第十一話:曹操、新しい乱世の創造
あらすじ
紀元後ニ世紀後半、後漢王朝が腐敗と崩壊へと向かう頃、創造柱は曹操に宿る。彼は腐った漢の権威を利用しつつ、実力と法に基づく新しい乱世のシステムを創造する。その創造を伝統と権威で阻む袁紹(伝統の拘泥者)は、官渡の戦いで敗北し、旧時代の残滓は呂布(破壊柱)によって軍事的に粉砕される。
本編
西暦一八四年。黄巾の乱が後漢の大地を焼き尽くした後、中華は董卓らの暴政により混沌の極みにあった。洛陽の宮殿は焼け落ち、都の土は踏み荒らされ、飢餓の匂いが風に乗って辺りに漂っていた。
曹操(創造柱)は、腐りきった漢王朝の権威を利用し、新しい秩序を創り出すことを決意した。彼は、荒涼とした軍営で分厚い兵法書を広げ、筆を走らせていた。筆が竹簡を擦る乾いた音だけが静かに響く。彼の眼は鋭く光り、その視線は現存の諸侯たちの上に、遥か先の時代を見据えていた。
彼は筆を机に叩きつけるように置いた。
「漢は既に死んでいる。私が作るのは、血と法によって統制された新しい時代だ。腐敗は許さぬ」
彼は若い皇帝を擁立し、「挟天子以令諸侯(天子を奉じて諸侯に令す)」という新しい創造のシステムを確立した。彼は自らの手で皇帝の玉座を支え、冷たい笑みを浮かべた。権威の虚像を操り、実力で乱世を支配するという、大胆な青写真であった。
三国時代の初期、呂布(破壊柱)は旧勢力の軍事的な残滓を粉砕する役割を担った。彼は、鬼神のような武力で各地を転々とし、劉備(建設柱)や曹操(創造柱)の勢力に次々と打撃を与え、旧い秩序の名残を容赦なく踏みにじった。
呂布の破壊的な奔放さは、彼に仕える者たちの間に常に恐怖の影を落とした。彼の周囲には常に血と裏切りの匂いがまとわりついていた。彼は特定のイデオロギーや建設の青図を持たず、ただ暴力という純粋な破壊の力を振るった。
西暦一九八年、呂布は曹操によって捕らえられた。彼が連行される際、彼の足音は土の上を重々しく響いた。鎖の冷たい感触が手首に食い込む。
曹操(創造柱)は呂布の前に立ち、冷たい眼差しを向けた。
「お前の力は知っている。だが、純粋な破壊は時代を創れぬ。お前の使命は終わった」
呂布は最後まで、己の武力への信頼を捨てなかった。彼は荒い息を吐き出し、首を動かした。
「まだ戦える!*私を生かせば、あなたの助けとなる!」
曹操は首を横に振った。彼の心は決まっていた。
「破壊は創造の下に服さねばならぬ。ここで終われ」
曹操は呂布を処刑することで、「破壊は、創造に引き継がれる」というメッセージを世に示し、新しい乱世を構築するための軍事的な土壌を整えた。
曹操の創造の前に立ち塞がった試練が、旧時代の権威を体現する袁紹(伝統の拘泥者)であった。袁紹は、四世三公という名門の血筋を背景に持ち、河北に巨大な勢力を築いていた。
袁紹は、豪華な邸宅で優雅な宴を開き、曹操の行動を「逆賊の所業」と嘲笑した。彼は扇子をゆっくりと動かし、曹操の急進的な創造を、古く、厳格な礼儀と権威の視点から批判した。優雅な香の匂いが部屋に満ちる。彼の言葉は理路整然としていたが、その足元は旧体制の泥に深く沈んでいた。
彼は優雅な笑みを浮かべた。
「曹操の創造は血筋に逆らうものだ。正統とは何か、彼に教えねばなるまい」
西暦ニ〇〇年の冬。官渡の戦いで両軍は対峙した。寒風が旗を激しく叩きつける音が響く中、曹操(創造柱)は自軍の兵糧の不足に意識を配り、早期の決着を目指した。
一方、袁紹は兵力と物資に奢り、細かい戦略を無視した。曹操はこの傲慢を見逃さなかった。彼は奇襲を敢行し、袁紹の兵糧庫を焼き払った。夜空を焦がす炎の匂いと、袁紹軍の混乱を示す悲鳴が夜通し響いた。
曹操は馬の背で立ち上がり、燃える兵糧庫を見つめた。顔に当たる炎の熱が強い。
「時代は血筋ではなく、実力と現実によって動く。お前の伝統はここで、灰となる」
旧時代の有力者の敗北は、新しい乱世が血筋ではなく実力によって創造されることを世に示し、創造者である曹操の新しいシステムが中華に根付くための決定的な土台となった。この曹操と袁紹の関係は、後の日本の世の信長(創造柱)と今川義元(伝統の拘泥者)の関係でも発揮される。




