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第八話:ローマ、帝政への創造と共和制の破壊

あらすじ


 紀元前一世紀、地中海を支配する共和制ローマは硬直し始めていた。創造柱はガイウス・ユリウス・カエサルに宿り、ルビコン川を渡るという決断をもって、内乱の勝利者としてローマを統一する。彼には、エジプトの女王クレオパトラ(創造の伴走者)が新たな帝国の形を示唆し、創造を加速させた。その創造が秩序となる直前、マルクス・ユニウス・ブルータス(内なる毒)が共和制の防衛者としてカエサルの命を奪い、役割を終えた創造柱の退出を促す。カエサルの血は、新しい建設への道筋を大理石の床に刻む。


本編


 紀元前一〇〇年頃。中華の統一を果たした後、三柱は地中海を支配する共和制ローマに照準を合わせた。巨大な領土を持つこの国は、内部の格差により硬直し始めていた。

 紀元前四九年。カエサル(創造柱)は自らが統治していた、ガリアでの長い戦いを終えた。元老院から軍を解散してローマへ戻るように命令された報は、カエサルの耳に氷のように冷たく響いた。彼の権力を恐れ、排除しようと画策する元老院の指導者たちの声が、耳の奥でざわめく。

 北イタリアとローマ本土を隔てる、ルビコン川の冷たい水の音だけが響く中、カエサルは馬から降り、川岸の小石を拾い上げては水面に投げ入れた。水に触れた小石の冷たさが指先に残る。彼の眼差しは、元老院が守ろうとする、もはや機能しなくなった「共和制の旧体制」を見据えていた。

 彼は深く息を吸い、胸に手を当てた。

「この硬直した体制を破らねば、ローマに未来はない。新しい統治の形、帝政への道を、私が創造せねばならぬ」

 彼は周囲の将兵に視線を送った後、馬に飛び乗った。馬の皮の匂いと、将兵たちの緊張した息遣いが混ざる。

「賽は投げられた(Alea iacta est)!」

 カエサルは叫び、冷たい川を渡り始めた。軍を伴ってこの川を渡ることは禁じられており、この進軍はポンペイウスら元老院派との内戦を意味し、数百年の歴史を持つ共和制という旧いシステムへの明確な破壊と、ローマの統一という創造への第一歩であった。


 カエサルはポンペイウスを破り、独裁官としてローマに君臨した(紀元前四十四年)。彼は、エジプトの女王クレオパトラ(創造の伴走者)と度々会い、カエサルの心を支えた。

 クレオパトラは、豊かで古い王国の知恵を持ち、カエサルの創造を加速させる役割を担った。彼女は、ローマには欠けている、神格化された王権の思想と、広大な領土を支配するための帝国の形式を示唆した。

 彼女は、エジプトの夜、ナイル川の夜風を感じながら、カエサルの手をそっと握った。風が運んでくるパピルスの微かな匂い。

「ローマが地中海を真に支配するには、古き共和制の枠はあまりに小さいわ。あなたは王となり、新しい秩序を創造せねばなりません」

 彼女の声は甘く、カエサルの創造の心に響いた。

 カエサルは、彼女が示した、神性を帯びた王としての新しい統治の形に強い確信を得た。彼は新しい法を制定し、貧民に土地を与え、属州の再編を進めた。彼の創造は急速で大胆であった。彼は大理石の机に身を乗り出し、夜の光の下、地図に新しい境界線を墨で書き込んだ。


 彼の創造は急速で大胆であり、古い共和制の精神を守ろうとする者たちの目には、暴君に映った。

 その共和制の理念に深く固執し、役割を終えた創造柱の退出を促す役割を担ったのが、マルクス・ユニウス・ブルータス(内なる毒)であった。カエサルに愛され、恩義を受けていたブルータスは、自らの書斎で夜を徹して、古代の共和制の論文を読んでいた。

 蝋燭の火が揺れる中、彼の額には深いシワが刻まれ、口元は固く結ばれていた。古い羊皮紙の匂いが部屋に満ちる。彼の心は恩義と理念の間で、激しく引き裂かれていた。

 彼は机を強く叩き、静かに決意した。木の乾いた音が、夜の静寂を破る。

「私が守るべきは、特定の一人の人間の命ではない。この国が基礎とするローマの自由だ。彼を排除しなければ、共和制は死ぬ」

 ブルータスはカエサルの暗殺を決意した。


 紀元前四十四年三月一五日。元老院の会議場。石の冷たさが足元から伝わる。カエサルは議席に着こうとした瞬間、暗殺者たちに取り囲まれた。彼は抵抗せず、無数の刃が彼の肉体に突き刺さるのを受け入れた。鉄の匂いと、低いうめき声が会議場に広がる。

 ブルータスは、冷たい刃をカエサルの肉体に突き刺した。カエサルは最後の力で、ブルータスの顔を見つめ、掠れた声で呟いた。

「ブルータス、お前もか(Et tu, Brute?)」

 カエサルの血が会議場の大理石の床を赤く、熱を持った帯のように染めたとき、創造柱は、その役割を完了した爽快さを示すかのように、静かに肉体から立ち去った。

 ブルータスは血の付いた短剣を高く掲げ、荒い息を吐き出しながら叫んだ。

「ローマは、自由を取り戻した!」

 しかし、彼の声は虚しく響いた。元老院は混乱し、騒音が飛び交った。自由の再建を目指した彼の行為は、結果として更なる内乱を招くこととなる。

 カエサルが創造したローマの統一は、マルクス・アントニウスとの激しい対立を経て、後継者であるオクタウィアヌス(建設柱)によって揺るぎないシステムとして確立されることとなる。カエサルの破壊と創造が撒いた種は、次の建設を待っていた。

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