畑で先生の手伝いをしているのか、いつも放課後にいるのだが話せたやつはいない。

我こそはと自分に自信のある奴が挑戦するが未だ誰も名前すら聞けた事がないらしい。

一瞬しか会えないもどかしさのせいか、会った奴は皆小リス令嬢に夢中になってしまうそうだ。

おそらくは田舎の貴族令嬢であろう、素朴で飾り気がないのに愛らしさに溢れていると。


「トウプチ先生に聞けばいいじゃないか。」


「まあ、その通りなんだが先生は自分で聞けと。」


「先生らしい。」


トウプチ先生は女性だがハッキリとした気持ちのいい女性だ。


「ま、謎めいた令嬢の話題で持ちきりだったって話さ。」


「へえ。」


「まあ、お前ならその程度の興味だと思ったよ!」


俺の返事に声をあげてニコラスは笑った。


そうしてその話はそれで終わった。

終わったはずだった。



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