第四十四話:現代、進化の螺旋と三柱の展望
あらすじ
世界大戦という激しい破壊と、民主主義という新たな建設を経て、物語は現代へと繋がる。人類は、情報技術(IT)やバイオテクノロジーという、かつて想像もできなかった領域で「創造」を加速させる。この現代の創造は、瞬時に世界を繋げる一方で、新たな格差やサイバー空間の紛争という潜在的な「破壊」の危険を孕んでいる。三柱は、地球の内なる空間で、人類の自立的進化の展望と、残された課題について静かに語り合う。彼らの役目は、人類が世界の理に調和し、進化していくことができるかを観察していた。
本編
二十世紀末。アメリカ、シリコンバレーのガレージ。埃っぽい空気と、古い機械油の匂いがこもる空間。一人の技術者が、緑色の光を放つモニターを見つめていた。彼の目の奥には、徹夜の疲れと強烈な集中力が混じり合っている。
彼の指は、キーボードの上で激しく動き、複雑なコードを打ち込んでいた。プラスチック製のキーを叩く乾いた音が、静かなガレージに連続して響く。彼が創り出した「インターネット」という無形のシステムは、国境という旧い概念を破壊し、情報を瞬時に共有するという、広大な創造であった。
「創造」の意識は、この技術者の意識の深部に、冷たい水のような明確な理念の核をそっと置いた。
(情報の無限の共有。知識を分散させ、権力を特定の一箇所に集中させぬ新たな建設の土台を築け)
技術者は、キーボードから手を離し、自分の手を見つめた。手のひらには、熱と疲労の微かな震えが残っている。
「これだ。無数の点が繋がり合う。誰にも止められぬ、分散した知識のネットワークが、新しい文明を建設する」
世界中の無数のコンピュータが発する微かな熱と振動が、地球全体を覆う新しい生命のように脈動し始めていた。人類は、道具を使った創造から、アイデアとデータを使った創造へと進化した。
しかし、この広大な創造の裏側には、新しい形の「破壊」の種が蒔かれていた。情報の格差は、富の集中を加速させ、国家と国家、個人と個人の間に新たな壁を築き上げている。
破壊柱は、宇宙の静寂の中で、地球表面の電子信号の乱れを感じていた。
かつての戦争は、硝煙と血潮の匂いを伴ったが、現代の破壊は、無音のデータパケットと、冷たいコードの流れとなっていた。
破壊柱は、微かな光を鋭くした。
「人類は、創造の力を手にし、新たな毒を生み出した。情報の不均衡と倫理の欠如が、かつての不平等を再生産している」
破壊柱は、電子信号の乱れに自らの意識の光を投影させた。
「この『情報の毒』に打ち勝ち、倫理という建設を行えるかどうか。この試練は、彼らの真の進化を試す最後の壁となろう」
彼は、人類が自ら創り出した新たな試練にどう立ち向かうかを静かに見極めている。
創造、建設、破壊の三つの光の柱は、数千年にわたる人類の歴史を、一枚の螺旋状の絵のように見つめていた。
建設柱が、空間に波紋を広げた。その光は温かく、安定した色を帯びている。
「彼らは、個の自由と、集団の安定を両立させるという建設の途中にある。法と制度を作り上げ、自らの手で秩序を建設したが、彼らの手でどこまでいけるだろうか」
創造柱は、わずかに光を強めた。その光は常に変化し、新しいパターンを作り出す。
「総仕上げの時は近い。文明の終着点、完成された秩序の前に、その文明を築くことができる集団とできない集団に分かれるだろう」
創造柱は、光の波を建設柱と破壊柱に送った。
「後者には、最後の破壊、存在そのものへの破壊を加えることになる」
破壊柱は、光を鋭くし、静かなエネルギーを放った。
「我ら惑星のルールを司るものたちの目的、可能性を探り、この惑星、ひいては宇宙の進化の糧とすること、において人類の役目のおわりは近い」
破壊柱は、ゆっくりと光を揺らした。
「進化をするか破滅するのか、彼らはどちらを歩むだろうか。誰かの思いが誰かを助け、誰かを傷つけもすることを、自らの過ちから学び、進化していくことができるのか。我々はそれを見届ける」
三柱の光は、再び静寂に戻り、人類を監視し続けた。彼らの対話は、人類の歴史の壮大な終章の前触れであった。




