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第四話:イスラエル統一、聖地の建設と破壊

あらすじ


 周王朝が東遷によって衰退に向かい始めた頃、三柱は西方のイスラエルの地に焦点を合わせた。創造柱は、ダビデに宿り、統一国家の建設という創造を果たす。建設柱は、ソロモンに宿り、エルサレムに壮麗な神殿を建設し、国家に安定をもたらす。しかし、破壊柱は、ネブカドネザル2世として、その硬直した秩序を完全に清算し、「神の真の場所は心にある」という新たな創造の種を蒔くための避けられない試練を与える。


本編


 周王朝が東遷によって衰退に向かい始めた頃。三柱は西方のイスラエルの地に焦点を合わせた。

 創造柱は、ダビデという無名の羊飼いの少年の肉体を選んだ。


 ダビデは、太陽が照りつける丘の上で、羊を見張りながら粘土板に小石で文字を刻んでいた。彼の心には、バラバラな部族を一つに束ねるという、国家の理念が燃えていた。

 文字は王の法令ではなく、神との対話の記録と誓いであった。乾燥した空気と岩の熱が彼の肌に張り付く。

 彼は、巨大なペリシテのゴリアテを打ち倒した後の喧騒を避け、一人で静かに座り込んだ。

 創造柱の意識は、部族間の血縁や既存の権力構造が短命に終わることを理解していた。永続的な統合には、すべての民が共有できる「目に見えない法」の創造が必要だった。

 ダビデ(創造柱)は、竪琴を手に取り、弦を強く弾いた。澄んだ音色が、荒野の風に乗り広がっていく。

「我々を一つに繋ぐのは、王の剣ではない。天の声に応えるという『契約』だ。その誓いこそが国家の青写真となる」

 彼は王位に就き、全ての部族が行き来しやすいエルサレムを都と定めた。そこに、神聖な「契約の箱」を運び入れた。箱の木の感触と重みを確かめ、彼は静かに宣言した。

「私の血の世に契約の神殿を建設する。すべてはこの理念を具現化するためにある」


 父ダビデの死後、建設柱はソロモンの身に宿った。ソロモンは、父の創造した理念を物理的な構造として建設する使命を引き継いだ。

ソロモン(建設柱)は、神殿の建設現場に立ち、遠くから運ばれてくる香柏の深く甘い匂いを吸い込んだ。彼の手は、設計図の緻密な線を指でなぞっていた。

「父が創造した契約は、この黄金と石の構造によって長く続くする。外敵にも、時間にも侵食されぬ強固な形を与える」

 建設が完了し、第一神殿がエルサレムの丘に聳え立った。神殿の内部は純金で覆われ、光が反射し目を眩ませる。儀式の際に焚かれる香の濃い匂いが、常に神殿を満たしていた。

 ソロモンは、父ダビデが準備した膨大な材料と青写真を前に、静かに頷いた。設計図の巻物から微かなインクの匂いが漂う。

 ソロモンの知恵は国家を安定させ、富は国中に溢れた。彼の知恵と富は、周辺国との調和的な交易を生み出した。遥か遠い異国のシバの女王が、彼の知恵の言葉を聞くために砂漠を旅してきた。女王は、神殿の壮麗さとソロモンの言葉に感嘆の息を漏らした。

「あなたの知恵と建設は、天の理そのものです。これこそ、地上の秩序」

 ソロモンが統治する国家には、一時的ながらも至高の安定がもたらされた。

 しかし、富と安定は構造を硬直させた。神殿は儀式に溺れ、王国の富は弱者から搾取された矛盾で膨らみきっていた。黄金の匂いは、もはや腐敗の臭いを隠しきれなかった。

 神殿の金の輝きは冷たくなり、儀式は形骸化し、創造された「契約」の精神は薄れていった。王家の贅沢は貧しい者たちの不平のざわめきを生み、神殿の周りに漂うようになった。

 ソロモンは晩年、玉座に深く座り、冷たい黄金の装飾を手で触れた。彼は静かに息を吐いた。

「形を与えたことが、逆にこの理念を閉じ込めてしまったのか。安定は慢心を呼ぶ」


 紀元前五八六年。破壊柱は、この建設が驕りと矛盾の極限に達した時、外敵として清算する役割を担った。彼は、バビロニアの王、ネブカドネザルニ世の威圧的な体躯に宿った。エルサレムを包囲し、城壁を叩く破城槌の重い音が、数ヶ月にわたり続いた。兵士たちの汗と鉄の匂いが街の空気を濁らせる。

 ネブカドネザルニ世(破壊柱)は、破壊の完了が近づいた城壁の前で馬にまたがり、冷徹に見下ろした。彼の心は、この「腐敗した黄金の器」を完全に砕き、この腐敗した秩序を打ち砕くという論理で満たされていた。

「この建設は病巣だ。切り捨てねばならぬ。神殿の黄金も、王国の石も、すべて焼き尽くせ。硬直した偶像に価値はなく、神殿の石は神ではない。その輝きは民の血と涙で磨かれている」

 彼は静かに手を振り下ろし、全軍に突入を命じた。

 兵士たちが神殿に押し寄せ、黄金を剥ぎ取り、石を砕き、火を放った。炎が天井に届き、神殿の壮麗な木造の梁が燃える激しい音が響いた。炎の熱と香木の燃え尽きる匂いが、エルサレムの空を覆い尽くす。

 契約の箱は失われ、神殿は廃墟となった。イスラエル王国は分裂し、人々は異国の地へと連行された(バビロン捕囚)。バビロンへと連行される捕囚の民は、焼け落ちる神殿を振り返り、絶望のあまり砂を掴んでは落とした。砂のザラザラした感触が指の間をすり抜ける。

 一人の長老が、火を見つめながら静かに立ち上がった。

「神殿は燃えた。契約は失われたのか……いや。契約は我々の「心」の中に建設されたのだ」

 長老は地面に膝をつき、冷たい土に掌を押し付けた。彼の目は、燃える神殿の炎ではなく、遠い未来の民族の精神を見据えていた。

 この壊滅的な破壊は、物理的な神殿を失った人々の心に新たな問いを投げかけ、創造の種を蒔いた。それは、「契約の神の真の場所は、物質的な神殿ではなく、人々の心の中にある」という新たな創造であった。

 この聖地の建設と破壊のサイクルを終えた三柱の意識は、再び中原に焦点を合わせた。

「次の建設は、大陸を統一する強大な秩序でなければならない」

 彼らは、周王朝の衰退後の次の時代、すなわち「中華統一」を果たすための転生先を決定した。

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