第一話:案内人としての三柱
歴史の重要な転換点には、旧体制を壊し、新たな体制を作り、人々が暮らす世を整えるものが生まれてきた。彼らの活動は時代や場所は違えども、よく似ている。
それもそのはずだ。彼らはそれぞれ同一の存在の生まれ変わりなのであった。それはこの惑星地球の創造、建設、破壊を司る三柱(創造柱・建設柱・破壊柱)の生まれ変わりなのであった。彼らは時に同時に複数の身体に宿り活動をした。そして、彼らの活動の手助けとなる役割を担う存在たちもまた、時代の転換期には同じような役割で生まれ変わるのであった。
三柱(創造柱・建設柱・破壊柱)の文明への介入は、人類の自立進化を促すための介入だ。彼らの真の使命は、文明が進化の袋小路に入り込んだ際に新しい道筋を提示することにある。彼らは、基本的には人類自身が創造、建設、破壊のサイクルを自力で回すようインスピレーションを与える。そして、歴史の節目でのみ肉体に宿り、重要な役割を果たすのだった。
時間と空間を超越した無限の回廊は、虚空が広がり、ただ、三つの光が静かに漂い、集合していた。光はそれぞれ振動し、運用についての確認を行っていた。
創造柱は、最も激しい煌めきを放ち、その光は喜びを表すかのように微細に震えていた。
「硬直した秩序を破壊のエネルギーで打ち破り、世のための設計図を描く。そして、太平し、進化の場を整える。それが、我らの使命だ」
建設柱は、創造柱の光に同意するように穏やかに輝いた。その光の色は深く、安定した構造物を思わせた。
「我々の使命は、人類の自立進化を促すことにある。過剰な介入は、彼らの意欲を奪う。必要なのは、袋小路からの脱却点を与えることだ」
破壊柱の光は鋭く、わずかな熱を帯びていた。
「役目を終えた、硬直した秩序の破壊は、新しい創造の余地を生む。それが我の役割だ」
三柱は、過去の歴史の記録を一瞬で見渡した。人類はすぐに腐敗し、不幸の連鎖を産み出し、滅びの道を歩んでいく。その記録は、無数の煙のように回廊に漂っていた。
建設柱の光が一つの点に収束した。
「次の舞台は東の果て、我々の使命を全うしようぞ」
三柱は、次の転生先を決定した。それはまだ、豪族たち有力者が入り乱れた、文明の駆け出しの時代の日本であった。
創造柱は、光を一つの、形へと変形させた。
「最初の国の形を作る青写真の創造に相応しいのは、小さな、しかし無限の可能性を持つ器。少彦名に宿ろう」
建設柱は、創造柱の隣により大きく、安定した光の塊を形成した。
「創造柱の青写真を実現させ、大地に国を建設する重責を担う入れ物は、大国主が相応しい。我が創るは、長く続く、調和の構造だ」
破壊柱は、二つの光の周囲を鋭い弧を描きながら巡った。
「停滞する建設を破壊し、発展を促すために、荒々しい、変革を望む肉体が必要だ。素盞嗚に宿る」
彼らは、人の世に紛れるため、いわば演技をすることを確認し合った。肉体に宿るものとして、本気で生き、活動をする。あまりにもスムーズだと人間の活動のためにならないために、苦労をしてギリギリで乗り越えているように見せかける。
建設柱の光が微かに震えた。
「我々は人間の限界を超えた、時の運とエネルギーで状況を乗り越えていく。ひとにはできぬことも我らにはできる」
「演技ではあるが、感情も体験も全てをリアルに体感するぞ」と創造柱の光が応じた。
三柱は一斉に、時間と空間の回廊の一点へ光を投じた。
三柱は転生を開始した。しかしそれは転生というよりも、常に全ての時代の全ての役割を持つ肉体に同時に宿っている、という表現が相応しいのかもしれない。
建設柱は大国主の肉体に宿り、出雲の冷たい砂浜に足を踏みしめた。海の荒々しい潮の匂いと、足元の砂の冷たさが彼を包む。
彼は、遠く、まだ、混沌としている国の姿を見つめ、静かに宣言した。
「過去は過去にあらず、未来は未来にあらず、全ては今として存在する。この地に、永く続く、調和の構造を建設する」
その声は、出雲の荒々しい波の音に吸い込まれていった。
時間の連続性を保ちながら、この文明を彼らが常に進化させ続けていたのだ。
◆生まれ変わり歴
年代(概算) 創造柱 / 建設柱 / 破壊柱
紀元前一一〇〇年頃 太公望 / 文王 / 武王
紀元前一〇〇〇年頃 少彦名 / 大国主 / 素戔嗚
紀元前一〇〇〇年頃-五八〇年頃 ダビデ / ソロモン / ネブカドネザルニ世
紀元前六〇〇年頃 崇神天皇 / ー / 神武天皇
紀元前ニ五九年頃 始皇帝・張良 / 劉邦 / 項羽
紀元前一〇〇年頃 カエサル / アウグストゥス・トラヤヌス / コンスタンティヌス
一五五年頃 曹操 / 劉備 / 呂布
三〇〇年頃-五〇〇年頃 応神天皇 / 仁徳天皇 / 雄略天皇
六〇〇年頃 李世民(太宗) / 李淵 / 尉遅敬徳
九〇三年頃 藤原道長 / 藤原頼通 / 平将門
一一一八年頃 平清盛・源義経 / 源頼朝 / 和田義盛
一ニ八八年頃 足利尊氏 / 後醍醐天皇 / 護良親王
一五〇〇年頃 メフメトニ世 / ー / スレイマン一世
一五三四年頃 織田信長 / 徳川家康・徳川吉宗 / 本田忠勝
一七五四年頃 ロベスピエール / シエイエス / ナポレオン
一八ニ八年頃 大村益次郎・坂本龍馬 / 徳川慶喜・西郷隆盛 / 高杉晋作
一八三ニ年頃 マクレラン少将 / リンカーン / リー将軍
ニ〇〇〇年代 完全体
◆他の生まれ変わり歴
・内なる毒:趙高、ブルータス、高力士、李元吉、平頼綱、豊臣秀吉
・伝統の拘泥者:袁紹、今川義元
・創造の斥候:源義朝、織田信秀
・悲劇の輝き:曹沖、足利義嗣、森蘭丸
・信頼の破綻者:李斯、明智光秀
・義の体現者:楠木正成、鳥居元忠
・勢威の加速者:呂雉、北条政子
・創造の伴走者:クレオパトラ、静御前、お龍




