第十六話:平清盛、武士の世の創造へ
あらすじ
西暦一一五六年。藤原氏による公家社会の安定が院政により内部から揺らぎ始める頃、京都では崇徳上皇と後白河天皇の対立が激化していた。平清盛(創造柱)は保元の乱を通して、武士の力を初めて中央権力の内側に導入するという新しい統治の形を創造する。彼の協力者であり、同時にライバルとなった源義朝(創造の斥候)は、武士の野心を代表し、清盛の対抗者になりながら、清盛の手の届かない関東の取りまとめを図る。
本編
西暦一一五六年。京都の夏は蒸し暑く、保元の乱の火種がくすぶっていた。公家の権力闘争は血縁と陰謀が複雑に絡み合い、藤原頼通(建設柱)が築いた安定の時代は崩壊しかけていた。宮廷から漂う、沈滞した香の匂いは湿気に重く、腐敗を感じさせた。
平清盛(創造柱)は、宮廷の奥深く、ひそかに対立する両陣営の動きを観察していた。公卿たちの詠む和歌や絹の衣の擦れる音の奥に、無力な権威と腐敗の匂いを感じていた。
彼の創造の青図は、この無力な権威を利用し、地方の実力である武士の力を中央に組み込むという新しい権力システムを創り出すことであった。彼は静かに、後白河天皇方への参戦を決めた。
彼は自らの手の甲を強く握りしめた。
「公家の時代は終わる。私が創るのは、武力と儀式が融合した新しい、現実的な統治の構造だ」
清盛と並んで後白河方に参戦したのが、源氏の棟梁、源義朝(創造の斥候)であった。義朝は武具の鉄の重さと、久々の大戦への興奮を全身で感じていた。彼の馬が踏む、地面の湿った土の感触が、彼の高揚感を助長した。彼は、公家の争いを武士の地位を高める絶好の機会だと捉えていた。
義朝は大声で配下の武士たちを鼓舞し、その声には、勝利と莫大な恩賞への切望が滲んでいた。
「今こそ、我々の武力を都の公卿どもに知らしめる時だ!手柄を立て、都に武士の足場を築くぞ!」
保元の乱の真夜中、清盛は白河殿への夜襲という大胆な策を実行し、武士の持つ決定力を宮廷の貴族たちの前でまざまざと見せつけた。血潮が飛び散り、剣がぶつかり合う金属音が平安京の静寂を切り裂いた。
義朝は武功を焦り、清盛の計画を無視して敵に突進しようとした。清盛は遠くからその短慮な突進を見て、唇を引き締めた。
「義朝は武士の力を示すには優秀だが、私が創ろうとする長期のシステムの建設には不適だ」
保元の乱は僅かな期間で決着し、後白河天皇方が勝利した。清盛の功績は多大であり、彼は公卿の列に加わる道を開いた。彼が創り出した新しい構造は「武士を中央の権力として利用する」という、それまで公家の間では考えられなかった創造であった。
戦の後、清盛は静かに義朝を見つめた。義朝は論功行賞に対して、清盛よりも劣る扱いを受けたことに対して、拳を強く握りしめ、地面を睨んでいた。彼の目には、すぐにでも全てを力で覆そうとする猛々しい炎が揺れていた。血の湿った匂いが鼻に残る。
清盛は義朝に向かって静かに言った。
「武の力は知らしめた。これよりは、公の秩序を重んじよ」
義朝は清盛の前を去る際、荒い息を吐き、低い声で呟いた。
「公家の論理で我々を縛るなら、この手で全てを叩き壊す」
義朝(創造の斥候)の存在は、清盛の創造を完成させる前に、関東の武士の野心を取りまとめるという役割を担っていた。清盛(創造柱)は、自分の創造を真に強固なものとするため、義朝との対決を避けて通れないことを知っていた。武士による新政権の創造は始まったばかりであり、次の破壊が間近に迫っていた。




