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第二十一話:源頼朝、建設の安定のための義経排除

あらすじ


 西暦一一八五年。壇ノ浦で平氏が滅亡し、源義経(創造柱)が京で英雄として歓待される一方、源頼朝(建設柱)は鎌倉に建設の拠点を固めていた。頼朝は、軍事の天才として自由奔放に振る舞う義経を、長期安定政権という建設の青図にとって最も危険な不安定要素と見なす。頼朝は鎌倉入りを許さず、義経を徹底的に排除するという非情な決断を下す。この創造柱の切り離しは、役目を終えた創造柱に退出を促すもので、創造柱もやることを終え、立ち去ることにしたのだった。一方、宿老の平頼綱(内なる毒)は、頼朝の下で頭角を現し、新しく建設された幕府内部に、権力と疑心暗鬼という、次の時代への余白を作る役割を担う。


本編


 西暦一一八五年五月。壇ノ浦の戦いを終えた源義経(創造柱)は、平氏の首と捕虜を携え、意気揚々と鎌倉へ向かった。彼の体には、波をかぶった船の匂いと、戦場の血と硝煙の熱が残っていた。彼は、鎌倉の手前の腰越の宿で兄・頼朝(建設柱)との面会を待った。しかし、何度の嘆願も空しく、頼朝は会見を拒否した。

 義経は宿の縁側に座り、遠くの山の稜線を見つめた。彼は、自らの創造が詰まった文書、『腰越状』を握りしめていた。紙の端が汗で湿る。彼が創り出した戦術の数々は、この武家の世の到来を決定づけたはずであった。だが、兄の元から届くのは、温かい歓迎の言葉でなく、自立した行動への厳しい詰問であった。

 義経は、腰に差した太刀の柄を無意識に握りしめ、指の関節を白くさせた。彼は低く、しかし、確かな声で呟いた。

「私の功績が兄の建設の邪魔となるというのか。私の剣は兄の世を開いたはずだ」

 宿の軒先から滴る、水の音だけが寂しく響いた。


 鎌倉の大倉御所。源頼朝(建設柱)は、御家人たちが提出する膨大な所領の安堵の文書に目を通していた。墨の匂いと和紙の擦れる音だけが響く静寂な空間で、彼は、義経の帰還に関する報告を聞いていた。

 頼朝は、文書から顔を上げなかった。彼は知っていた。義経(創造柱)の天才的な軍事の創造は、戦乱の時代には必要不可欠であったが、自分が今から建設しようとしている「長期的な秩序」とは相容れない性質のものだと。

創造とは、常に既存のシステムを破壊する力を内包する。長期の建設に着手するためには、その破壊の衝動を生み出す「創造性」を、一時的に自らの陣営から切り離さなければならなかった。

 頼朝は、筆を置いた。筆の先から、濃い墨の一滴が畳に落ち、音を立てた。彼は正面を見据え、冷徹な声で命じた。

「義経の入りを許さぬ。御家人たちの間に疑念を抱かせる種は全て摘み取らねばならぬ。公的な秩序が私情に優る」

 彼の声は冷徹で、一点の私情も感じさせなかった。


 新しく建設された鎌倉幕府の内部では、頼朝の側近、平頼綱(内なる毒)が、静かに頭角を現していた。彼は、頼朝の建設の青図を完璧に理解し、その完成のために暗い役割を担っていく存在である。

 頼綱は、御家人たちが集まる評定の場で、時折、義経の行動や、地方で勢力を持つ武士たちの些細な不満を、頼朝の耳に「疑心」という形で吹き込んだ。彼の囁きは静かで、和紙を破るような音はしなかったが、建設されたばかりのシステムの内部に、権力への渇望と相互の不信という毒を緩やかに広げていった。

 頼綱は、頼朝の背中に目を向け、低い声で囁いた。

「御台所(政子)の父君、北条殿にも、野心が見えます。全ては殿の建設の安定のため、警戒を怠らぬよう」

 創造から建設に移行し安定が見えてきた頃に、今度は「内部の破壊」が用意され、安定の中で次の時代への余白を作っていった。


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