第三十五話:不滅の理性の祭典、ロベスピエールの創造
あらすじ
一七九三年、マクシミリアン・ロベスピエール(創造柱)は、フランス革命の嵐の中心で公安委員会を率い、理想と正義に憑かれたように恐怖政治を実行した。彼の目的は、千年続いた旧体制の残滓を破壊的に清算し、「自由、平等、博愛」という新しい国家理念を創造することであった。しかし、彼の創造はあまりに純粋で急進的であったため、自らの命をも焼き尽くす運命にあった。そして彼は、自身の死をもって「創造」の時代を終え、エマニュエル・ジョゼフ・シエイエス(建設柱)が描く憲法の統治する世への土壌を整えたのだった。
本編
一七九三年のパリは、街路を流れる血の微かな匂いと、ギロチンの鉄の軋む音で満ちていた。革命広場から届く喧騒は、マクシミリアン・ロベスピエール(創造柱)が執務する公安委員会の部屋まで届いていた。彼は、その小さな体に不釣り合いな熱い熱を放ち、机の上の膨大な密告と逮捕の書類を、一枚一枚、冷ややかな眼で批閲していた。羊皮紙の乾いた手触りが、彼の指先に現実の重みを伝える。
彼の理想とする「徳の共和国」を創造するため、ロベスピエールは、既存の倫理や制度を徹底的に破壊することから始めた。彼は、朱の筆を執り、処刑の命令書に、迷いない線を引いた。
「徳なき自由は無益。この国に真の共和制を創るためには、腐敗と悪を根絶しなければならぬ。この血は、自由という新しい木の肥やしだ」
彼の声は、鋭く、金属のように響き、議場で発されるたびに、数十年と続いた旧貴族や王党派の命を断ち切るギロチンの刃となった。彼の創造は、あまりに純粋で、あまりに急進的であったため、彼自身がその炎に焼かれる運命すらも予期していた。
一七九四年、ロベスピエールは、カトリックの権威を排し、自らが創り出した「理性の祭典」を挙行した。彼は、真っ白な服を纏い、マルスの広場で、新しい神の前に立った。香の匂いが青空に昇り、集まった群衆の熱気が彼の肌を焦がす。
ロベスピエールは、自らが設計した台座の上で、炎を見つめた。彼は、この儀式で、フランスの精神的な基盤を一新し、自らの理想を永続的なものにしようとしていた。
「人民よ!我々は今、千年の迷信から解き放たれた。真の神は、この自然に、そして我々の心の中の『理性』にある。徳の共和国は、この光の下に建設される」
しかし、彼の創造の純粋さは、既に周囲の革命家たちの嫉妬と恐怖を呼び起こしていた。彼の演説の間、観衆の中には、彼に向けられた冷ややかで疑念に満ちた視線が増えていた。
一七九四年七月二七日(テルミドール九日)。国民公会の議場は、湿度の高い熱気と、怒号の声で満たされていた。ロベスピエールは、議場の中央に立ち、最後の演説を行おうとしていた。彼の顔は、疲労と理想による緊張で青白く、汗が頬を伝う。
彼が口を開こうとした瞬間、反対派の議員たちの怒号が、彼の声をかき消した。「暴君を倒せ」という叫びが議場に響き渡る。ロベスピエールは、耳を劈くような怒号の波に押され、両手で壇を掴み、声を絞り出した。
「裏切り者よ!わしに話させろ!わしはまだ、この国の真の敵を暴いていない!」
議長は、彼の発言を認めず、逮捕を命じた。議員たちが一斉に彼に向かって押し寄せる中、ロベスピエールは、最後に、自らが創造しようとした「徳の共和国」の崩壊と、建設の段階への委譲を肌で感じた。
ロベスピエールは逮捕の際、顎を撃たれ、血の味が口の中に広がった。床に倒された彼は、目を見開いて天井を見つめた。彼が創造した新しい理念は、旧体制を破壊した後、彼自身をも破壊したのである。
翌日、彼は、自らが数多くの人々を送ったギロチンの下に立たされた。冷たい刃が首に触れる直前、彼の目には、自らの創造が役割を終え、次の建設の時代の幕開けが映っていた。彼の最後は見た目に反して穏やかだった。
ロベスピエールの死を糧として、フランスは血と理想に満ちた「創造」の時代を終え、エマニュエル・ジョゼフ・シエイエス(建設柱)が描いた憲法の骨格の下で、次の安定と、新たな破壊の加速者であるナポレオン(破壊柱)の時代へと移行していくのである。




