第ニ話:日本神話、三柱の国づくり
あらすじ
神話の時代、少彦名(創造柱)は、その小さな躯に島々の連結という壮大な設計図を宿す。大国主(建設柱)は、強靭な力で創造の青写真を現実の秩序として建設しようとする。しかし、その建設の途上、素戔嗚(破壊柱)による試練と混沌が与えられる。これは、建設の永続性には、定期的な破壊による更新が不可欠であることを示した。これは各地の有力者をとりまとめて国と成した実際の歴史を象徴的な神話として語り継がれているものだ。
本編
風が葦の原を揺らす音だけが響く、未だ混沌とした島々の時代。創造柱は、少彦名という極めて小さな神の身に宿った。彼は、手のひらに乗るほどの体躯で、波打ち際に立ち、遠く水平線を凝視していた。彼の小さな瞳には、無数の島々が一本の国土として繋がる(実際には各地に点在する有力者をまとめて国という形をつくること)という緻密な設計図が描き出されていた。
少彦名(創造柱)は、大地に膝をつき、掌で砂を掬い上げては、風に流されるのを何度も確認した。
「この国土は、脆すぎる。生命と秩序が根付く、新しい土台を創造せねばならぬ」
彼は活気のある声で高らかに宣言した。
その隣で、大国主(建設柱)が荒々しい波を前に毅然と立っていた。
彼の太い腕は、国を縫い合わせる(バラバラの有力者を協力関係の元にまとめていく)という重労働を引き受けるという重厚な責任感で微動だにしなかった。彼の眼差しは、少彦名の宣言を受け入れていた。大国主は、創造の青写真を現実の形に変えるという揺るぎない使命を帯びていた。
少彦名の薬や知識を基盤に、大国主は国づくりを開始した。荒ぶる神々(各地の豪族たち)を鎮め、山々と平野を秩序立てるという壮大な建設が着々と進んだ。大地は徐々に固まり、建設の確かな手応えが潮の香りと共に満ちてきた。
しかし、建設の安定を脅かすように、破壊柱が素戔嗚として降臨した。
素戔嗚(破壊柱)は、稲妻と雷鳴を背負い、荒々しい笑い声を轟かせながら、大国主の前に出現した。彼は、大国主が苦心して築いた砦を一瞥し、鼻を鳴らした。
「その脆弱な秩序は、すぐに腐るだろう。真の建設には、破壊による試練が不可欠だ」
素戔嗚は、大国主に幾度も不合理な試練を与えた。
最初に、素戔嗚は大国主を火の中に閉じ込めた。燃え盛る炎の熱が皮膚を焦がす。炎の匂いと煙が肺に流れ込もうとする。
大国主は顔を伏せ、拳を硬く握りしめ、地面の熱に耐えた。
「熱に屈すれば、この建設は終わる。私は、この…試練を受け入れる」
彼は、素戠嗚の娘の助けを借り、建設者としての強靭な意志を保ちながら炎を潜り抜けた。
次に、素戔嗚は大国主を毒蛇の巣に送り込む。土の冷たさと蛇の鱗のざらつきを肌に感じながら、大国主は再び、建設の目的を見失わなかった。
この炎と蛇は現実の出来事の例えであり、炎は近隣の有力者との戦火、蛇は仲間の裏切りを表しているのかもしれない。
大国主は試練から逃げなかった。彼は、破壊がもたらす痛みに耐え、より強固な建設を行うように自らを鍛え直した。彼の体躯は以前にも増して岩のように硬くなっていった。
素戔嗚は、大国主の忍耐と進化を認め、雷鳴を収束させ、静かな声で語った。
「安定は硬直を生む。定期的な破壊による更新こそが進化への道である。お前の建設は、この試練によって初めて、永続性を得た」
少彦名は、自らの創造が安定期を迎えたことを確認すると、「私には、この国の創造の設計図の雛形を完成させた。残りの建設は、あなたの使命だ」と大国主に深く一礼し、永遠の旅へと海を渡った。
大国主は、少彦名が残した創造の青写真と、素戔嗚が与えた破壊の試練を統合し、島々を治めるという建設に専念した。
この国造りの建設の末に、彼は天照大神の子孫へ国を譲るという次の時代の建設への道筋をつけることになる。
この創造、建設、破壊の協働こそが、今後の世界の進化の訓練場としての土台を作っていくのだった。そして三柱は各時代の転換点に転生していく。




