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第十二話:劉備、建設への理念

あらすじ


 西暦ニ〇八年頃。曹操(創造柱)が血と法に基づく新しい乱世を創造する中、劉備(建設柱)は「仁」という旧漢の理念に基づく勢力建設を模索していた。彼の建設の試みは常に困難に直面するが、人々を魅了した。諸葛亮孔明(統治の設計士)は、劉備の理念を現実の形とする「天下三分の計」を設計し、建設の中核を担う。一方、曹操の息子である幼き天才、曹沖(悲劇の輝き)は、創造者の後継者として現れた可能性であったが、彼の早逝は曹操の創造を混乱させ、歴史の流れを劉備の建設(三国鼎立)へと修正させる。


本編


 西暦ニ〇八年。曹操の大軍に追われ、長坂の戦いで妻子と領民を見捨てず敗走した劉備(建設柱)は、荊州けいしゅうの片隅で深い溜息をついた。彼の服は泥に汚れ、顔には疲労が滲んでいた。土と汗の匂いが彼の体から立ち上る。彼は自らの建設の試みが如何に現実の力に打ち砕かれるかを痛感していた。

 しかし、彼の周りには常に、彼の理念に心を動かされた人々が集まっていた。関羽と張飛は無言で彼の背中に立ち、諸葛亮孔明(統治の設計士)は静かに竹簡を開き、新しい青図を示した。劉備の建設は、法や実力ではなく、「仁」と「正義」という抽象的な理念に基づく建設であった。

 諸葛亮は、竹簡を広げ、その上に置いた小石を動かした。竹簡の冷たい感触と、石が擦れる*微かな音が響く。

「主の仁という理念は、民を惹きつける。私が設計するは、その理念を現実とする、荊州、益州えきしゅうを拠点とした『天下三分の計』という秩序の建設でございます」

 劉備は拳を強く握り、乾いた唇を舐めた。その唇は塩気が混じった泥の味がした。

「漢の正統を継ぐという理念こそが、曹操に対抗し、天下を三つに分け、均衡をもたらす建設の礎となる。孔明、この設計図に従い、天下を治めるぞ」

 この理念の旗を掲げることで、劉備は曹操が作り上げようとしていた、一強の創造を阻み、天下を分断する「天下三分の計」の形を模索し続けた。


 劉備の苦境の頃、長江の向こう側、江南では孫権(安定の継承者)が静かに勢力を固めていた。彼は父と兄が築いた基盤を着実に継承し、安定させる建設に専念していた。

 孫権は広大な長江を見下ろし、冷たい水面をじっと見つめた。水面から吹き上がる湿った風が顔に当たる。彼の心は常に冷静であり、個人の武勇よりシステムの永続を重視していた。

「天下は混沌を極めている。私の使命は、この長江を境界とし、東南に揺るぎない安定の建設を施すことだ」

 彼の建設は、軍事よりも内政と人材登用に重きを置いた。

 曹操が大軍を南下させるという報せが届いたとき、孫権の幕舎は議論で沸騰した。降伏を主張する者の声と、徹底抗戦を主張する者の声が入り乱れた。

 孫権は酒杯を静かに机に置き、立ち上がった。彼は冷たい眼で降伏を主張する臣下を見据えた。

「私が望むのは、一時の平和ではない。数十年、数百年続く、東南の安定だ。曹操の創造は強大だが、長江を越えても安定を維持することはできぬ」

 彼は剣を引き抜き、机の隅を切り裂いた。木が裂ける鋭い音が幕舎に響き渡る。

「この剣の届く限り、降伏は断じてない」

 孫権の決断は、劉備の理念と結合し、曹操の創造を水際で阻止するための赤壁の戦いへと向かわせた。


 同じ頃、北では曹操(創造柱)が血と法によって天下を固めつつあった。彼の数多い息子の中で、最も、創造の才を受け継ぐと目されていたのが、幼き曹沖(そうちゅう / 悲劇の輝き)であった。

 曹沖は数え年で五歳の頃に「象の重さを測る」という機知を示し、周囲を驚かせた。彼は、常に、年長者の問いに思索的な表情で答え、その聡明さは曹操の寵愛を一身に集めていた。絹の衣を纏う彼の立ち姿は静謐であったが、その眼差しには時代を見通す光が宿っていた。

 曹操は、曹沖を見るたびに、顔の強張りが緩み、目元が優しくなった。彼は、曹沖の中に自分が創造した新しい時代を、さらに洗練させ、完成させる「純粋な可能性」を見ていた。

 曹操は幼い曹沖の頭を撫で、静かに呟いた。

「この子こそ、私が創造した法と実力の時代を完成させ、天下を一つの永続的なシステムに昇華させることができる」

 しかし、西暦ニ〇八年。赤壁の戦いの直前、曹沖は病に倒れ、わずか十三歳でこの世を去った。

 曹操は愛息の亡骸の前で、巨大な体躯を震わせ、両手で自らの顔を覆った。冷たくなった曹沖の手を握りしめる。彼の部屋からは一晩中、重々しい、押し殺したような嗚咽が聞こえた。

彼は虚空を見つめ、絞り出すような声で叫んだ。

「天は私の創造を完成させぬつもりか!この喪失は、天下の安寧を数十年、遠ざけることになる!」

 曹沖の早逝は、曹操の後継者をめぐる混乱を生み、曹操の創造が目指した「天下統一」への集中力を削いだ。曹操と曹沖の関係性は、後の日本で、足利義満(創造柱)と足利義嗣(悲劇の輝き)、信長(創造柱)と森蘭丸(悲劇の輝き)として時代を共にする。

 結果的に、赤壁で曹操軍は敗北し、燃える船から漂う油と煙の匂いが、曹操の創造の終わりを象徴していた。

 曹沖の死は、歴史を曹操の一強による早期の終結から遠ざけ、劉備が蜀という理念の国を建設し、孫権が呉という安定の国を固めることで、三国鼎立というバランスの取れた「建設」を可能にする方向へと修正させたのである。

 三柱の巡りは、一強の支配ではなく、三つの勢力による均衡という新しい秩序を創造した。

三国時代は、最終的に魏の権臣であった司馬懿の一族が実権を握り、司馬炎が禅譲を受けて「晋」を建国し、中国を統一した(西暦ニ八〇年)。しかしこの統一は短期間に終わり、創造柱が李淵として唐王朝を建国するまで混乱の時代となる。

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