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第二十話:源義経、天才的な戦術による旧体制の破壊

 西暦一一八四年頃。平清盛(創造柱)が創り出した平氏の武家政権は、公家の驕慢きょうまんを内包し、旧体制と化していた。後白河法皇の以仁王もちひとおうの挙兵を機に源頼朝(建設柱)が伊豆で兵を挙げると、東国の武士たちが集結した。物語は富士川の大敗で平氏の威信が揺らいだ後、源義経(創造柱)が京に上り、一ノ谷と屋島の戦いを主導する。義経の天才的な奇襲戦術は、平氏が頼りとする伝統的な防御システムと海戦の常識を破壊し、時代の転換を決定づけた。


本編


 西暦一一八四年ニ月。平氏は摂津の一ノ谷に強固な陣を敷いていた。海に面した本陣と、切り立った山に守られた要害は、当時の常識では難攻不落と思われていた。陣営から立ち上る、焚き火の煙の匂いは安堵の色を帯びていた。

平氏の武士たちは、重厚な鎧を身につけ、山の上を見上げた。

「馬も通れぬ場所ゆえ、安泰だ。義経の才も山の前では無力よ」と大声で笑い合った。彼らの声は自信に満ちていた。

 しかし、源義経(創造柱)は、彼らが信じる常識という名の壁を見て、口の端を僅かに上げた。彼は、数十騎の精鋭を率い、誰もが不可能と断じた山の険路、鵯越を選んだ。山の斜面は凍った土と岩が剥き出しであり、馬の蹄が滑り、石がゴロゴロと落ちる音が響き渡った。

 義経は、馬の鬣に顔を伏せ、鞍の冷たい革の感触を感じながら、その瞬間の静寂と緊張を味わっていた。彼は馬の耳元に静かに囁いた。

「私が創るは誰も見たことのない、戦の理だ」

 突然、山の頂から数十騎の騎馬武者が、悲鳴に近い鬨の声を上げて、垂直に近い崖を滑り落ちてきた。雪崩のような土煙と馬の嘶きが同時に響く。平氏の陣は、後ろから現れた予期せぬ破壊に狼狽し、弓を構える手が震えた。義経の天才的な「戦の形」は、旧体制の防御システムを音を立てて崩壊させた。


 一ノ谷で敗北した平氏は、四国の屋島に海を利用した強固な本拠地を移した。海戦の経験と船の数で圧倒的に優位に立つ平氏は、義経の陸戦も海の前では無力だと信じていた。潮の香りと、船の軋む音が平氏の安堵を示していた。

 義経は再び、常識を覆した。嵐の夜、僅か五艘の船で暴風雨の海を渡り、夜明け前に屋島へ上陸した。船を叩く波の音と、風の唸りが轟く中、義経は船首に立ち、顔に当たる雨を拭いもしなかった。

 平氏の武士たちは、朝靄の中、まさかの出来事にあっけに取られていた。義経は、浜辺に火を放ち、敵を錯覚させる陽動を仕掛けた。木々が燃える、焦げ臭い煙が屋島の上空に立ち上る。

 平氏の大軍は、義経の幻の大軍の存在に恐れをなし、船を海へと漕ぎ出して逃走を図った。大軍が、たったの五艘の人手で攻められ、崩壊した瞬間であった。

 船を漕ぐ、平氏の兵たちの焦燥に満ちた声が海上に響き渡った。平氏の大将の一人は、船のへりを強く叩き、怒鳴った。

「何ということだ!我々の誇りが、たったの数艘の船で崩されるとは!」


 義経は、沖へ遠ざかる平氏の船団を見て、旧体制の根を断ち切ったことを静かに悟った。彼の破壊は物理的に平氏の軍事力を消滅させ、頼朝の建設の舞台を整えた。

 平清盛として武士の世の先駆けをつくり、創造柱が自ら築いた体制を義経として自ら崩壊させ、建設柱の宿る頼朝が建設する新しい時代の舞台を物理的に整えたのである。

 義経は静かに弓を外し、遠く、鎌倉の方向を見つめた。彼の役目は終わりに近づいていた。

「これで終わりだ。後は、兄がこの国に永続の秩序をもたらすだろう」

 創造の役目を終えた彼の運命は兄によって、終わりの時を用意されることになる。

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