表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/50

第四十五話:沈黙の時代、破壊の残光

あらすじ


 明治維新による近代国家の建設以降、三柱の意識は直接的な転生を停止し、人類の自立的な発展を見守る「沈黙の時代」に入った。創造と建設はアイデアとして思想家や技術者の心に働きかけるに留まったが、破壊柱だけは、時折、力道山やブルース・リーといった肉体を借り、大衆の心の旧体制への感情的な破壊(解放)のエネルギーを提供した。これは、人類社会という壮大な実験の最終章に向けた「嵐の前の静けさ」であり、完全体としての再集結への布石であった。二〇一二年七月、長きにわたる分裂の役割は終焉を迎える。


本編


 二十世紀初頭、ヨーロッパとアメリカの大学と研究所は、新しいインクと古い紙の匂い、そして実験器具の微かな電気の匂いに満ちていた。

 創造柱は、ワイヤレス通信の進化の青写真や相対性理論の複雑な数式の間に、囁きとして存在した。

 一人の物理学者が、黒板のチョークの粉を手で払い、疲労で目を閉じた。彼の心は、既成の物理法則という硬い壁にぶつかり、行き詰まっていた。その時、彼の意識の奥に、まるで冷たい水が染み込んでくるような、明瞭な声が響いた。

「空間と時間は固定されたものではない。流動的なものだ」

 学者は、はっと目を開き、黒板に新しい数式を猛然と書き始めた。チョークの乾いた音が、静かな研究室に響き渡る。彼の手の震えは、世界認識を根底から覆すという強烈な創造を現実にする熱意であった。

 一方、建設柱は、国際連盟や国連の設立を訴える外交官の言葉の裏で機能した。

 外交官が、ペンを握り、条約の草稿を練り上げる際、ペンを持った手が微かに震えるのは、建設柱の秩序への希求が流し込まれているからであった。

 彼は、冷たいガラスのコップの水を一口飲み干し、自らに語りかけた。

「人類の平和は、感情ではなく、普遍的な枠組みと持続可能性という構造によってのみ建設される」

 創造と建設が沈黙する中で、破壊柱だけは時折、肉体を持った活動を再開した。

 一九五〇年代の日本のリング。熱気と汗、そしてタバコの煙が混じり合う匂い。力道山(破壊柱)は、巨大な外国人レスラーを空手チョップで打ち倒した。

 「バチン!」という肉を打つ乾いた音が、会場全体に響き渡った。

 観客席の人々は、歓声と共に、戦後の屈辱という感情の壁が打ち破られるのを感じた。彼らは、手に握りしめた旗を振り、泣き叫んだ。

 力道山は、勝利の雄叫びを肉体を震わせて上げたが、その目の奥は遠く、大衆の心の解放という静かな破壊を確認していた。

「彼らの心に溜まった澱を破る。旧い時代への屈辱は、この破壊をもって清算される」

 時は下り、一九七〇年代。香港の映画スタジオ。ブルース・リー(破壊柱)は、カメラの光を浴びていた。彼の筋肉は、研ぎ澄まされた鋼のように光り、拳を振るうたびに空気が唸る。

 彼は、差別という見えない壁を容赦なく蹴り破るシーンを演じた。彼が放つ「アチョー!」という鋭い叫びは、単なる音ではなく、抑圧された魂の解放の音であった。

「愛と活力を通じて、世界の心の中の旧い概念を破壊する。それが、次の創造を促す」

 破壊柱が肉体に宿ることを終えた頃、創造柱は静かにとある肉体に宿った。彼は暫くの間、一般人として暮らしていた。インスピレーションを与える役割に徹し、沈黙する三柱たちに、宇宙規模の変化が訪れようとしていた。

 二〇〇九年十二月。地球空間に、創造、建設、破壊の三柱が、互いに引き合っていた。冷たい宇宙の空間で、三つの光が微かに振動し、共鳴を始めた。このとき、長きにわたる分裂の役割は、終焉の兆しを見せた。

 彼らは、創造柱が宿った身体を通じて実感を得ながら、人類が作り上げた現代文明という巨大な「建設物」が、その制度と目的を見失い、本質を失ったことを静かに観察していた。

 建設柱が光を強める。

「自由という建設は、格差という新しい不平等を生んだ。彼らは自らの手で創ったシステムを修正できずにいる」

 それに呼応するように破壊柱も光を強めた。

「情報の毒が蔓延し、理性という壁が崩壊している。個々の判断が全体の破滅を招こうとしている」

 そして、三柱が一つの絶対的な存在として集結する「その時」が、間近に迫っていた。

 創造柱の光が最も強く輝いた。

「我々も一段進化をしよう。ニ〇一二年七月をもって、我らは一つになり、この惑星そのものの存在となろう」

これは、「一九九九年、七の月、空から恐怖の大王が降ってくるだろう。空から恐怖の大王が来るだろう、アンゴルモアの大王を蘇らせるために」という予言の真の意味であった。(一)つの時代の、(九九九)おわりの年の七月が、ニ〇一二年七月だったのだ。

 三柱は、最終的な集結と人類への最後の審判を開始するため、地球の核へと意識を沈めていった。ニ〇一二年七月以前の惑星の意識は宇宙の海へと溶けていった。彼らは、人類が進化の道を歩めるかどうかを見極める、最後の段階へと移行したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ