第三十八話:マクレラン少将、リンカーンを鍛える創造の試練
あらすじ
東洋で徳川の世が揺らいでいた頃、新しい大陸アメリカでは、奴隷制を巡る対立から国家が分裂の危機に瀕していた。南北戦争の開戦直後、ジョージ・マクレラン少将(創造柱)は、北軍の総司令官に任じられた。彼は、その類い稀な軍事的な才能と、軍隊を最新式に再編するという創造力を持っていたが、決戦を避けるその戦い方は、最高司令官であるエイブラハム・リンカーン(建設柱)の苛立ちを招いた。マクレランの創造は、戦場における「勝利」ではなく、膠着と遅延という形で現れ、結果として、リンカーンを、単なる政治家から、戦争指導者としての「真の建設者」へと覚醒させるための厳しい試練と刺激を与える役割を担う。
本編
一七七六年、ジョージ・ワシントン(創造柱)は、規律なき植民地軍を率い、未だ存在せぬ「国家への忠誠」というバラバラの民を一つに統べる精神的な基盤を軍に創り出し、イギリス軍に勝利しアメリカの建国基盤を整えた。それから百年ほどが経った八六一年末。ポトマック軍の野営地は、ジョージ・マクレラン少将(創造柱)の手によって、まるでヨーロッパの近代軍隊のように完璧に整然としていた。
泥と混乱にまみれていた軍隊は、彼の創意によって、訓練され、規律を持った「創造的な兵器」へと生まれ変わった。朝の訓練場には、革と油の匂い、そして兵士たちの掛け声が、規則正しく響く。
マクレランは、馬に乗って兵の間を通り過ぎる時、兵たちから浴びせられる歓声を背中に浴びて、静かに顎を引いた。彼の理想は、完璧な軍隊による、無駄のない芸術的な勝利であった。
しかし、彼の創造は、あまりに完成度が高すぎて、動き出すことを恐れた。
彼は、暖かい野営本部で、副官たちに向かって、紙の上の数字を指で示した。
「まだ、準備が整っていない。敵の戦力は、わしが想定した数を上回る。完璧な創造は、完璧な準備の上にしか成り立たぬ。一兵たりとも、無駄にできぬ」
彼の机の上には、何枚もの緻密な攻撃計画が描かれていたが、それらは、未だ実行に移されることなく、静かに紙の上に眠っていた。彼の創造は、実行を伴わないがゆえに、リンカーンを苛立たせ、行動への起爆剤として機能した。
ワシントンD.C.のホワイトハウスで、エイブラハム・リンカーン(建設柱)は、マクレランから届く報告書を読んで、苛立ちを抑えることができなかった。燃える暖炉の熱が、彼の怒りを増幅させるようだ。南部は日々、その基盤を固めているというのに、かの将軍は、軍隊を眺めているだけだ。
リンカーンは、報告書を握りしめ、その紙の角が手のひらに食い込むのを感じた。彼は、閣僚の一人に向かって、低い声で呟いた。
「もし将軍が軍を使わないのなら、わしに貸してほしい。わしが一日で状況を変えてみせる」
彼の声は、単なる皮肉ではなく、建設の遅延に対する深い焦燥から発せられたものだ。
マクレランの創造的な遅延は、リンカーンにとって、単なる障害ではなかった。それは、彼を鍛え上げるための「刺激」であった。この時は、創造柱は建設柱の活動を促す壁となり、サポート役に徹したのであった。
リンカーンは、執務室の壁に貼られた広大な作戦図の前に立ち、深夜まで蝋燭の灯りの下で、軍事書を読み込んだ。インクと紙、そして蝋の匂いが、彼の周囲を包む。マクレランの怠慢が、リンカーンに*、単に政治家として軍事に口を出すのではなく、自ら戦争の指揮系統を学び、戦略を理解し、軍事的な決断を下す「真の建設者としての責任」を自覚させたのである。
一八六二年春、リンカーンの激しい催促の末、マクレランはようやく半島方面作戦を開始したが、依然として慎重すぎる進軍と、決戦を避ける姿勢を崩さなかった。彼の創造は、目の前の敵を破壊することよりも、軍隊の組織的な美しさを維持することに重点を置いていた。
リンカーンは、七日間の戦いの後、勝利を確実にできなかったマクレランに対し、ついに総司令官の職を解任することを決断した。彼は、解任の文書にペンを走らせる時、紙の上に鋭い音を立てた。
「わしが建設を急いでいるというのに、彼は芸術的な準備に拘りすぎた。もはや時間はない。この建設には、破壊を恐れぬ力が必要だ」
マクレランは、解任の報を受けた時、自らが創り出した完璧な軍隊の野営地を見渡した。彼は、手袋を静かに脱ぎ、革の匂いのする手で馬の首を撫でた。
「わしの準備の美学は、理解されなかった。だが、わしが創り上げたこの軍隊は、後の時代を支える土台となる」
彼の創造は、実行されなかったが、リンカーンに「指導者としての覚醒」と「近代的な軍の骨格」という、二つの重要な遺産を残した。
リンカーンは、マクレランが去った後、グラントやシャーマンといった「破壊」を恐れない将軍たちを見つけ出し、彼らを統率する真の建設者として、国家の統一を完遂させるのであった。マクレランは、その後政治家としての道を歩み、比較的穏やかな一生を過ごす。




