第四十八話:信頼の連鎖と意識的分層の始まり
あらすじ
「最後の審判」の選別が進行する中、「信頼の連鎖」の概念は、人類の統治機構の根幹である選挙制度へ取り入れられた。最新技術に支えられた身近な個人への信頼投票を通じて、国と世界の頂点へと繋がるピラミッド状の「精神的導き手」の構造が構築される。この意識進化の基盤が整った結果、完全体が発する周波数に応じ、人類は物理的に居住区を分離させ、新たな文明の土台が築かれ始める。
本編
完全体は、東京の緑地に静かに立つ。彼の存在が発する光の周波数は、人類の意識の根幹に作用し、旧時代の無意味な統治機構を解体へと導いた。
まず、選挙制度の概念が根本的に書き換えられた。旧時代のような公約や虚像に基づく「人気投票」は停止した。新しい制度では、人々は日常で最も信頼を置く身近な人物、「自らが心から導きを受けたいと願う者」に対して意志を投じることとなった。
最新の『トラスト・チェイン』アプリは、投票のルールを画面に表示していた。
【新しい投票のルール】
* 投票対象:有権者は身近な人間のみを対象とする。
* 三票制:一人につき一票の投票権と、三票までの被投票権。
* 連鎖の確立:信頼の集積を可視化する。
シカゴの古い集合住宅。一人の女性が、スマートフォンの画面を見つめていた。彼女は、目の前の冷たいデジタルなインターフェースに、自分の人生で最も重い信頼を乗せようとしていた。
彼女は、息をゆっくりと吐き、静かな決意を固めた。
「あの人の言葉には、いつも調和が含まれていた。私は、あの人の意識の導きに従う」
彼女は、知人の名前をタップし、白金に光る「投票」ボタンを押した。その瞬、彼女の心の核から温かいエネルギーが湧き上がり、データとなって空へ昇っていくのを感じた。
この「信頼の連鎖」は、国、そして世界の頂点へと繋がるピラミッド状の構造を自発的に建設した。下層の者は上層の「導き手」に意識の進化を託し、上層の者はその下の層への導きを与え、奉仕を受け、調和の維持を使命とした。この精神的な導きのピラミッド構造こそが、人類の意識進化を加速させる基盤となった。国内の統治構造と人の導きの構造が一致したことで、個人の不満の現れである社会問題そのものが解消していった。
信頼の連鎖によって人類の意識の段階が明確に可視化された結果、物理的な分離が発生した。完全体の発する光の周波数が、人類の共振する周波数に応じた「精神的引力」を地球上に生み出した。
調和の中心、すなわち完全体の指定した場所の周囲では、空気が澄み、土から清浄な匂いが立ち昇っていた。
調和を維持できる周波数を持つ状態以上の人々は、強い心地よさに導かれ、完全体の指定した「調和の中心」の周囲へ静かに集結した。彼らの足元の大地は心地よい振動を伝え、彼らの顔には深い安堵と期待が浮かんでいた。
ロンドンの富裕層であった一人の男性は、旧来の地位を捨て、荷物を最小限にまとめ、大陸を越えて、調和の中心へと歩いていた。彼の心臓は強く、しかし穏やかに鼓動していた。
彼は、悔い改めたことで、ちょうどよい意識バランスを取り戻していた。彼は乾いた唇を湿らせ、自らに語りかけた。
「地位も金も、偽りの安定だった。本当に必要な場所は、この足が導く……調和の周波数が最も強い、あの場所だ」
中間層の人々は、上位の導き手層が発する安定した周波数を目印とし、自らの共振に適した土地へ静かに移動した。彼らの中には、新たな建設に貢献すべく上層へと進む者もいれば、旧い執着を捨てきれず、徐々に周波数を落としていく者もいた。
旧い執着に強く囚われた意識は、高山病に似た激しい頭痛と不安に襲われた。彼らの肉体は調和の周波数に共振できず、体から熱が失われていくのを感じた。彼らは、病や衰弱という自然なプロセスを経て、少しずつ静かに滅びていった。
このピラミッド構造が完成し、居住区の物理的分離が整った結果、旧時代の矛盾(不和の意識を持つ者が、調和を体現できる自然の生き物を追いやり生きている状態)が解消された。
そして完全体の意志に従い、旧時代の都市の残骸が解体され始めた。無用のビル群や国境の壁、無用な道路群は、微かな音を立てて、無害な砂へと変わり、新時代のための清浄な空間が建設された。砂の匂いと新しい土の匂いが混ざり合う。
約三十年の猶予の中で、意識のグラデーションから「旧いもの」が完全に分離し、消滅し浄化された。完全体は、静かに瞑想するかのように、この選別のプロセスを見守った。
「調和の法則は完成した。これより、新しき時代の建設が始まる」
この信頼の連鎖と物理的な調和こそが、人類が自らの意志で建設した進化の加速装置であり、「新新約時代」の夜明けが、刻一刻と迫っていた。




