表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

第九話:アウグストゥス、パクス・ロマーナの建設

あらすじ


 紀元前三一年頃、カエサル(創造柱)の劇的な死と、その後の混乱(内戦)を経て、オクタウィアヌス(後のアウグストゥス、建設柱)が最高権力者となる。

 彼は、共和制の形式を尊重しつつ実質的な権力を集約するという緻密なシステムを建設し、ローマをパクス・ロマーナという長期的な平和と繁栄の時代へと導く。この建設は、中華の漢と並行し、東西文明の建設の到達点となる。


本編


 カエサルが暗殺された血塗られた元老院から十数年。内戦の嵐が地中海を吹き荒れた後、アクティウムの海戦でアントニウスを破ったオクタウィアヌス(建設柱)は、ローマの最高権力者となった。

 彼の顔には、かつての若きカエサルの後継者としての熱狂はなく、極めて冷徹な政治家の表情が刻まれていた。彼は大理石の机の上に広げられた地図を見下ろし、指先で巨大な帝国の隅々をなぞった。指先に触れる大理石の冷たさが、彼の建設への意志を研ぎ澄ます。

 彼の建設の使命は、一時的な支配ではない。

「カエサルの創造の意思を継ぎ、私が建設すべきは、人の寿命を遥かに超える永続のシステムだ」

 彼は権力を隠すという緻密な建設方法を選んだ。自身を「プリンケプス(第一の市民)」と呼び、元老院という共和制の旧い枠組みをあえて残すという決断をした。

 彼は元老院議員たちを前に、静かに宣言した。

「私は、この地に平和を取り戻すために全権を行使する。だが、共和制の伝統は護る。ローマは市民のものだ」

 彼の行動は、人々に「共和制は続いている」という安堵をもたらしながら、カエサルの帝政の要素を盛り込み、全ての権限を自らに集中させた。


 紀元前ニ七年、オクタウィアヌスは「アウグストゥス(尊厳者)」の称号を得た。彼の治世は「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」という長期的な安定の時代となった。

 都市は整然と整備され、兵士たちは国境に配置され、地中海の交易路は活気に満ちていた。船の帆が風をはらむ音が、繁栄を運んでいた。

 アウグストゥスは豪華な宮殿ではなく、質素な住まいで過ごし、日々、膨大な文書を読んでいた。彼の眼は赤く充血し、ペンを握る手には建設者としての緻密な労苦が滲み出ていた。彼は臣下に静かに指示を出した。

「法と税制を簡潔にせよ。辺境の最も遠い属州まで、中央の安定が届くように、インフラを敷け」

 彼は法と税制を改革し、帝国の隅々に安定をもたらすインフラを建設した。

 アウグストゥスが敷いたこの安定システムは、その後ニ〇〇年にわたるローマの黄金時代の確固たる礎となった。彼の建設は、個人のカリスマではなく、制度と法の力で帝国を維持する青図の完成であった。


 建設者としての役割を全うしたアウグストゥスは、自らの晩年、ローマが平和を取り戻したことを確信していた。

 彼は崩れかけた壁を指差し、臣下に静かに語りかけた。

「私は、泥でできたローマを受け継ぎ、大理石のローマを残した。これで、私の建設は完成だ」

 紀元後一四年、彼は静かにこの世を去った。

彼の死は、建設されたシステムが次の指導者へとスムーズに権限を移行させるテストケースとなった。

 しかし、彼の建設した強大な帝国はあまりにも大きく、そして安定していた。人々はこの整えられた環境で、自らの進化のため、命をかけて生きぬいていった。時代の転換期として、次の破壊・創造・建設の波が押し寄せるのは暫く後のことであった。次の創造は、帝国を地理的に最大化し、そして破壊は、帝国の精神的基盤を根底から変えるという形で現れることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ