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第七話:項羽の最後と漢の創造と建設

あらすじ


 項羽(破壊柱)による徹底的な清算の後、中華は再び混沌に陥る。創造柱は張良に宿り、劉邦(建設柱)を輔弼ほひつし、秦の統一の発想を受け継いぎ、長期安定政権のシステムとして完成させる。楚漢戦争という破壊の渦中、劉邦と張良の知恵と持久力に追い詰められた項羽は、垓下の戦いで壮絶な敗北を喫し、破壊の役割を完遂して退場する。そして漢王朝という二千年続く中華の基礎が、ここに創造され、建設される。


本編


 秦の宮殿が項羽の炎によって灰燼に帰してから、天下は再び諸侯の争いに引き裂かれた。破壊が一掃した焦土の上で、新しい建設の必要性が痛切に叫ばれていた。

 この混沌の中、張良(創造柱)は静かに思索に耽っていた。彼の顔は冷静で、戦場の喧騒の中でも彼の心は遥か先の時代を見通していた。彼は指で砂漠の砂を撫でつけ、何本もの線を描き、そしてすぐに消した。砂の冷たさと、指に残るざらざらした感触を確かめる。

「私が創造すべきは、人々が息を継げる、柔軟な秩序だ」

 彼は無数の思案の痕跡を残した後、竹簡に筆を走らせた。その筆致は迷いがなく、確固たる意志を示していた。彼の創造は、秦の中央集権を維持しつつも、地方の自治を一定程度認めるという秦と周の長所を組み合わせた、新しい統治システムの設計図であった。

 張良(創造柱)が青図を完成させるために選んだ仲間は、はいの無頼漢から身を起こした、劉邦(建設柱)であった。建設柱は破壊柱の宿る強大な項羽を打ち倒し、後を継ぐため、粗野でズル賢い振る舞いをし、粗野なものを集めて項羽を打ち倒す集団を築く。

 劉邦は、張良の緻密な戦略を聞くたびに、粗野な笑い声をあげたり、時には苛立ちを示し、机を叩いた。木の鈍い音が室に響く。

「そんな理屈より、まずは敵を討ち、腹を満たしたいのだ! 先生の策は回りくどい!」

 しかし、劉邦は張良の言葉を最後には必ず受け入れた。彼の目には、張良の創造がもたらす、長期的な平和という建設の完成図への確信が宿っていた。

 ある夜、張良は劉邦に秦の短命の教訓を語った。

「創造者たる始皇帝は、あまりにも性急であったのかもしれない。建設者たるあなたは、法を簡略化し、民の心を安らかにせねばなりませぬ」

 劉邦(建設柱)は酒杯を静かに机に置き、重い息を吐いた後、張良の顔を真っ直ぐ見つめた。酒杯の冷たい感触が指に残る。彼の心には、一時の栄華ではなく後世への責任感が満ちていた。

「承知した。私が欲しいのは、一代の覇業ではない。数十年、数百年続く安寧だ。その建設のために、先生の智恵が必要だ」

 劉邦の妻である呂雉(勢威の加速者)は、その言葉を背後で静かに聞き、決意の笑みを浮かべた。


 張良の創造した戦略、劉邦の建設的な統率力は、楚漢戦争という破壊の渦中で項羽の破壊的な力と対峙した。劉邦は数度の大敗を喫しながらも、決してその場を離れず、張良の策略に従い続けた。

 紀元前ニ〇ニ年冬。垓下の砦は寒風に晒され、項羽(破壊柱)はわずかな兵と共に包囲されていた。夜の闇を切り裂くように、四方から楚の歌(四面楚歌)が聞こえてきた。

 項羽はその歌を耳にし、長年苦楽を共にした兵士たちが次々と逃散していることを悟った。彼は座り込み、愛妾あいしょう虞美人ぐびじんを見つめた。巨大な体躯が小刻みに震え、口元を強く噛み締めていた。彼の心は、力の限界と使命の終焉を悟っていた。

 彼は愛妾に向かい、掠れた声で歌った。声は寒さと疲弊でかすれていた。

「力は山を抜き、気は世を覆う……だが時は私に味方せぬ!」

 彼は顔を上げ、夜空に向かって、最後の咆哮をあげた。その声は冷たい空気を切り裂き、乾いた涙が頬を伝った。彼の破壊は完了していた。秦の苛烈な中央集権も、旧六国の封建的な慣習も、全て彼の力によって清算された。

 項羽は愛馬にまたがり、最後の出撃を決めた。彼は夜明け前の砦から僅か数百騎を率いて、劉邦軍の包囲網を突き破った。彼の剣戟は依然として凄まじく、劉邦軍の兵士たちが悲鳴をあげて散る。

 烏江うこうのほとりに辿り着いたとき、渡し守が声をかけた。川面の湿気が顔に冷たく当たる。

「項王、江東へお帰りください。再起を待つ者がおります」

 項羽は、冷たい川面に自らの姿を映し、長く、重い息を吐き出した。

「破壊は一度で完遂せねばならぬ。再起は混沌を長引かせるだけだ」

 彼は渡し守に頭を振り、船を出さず、追手の中に再び身体を翻した。

 項羽は最後の戦いで数十人を斬り倒し、大地は血で濡れた。鉄と土の匂いが混ざり合う。そして、項羽は自らの喉元に剣を突き立てた。破壊柱の意識が宿った肉体は、自らの手でその役割を完遂し、終焉を迎えた。


 劉邦(建設柱)は、項羽の死を聞いたとき、酒杯を握る手がわずかに震えた。張良(創造柱)は無言で頷いた。これで、破壊は完全に清算された。漢王朝という長期安定政権の建設に一切の障害はなくなった。

 劉邦は皇帝に即位し、張良の青図に基づき、建設を開始した。彼は約法三章やくほうさんしょうと呼ばれる、秦の苛烈な法を簡略化し法を定めることを行い、軽税や労役の軽減を実施した。

 皇帝の玉座に座る劉邦は、巨大な竹簡を閉じ、静かに顔を上げた。彼の耳には、遠くの農村から聞こえてくる、賑やかな生活のざわめきが届いているように感じられた。

「民の呼吸が聞こえる。これが、私が望んだ建設だ」

 秦が創造した中央集権の骨格に、人々の生活という血肉を与えるという建設的な行為であった。ここに、漢王朝という二千年続く中華の基礎が創造され、建設された。

 劉邦の死後、呂雉(勢威の加速者)が漢王朝の建設を強固に守り、権力を握っていく。この関係性は後の源頼朝(建設柱)と北条政子(勢威の加速者)の関係性にも見られるものであった。

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