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第四十二話:大村と西郷と大久保、旧きを断ち新しきを建てる

あらすじ


 創造柱は、坂本龍馬の身体に宿る一方で大村益次郎にも宿っていた。龍馬は無血革命という理念的な創造を担い、反戦争派として徳川慶喜(建設柱)に大政奉還の道筋をつけた。一方、大村益次郎は、近代軍事システムの創造を担い、戦争推進派として戊辰戦争を指導し、新政府軍を勝利に導く。これは、創造柱が、被害を最小限に抑えつつ、旧体制の徹底的な破壊と新時代の確実な建設を可能とするために、二つの相反する視点から同時に活動した結果であった。龍馬の暗殺後、大村は近代国家の骨格を築く作業を引き継ぐ。

 そして、一八七一年(明治四年)。大政奉還と戊辰戦争を経て、新しい時代が開かれた。新政府は、中央集権国家という強固なシステムを建設するため、封建的な藩制度の破壊と再構築という、歴史的な難題に直面していた。西郷隆盛(建設柱)と、緻密な設計を担う大久保利通は、まず版籍奉還を成し遂げた後、士族の生活基盤を根本から破壊する「廃藩置県」という非情な決断を下す。これは、彼らが背負う旧友の感情と、国家の未来という巨大な建設との葛藤を伴う、重い局面であった。


本編


 西暦一八六七年。創造柱の意識は、二つの肉体の中で異なる使命を燃やしていた。

 京都の近江屋にいた坂本龍馬(創造柱)は、墨の匂いに囲まれ、ひたすら対話と理念の糸を紡いでいた。

いくさは、最終手段じゃ。人が生き、物が動く、新しい世の青図は、血を流さずにこそ、永続する」

 龍馬の指先は、紙の上の議会制度の文字をなぞっていた。彼は、徳川慶喜(建設柱)に政権返上という平和的な創造を選択させるための言葉の構造を創造していた。彼の心は、戦争を回避することに集中していた。

 その頃、長州藩の軍営にいた大村益次郎(創造柱)は、硝煙の強烈な匂いと鉄の冷たい感触に囲まれていた。彼の傍らには、ヨーロッパ製の地図が広げられ、測量器具が並んでいる。彼の目は一点に集中し、旧態依然とした武士の戦い方を、冷徹な論理で破壊していた。

 彼は、部下に銃の射撃訓練の号令をかけ、銃声の轟音の中で、静かに語った。

「武力は、新しき世の建設を確実にするための道具に過ぎぬ。感情ではなく、理に適った兵制を創造しなければ、世界に太刀打ちできぬ」

 大村の指は、紙の上の兵力配置図を正確に示していた。彼は、戊辰戦争という避けられぬ破壊を、最小の犠牲で勝利に導く最新のシステムを創造していた。彼の心は、戦争を合理的に推進することに集中していた。


 慶応四年(一八六八年)。戊辰戦争が勃発した。

 坂本龍馬は、暗殺により肉体の役割を終えたが、彼の「大政奉還」という無血の創造の理念は、西郷隆盛と徳川慶喜の建設柱による江戸城無血開城という成果を生み出した。

 一方、大村益次郎は、創造柱のもう一つの肉体として、戦争の最前線を指揮していた。彼は、旧態依然とした幕府軍に対し、洋式訓練と最新兵器を徹底的に活用する戦術を適用した。

上野の彰義隊しょうぎたいとの戦い。大村は、自ら高台に立ち、望遠鏡で敵陣を観察していた。彼の軍服には、微かな土埃の匂いが付着している。

 幕府軍残党の猛攻に対し、彼は冷静な声で指示を出した。

「目標は、敵の本陣。一点に火力を集中せよ。無駄な犠牲を出すな。規律こそが、勝利を呼び込む」

 彼の論理的な戦術は、旧来の士族が重んじた感情的な突撃を無効化した。銃声と大砲の轟音が鳴り響く中、新政府軍は最小の被害で旧体制の牙城を次々と破壊していった。

 創造柱は、龍馬としては内戦回避という大きな目標を設定し、大村としては不可避な戦争を効率的に終わらせるという手段を創造していた。反戦争派と戦争推進派という二つの役割は、被害を最小限に抑えるという目的のために機能していたのだ。


 戊辰戦争終結後、大村益次郎は新政府の兵部省初代大輔に就任した。彼の創造は、戦術から制度へと移行する。旧江戸城の兵部省の建物には、新しい紙とインクの匂い、そして油の匂いが混ざり合っていた。

 彼は、大きな机に身を乗り出し、硬い鉛筆で設計図を引いていた。

 長州出身の山縣有朋が、不安そうな面持ちで大村に尋ねた。

「大村先生。徴兵令とは、士族の誇りを根こそぎ破壊するものではありませぬか。農民に刀を持たせるなど……」

 大村は、顔を上げず、鉛筆の先を研ぐ音だけを響かせた。彼は、冷たい声で伝統に拘泥する視点を破壊した。

「山縣。武士の誇りなど、砲弾の前では無意味だ。国民皆兵こそ、近代国家の建設に不可欠な創造だ」

 彼は、鉛筆を紙の上に置き、両手を組んだ。

「龍馬が無血で国体を創造し、西郷(建設柱)が政府を創る。俺は、その国を守り、永続させるための強固な骨格、近代陸軍を創造する」

 大村は、兵部省大輔として、国民皆兵を柱とする徴兵制度や軍の組織改革という、近代日本という創造における重要な骨格を設計し続けた。

 創造柱は、龍馬の暗殺という悲劇を経て、大村益次郎という一つの肉体に収束し、理念と実務の両面から、新時代の建設に不可欠な創造を完遂したのであった。


 一八七一年夏。東京と改名された旧江戸、旧江戸城の新政府閣議室。窓の外からは、油と蒸気の匂いが、風に乗って微かに流れ込んできた。近代化のインフラが、音を立てて建設され始めている。この近代化のスピードは諸外国も驚くほどのものであった。

 長い机を囲む中、大久保利通は、分厚い公文書を広げ、眉間に深い皺を寄せたまま、冷たい眼差しで紙面を睨んでいた。彼は、薩摩藩出身でありながら、藩という枠を最も危険な旧体制と見なしていた。彼の指先は、紙の端を強く握りしめ、爪の跡が微かにつく。

「版籍奉還は成った。藩主は形の上で土地を返上したに過ぎぬ。だが、真の中央集権を建設するためには、藩そのものの存在を消滅させねばならん」

 大久保の声は、冷徹な計算に基づき、感情の介入を一切拒むかのように低く響いた。

 西郷隆盛(建設柱)は、大きな体を椅子に沈ませ、重い呼吸を一つ吐き出した。彼の視線は、大久保の緻密に書き込まれた文書から、畳の上に移っていた。畳の藺草いぐさの匂いが、彼を故郷の土の匂いへと引き戻そうとする。

「利通。それが、廃藩置県の青図か。分かっている。藩の解体は、すなわち、長年尽くしてくれた士族の生活を根こそぎ破壊するということだ」

 西郷は、自分の膝を強く叩いた。その鈍い音が、彼の胸の内に渦巻く葛藤を示している。

大久保は、西郷の視線から目を逸らさなかった。彼は、冷たい理性の柱として、西郷に非情な真実を突きつける。

「西郷。武士の誇りを優先して、国を保てた時代は終わった。世界は、中央集権の強固なシステムで動いている。個々の藩の感情を尊重すれば、この建設は永続せぬ」

 大久保は、机の上の冷たい木目を、力強く叩いた。その乾いた音は、迷いを許さないという彼の意志であった。

「我々が血を流さずに新しい建設を始めるには、痛みを伴う破壊が必要だ。さもなくば、外国がこの国を破壊する」

 西郷は、椅子から立ち上がり、窓の外の青空を仰ぎ見た。夏の日差しが彼の顔に強く当たり、彼の目元に深い影を作る。彼は、深く息を吸い込み、胸の中の熱い塊を理性の冷気で鎮めようとした。

 彼は、重い足取りで大久保の机の横まで歩み寄り、文書に無言で指を置いた。

「この廃藩置県は、旧い友情を、全て断ち切ることになるぞ。士族たちは、俺たちを裏切り者と罵るだろう」

 大久保は、筆を墨壺に深く浸し、その墨の匂いを吸い込んだ。

「歴史は、建設者の個人的な感情を評価せん。彼らが求める報いは、新しい国が永続することだ。それが、彼らの流した血への唯一の報いとなる」

 西郷は、大久保の手から筆を静かに取り上げた。筆の湿った墨が、彼の指先に冷たく触れる。彼は、筆を紙の上に一瞬止めた。彼の脳裏には、故郷の士族たちの屈強な顔が浮かんでいた。彼らが信頼し、命を捧げたのは、この西郷隆盛であった。

 彼は、感情の波を押し殺すように、筆を強く、決然と、文書の署名欄に走らせた。

「承知した。これは、士族の誇りを破壊する。だが、国家の永続には、必要な痛みだ」

 西郷が署名を終えると、彼は筆を音を立てて墨壺に戻した。その音は、巨大な建設の最初の槌音のように響いた。大久保は、西郷の署名を目視し、かすかに息を吐いた。


 廃藩置県の詔が下された日、旧藩の役人たちが集められた東京の官庁は、激しいざわめきに包まれた。

 一人の旧藩士が、床に座り込み、両手で顔を覆った。彼の嗚咽が、廊下の石造りの壁に反響する。

「藩が、なくなった。我々は、一体、何を信じて生きていけばよいのだ……」

 その落胆の声を聞きながら、大久保利通は、閣議室の窓から外の様子を観察していた。彼の鼻腔には、新しい洋紙とインク、そして新しい時代の建設に伴う人々の不安が混ざった独特の匂いが届いていた。

 彼は、冷静な声で、隣に控える木戸孝允に語りかけた。

「木戸。この痛みは、新しい建設の礎となる。彼らの古い生活を破壊しなければ、新しい法と秩序は根付かぬ」

 木戸は、静かに頷き、厳しい表情で自分の胸元を強く掴んだ。

「大久保。我々は、友人たちの希望を踏みつけている。だが、新政府が欧米の圧力に屈しない強固なシステムとなるまで、この非情を続けるしかなかろう」

 彼らは、旧武士たちの激しい動揺を最新式の政府軍の威光で抑え込みながら、郵便や鉄道といった国を結びつけるインフラの建設を矢継ぎ早に進めた。

 その後、西郷隆盛は、大久保が推進する殖産興業と士族の解体政策との温度差を肌で感じていた。

 ある夜、西郷は、鹿児島の自邸の庭で、月明かりの下、刀の手入れをしていた。研ぎ石の擦れる音が、夜の静寂に響く。

 大久保利通が、長い旅路の後に密かに西郷を訪ねてきた。

 大久保は、静かに西郷の傍に座り、冷たい石の上に手を置いた。

「西郷。士族の不満は、最早、爆発寸前だ。貴殿は、彼らのカリスマとして、政府を離れるという道を選んだ」

 西郷は、刀を鞘にカチンと収めた。その乾いた音が、二人の間の溝を示しているかのようであった。

「利通。お前は政府という器を創れ。俺は、この士族の魂を背負い、最後の『破壊』を担う」

 西郷は、研ぎ終えた刀を、静かに畳の上に置いた。

(俺が政府に負ける。士族の希望は挫かれるだろう。それこそが、明治政府という『建設』を、揺るぎないものとする最後の礎となる)

 西郷の目は、月光に照らされ、悲壮な覚悟に満ちていた。彼は、自己の破滅と引き換えに、大久保に託すことを選んだのだ。創造と建設は、互いの役割を最後まで全うするために、自らの手で悲劇の舞台を整えた。隆盛(建設柱)は各地の士族の高まる不満を発散させ、挫き、落ち着けるため、西南戦争を起こした。カリスマ的存在の自身が政府に負けることで士族の意思を挫き、明治政府の活動にバトンを渡した。


 明治という新時代の建設は、三柱の意識が介入を控え、人類自身の力で進められた。人類は、三柱からのインスピレーションを得て、自立して文明を発展させる時代へと進んだ。彼ら自身が法と制度、そして国家というシステムを建設できる段階に達した。

 その役割の大きな部分を担う者たちは、困難な状況に直面した時、インスピレーションの助けを受けながらも、自力で解決策を見出さなければならなかった。三柱の意識は、介入を最低限に留め、歴史の監視者へと戻るのであった。しかし、これまでよりは人間社会の腐敗のスピードは緩かったが、政府内部、金の集まるところには腐敗が横行していた。


 地球の意識の中、三柱の意識が対話をしている。彼らは、数千年にわたって導いてきた文明が、今、自立的な歩みを始めたことを確認した。彼らの目に映る景色は、蒸気機関車の煙を上げ、電信線が張り巡らされ、近代化の脈動を始めていた。創造柱が、微かに囁いた。

「彼らは、自立して歩みはじめた。今後、私たちの役割は、インスピレーションを与えることになる。その時がくるまでは」

 建設柱と破壊柱も頷いた。三柱は、人類の未来を静かに監視し、インスピレーションを与える役割へと戻るのであった。

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