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第三十七話:破壊者、ナポレオンの疾走

あらすじ


 一七九九年、ナポレオン・ボナパルト(破壊柱)は、ブリュメール十八日のクーデターで独裁的な権力を確立した。彼の役割は、軍事力によってフランス革命の「自由と平等」という創造の火をヨーロッパ全土へと拡大させ、各国の絶対王政や封建制という旧体制を物理的に破壊することであった。彼の戦争は、近代化という新たな創造を、強制的に全大陸に広げる破壊の実行であったが、その勢いはやがてロシアの広大な大地で限界を迎え、役割を終える。


本編


 一七九九年十一月。ナポレオン・ボナパルト(破壊柱)は、パリの霧の中、兵士たちを率いて、サン=クルーの議場へと向かった。朝の湿気を吸い込んだマントが、その小さな体に重く垂れ下がり、軍靴が砂利を踏みしだく硬い音だけが響く。彼の破壊は、剣と銃を使った暴力という、最も直接的な形で現れた。

 議場に入ったナポレオンは、熱を帯びた議員たちの怒声に包まれた。彼は、演壇に立って、自分に向かって叫ぶ議員たちの顔を、冷ややかな眼で一人一人見下ろした。

「議会は、フランスを救うことができない。わしが救う」

 彼の言葉は短く、鋭く言い放たれた後、議場に待機させていた兵士たちの足音が、全ての議論を打ち消した。

 議場から議員たちが押し出され、静寂が戻った後、ナポレオンは、シエイエスが描いた憲法の草案を机に広げた。紙の上の整然とした構造は、彼の武力という熱によって歪められる運命にあった。彼は、権力の中心を示す「第一執政」の文字を指で押さえた。

「革命は、その目的を達成した。今、終わらせなければならない。この構造は、わたしの力で、新たな時代へと加速する」

 彼がクーデターを成功させた瞬間、フランス革命は軍事的な力による拡大という新たな破壊の段階へと移行した。


 一八〇五年。ナポレオンは皇帝に即位し、彼の破壊はヨーロッパ全土へと拡大した。彼の破壊の本領は、戦場で発揮された。アウステルリッツの凍てつく野で、ナポレオンは、オーストリアとロシアの連合軍を、精密な時計の歯車のように動く自軍の隊列で包み込んだ。

凍てついた地面に、大砲の黒い火薬の匂いと、血の生臭さが混ざり合った。戦場にこだまする大砲の音は、単なる戦闘の騒音ではなく、絶対王政という旧秩序が崩壊する「破壊の交響曲」であった。

 ナポレオンは、丘の上で、望遠鏡を覗き込み、連合軍の隊列が崩壊する様を見つめた。彼の指は、望遠鏡を握りしめ、その目は一点の曇りもない。

「彼らの古き階級制度は、既に腐っている。わたしの軍は、自由と実力に基づく新しい力だ。この勝利で、彼らの時代は終わる」

 彼は、征服地に「ナポレオン法典」という、革命の創造的な成果を導入した。ウィーンの宮殿で、彼は、法典の重い冊子を机に叩きつけた。

「貴族の特権も、身分の差も、この法の前では単なる紙切れだ。わしの破壊は、新しい秩序を植え付けるためにある」

 ナポレオンは、自分の手が、破壊の結果としてどれほど多くの血と涙にまみれたかを知っていたが、彼は、静かに燃える眼差しで地図を見つめた。


 一八一ニ年の冬。ナポレオンの破壊の勢いは、ついにロシアの広大な大地で限界を迎える。モスクワは、入城した時には既に火に包まれ、焦げ付いた木と煙の匂いが、全ての希望を消し去っていた。ロシア軍が行った焦土作戦は、ナポレオンの大陸軍が破壊すべき対象そのものを消し去り、破壊者ナポレオンに対する「破壊」となった。

 ボロジノの戦いの後、ナポレオンは、凍てつく廃墟の中で、雪に埋もれた屍の山を見た。焦げ付いた火薬の臭いと、死の冷たさが肌に突き刺さる。彼は、手に持った望遠鏡を静かに閉じた。その手つきは、精密な機械の動作を止めるかのようだった。

 ナポレオンは、傍らに控える将軍に、掠れた声で言った。

「我々が破壊すべきものは、既にここにない。この広大な虚無は、わたしの力でも埋めることができぬ」

 彼の破壊は、旧体制を粉砕し、近代化の種を蒔くという役割を果たしたが、それ以上の破壊はもはや不要であった。エルバ島への流刑、そして最後のワーテルローの敗北は、彼の役割の終焉を告げる、歴史的な結末であった。フランスは、ナポレオンが破壊した土壌の上に、新しい近代社会という構造を建設していくのである。

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