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第十九話:源頼朝、伊豆の流刑地で建設の構想を練る

あらすじ


 西暦一一八〇年頃。平清盛(創造柱)が日宋貿易という経済的な創造を成し遂げ、平氏の全盛期を築き上げる裏側で、伊豆の流刑地には、未来の長期安定政権の建設を担う源頼朝(建設柱)が蟄居していた。頼朝は、父の失敗と平氏の構造を分析し、「武士による、公家に代わる永続的な統治システム」という幕府の青図を着々と建設する。一方、弟の源義経にも創造柱は宿り、平清盛と源義経として同時に活動をした。

 義経は奥州で成長し、後に天才的な軍事の創造で頼朝の建設をサポートする準備を進めていた。義経としての活動は一瞬の花のように、平氏を滅ぼす目的を果たすとその一生を終えるのだった。


本編


 西暦一一八〇年。伊豆の山々は鬱蒼とした緑に覆われ、潮風が湿気を運んでくる。海と土の匂いが混ざり合い、流人である源頼朝(建設柱)の肌に張り付いた。彼は、監視の下、昼間は読経をするか、静かに弓の稽古をする日々を送っていた。彼は、周囲の静けさの中で、遠くの京都で繰り広げられる平氏の栄華と、父・義朝の短命な野心の結末を反芻していた。

 彼は庵の片隅で、古い紙の裏に墨で、地方の御家人たちの名前と領地の関係図を密かに記していた。その手つきは慎重で、一つの点も線も見落とさない職人のようだった。墨の匂いが紙に染み込む。彼が建設しようとしているのは、武力で勝ち取る一時の権力ではない。御家人たちとの「主従関係」と「恩賞と奉公」という、長く続く構造であった。

 彼は静かに息を吐き、紙の上の線を指でなぞった。

「父の轍は踏まぬ。武士の力は京の真似をするためにあるのではない。永く続く秩序をこの東国に建設する」

 彼の目は、一点の曇りもなく、未来の安定したシステムの青図を見つめていた。


 頼朝の建設の土台は、地の豪族、北条時政の娘、政子(勢威の加速者)との出会いによってより強固なものとなった。政子は、監視役であった父の目を盗んで頼朝と会う時、常に毅然としていた。夜の草の匂いが彼女の周囲を包む。

 彼女はただの女性ではなく、新しい時代の建設に必要な、地方の武士の強靭な意志を体現していた。これはかつて劉邦と呂雉として活動をした頃と同じ、建設柱を支える者の役割であった。

 源頼朝(建設柱)は、懐から地方豪族の関係図を記した紙を取り出し、夜風で紙が飛ばないよう小石で抑えた。月光に照らされた彼の顔は、真剣な建設者の顔であった。

 北条政子(勢威の加速者)は、頼朝の手元の図を覗き込み、冷たい空気の中で冷静に尋ねた。

「これは父の勢力と連動させる豪族の図ですか。頼朝様の御心は、単に京に戻ることではないということですね」

 頼朝は頷き、紙の上の一つの点を指で示した。

「都を真似た短命な権力は要らぬ。平氏が犯した過ちだ。武士は京の公卿の真似をしたからこそ、その根が腐った」

 政子は頼朝の横に座り、自分の手を地面に押し付け、土の硬さを感じた。

「この東国の武士が求めるのは、律令ではありません。報いと安堵です。そして我々の土地を守る『法』です」

 頼朝は政子の言葉に深く頷いた。彼は政子の手を掴み、冷たい指先に力を込めた。

「その『法』を、私が創る。御家人と私の間には、御恩と奉公という、血縁よりも強固な主従の構造を建設する。政子、お前の北条の力が、この建設の最初の礎となる」

 政子は頼朝の眼を見返し、迷いのない声で応えた。

「承知いたしました。私は貴方様の勢威を加速させるための力となります。その建設が永続するならば、私は如何なる困難も恐れません」

 二人の誓いの声は、夜風に乗って伊豆の山々に静かに吸い込まれていった。新しい時代の建設の土台が、この静かな会話の中で固められた。

 頼朝は、政子を通して、豪族たちの現実の利害と感情を肌で理解した。彼は、武士の支配は、中央の公家の真似をするのではなく、東国の武士たちが求める「秩序」と「報い」に基づかなければならないと確信した。その構想が、後の守護・地頭の設置という、長期の建設システムへと繋がっていく。

 同じ頃、遠く奥州の藤原氏の庇護の下で、頼朝の異母弟である源義経(創造柱)は成長していた。彼は、京の公家の文化と、東北の荒々しい武士の気風の両方を吸収し、兵法の独創的な解釈に没頭していた。彼の手は、紙に筆を走らせることなく、剣と弓を構える感覚を求めていた。

 義経の思考は、既成の概念を次々と飛び越える創造性に満ちていた。

 彼は雪の舞う庭を見つめ、自らに語りかけた。

「平氏が守る常識という名の壁を打ち破る、新しい戦の形を創り出さなければならない。それこそが、兄の建設を可能とする」

 彼の存在は、頼朝が建設する新しい武士政権を実現するための、軍事的な創造という強烈なエンジンとなることが約束されていた。

 義経の傍らには、静御前(創造の伴走者)が常にいた。これはカエサルとクレオパトラとしての活動と同じ存在、同じ形での活動であった。


 義経(創造柱)は、激しい剣の稽古で汗に濡れた着物を脱ぎ、濡れ縁に座り、夜の冷たい空気に肌を晒した。彼の体からは熱気が立ち上り、湯気が夜空に消えていく。

 静御前は、義経の傍らに静かに座り、布で汗を拭った。その手つきは優しく、しかし、力が込められていた。

「今の太刀筋は、まるで、天を舞う燕のようにございました。誰も捉えることができませぬ」

 義経は冷たい石に手を置き、その冷気を吸い込んだ。

「燕は、既成の風を切り裂く。静、私が創ろうとしているのは、この国の武士がまだ、見たことのない、戦術だ」

「その生き様は、貴方様の命と引き換えになりませぬか。貴方様にはどこか儚さを感じます」

 義経は静御前の手を掴み、その温もりを確かめた。

「私の創造は、平氏という巨岩を砕くためにある。その『破壊』の役割が終われば、私の使命も終わるやもしれぬ。だが、それでいい」

 彼は遠く、西の空を見つめた。

「兄、頼朝が伊豆で練っている『建設』の青図は、私の創造とは対照的に、地に深く根ざすものだ。私の創造を、兄が受け止め、永続させる」

 静御前は静かに息を吸い、覚悟を込めた。

「天を舞う燕が大地に落ちるまで、私は貴方様の傍におります」

 彼女は舞の稽古をする義経の動きを静かに見つめていた。

 伊豆の建設柱と奥州の創造柱は、まだ見ぬ未来へと、互いに必要とし合う運命の糸で繋がれていた。


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