第80話 強い想い
静寂の中、まるで美術館の展示品のように、氷の中にアラン達がいる。
氷のせいで、広間に出来た空間も寒さで温度がどんどん下がる。
凍りついたパラデニア種のソフィーは、姫様を見つめている。
ソフィーから、小さな小さな亀裂が氷にできると、抱き合う姫様とアランのもとに、一本の糸ほどの細い亀裂が走って行く。
亀裂は、アランと姫様に到達すると、今度は、亀裂を広げながら光りがソフィーに向かって逆走して行く。
光りが亀裂を押し広げる。
さらに縦に横にと亀裂が入ると、光りは激しい炎に変わり、一気に氷が炎で蒸発しながら壊れていく。
「うわっ。」
ポールが、床に転がる。
「アラン、大丈夫ですか……。」
姫様がアランを心配そうに覗き込む。
アランは、姫様を抱きしめたまま座り込む。
「……あぁ、何とか…ね。」
アランは、苦しそうに答えた。
あー、マジやばかった。
あの亀裂が無かったら、炎が出せなかった。
……しかし、力を使い過ぎたな。
立ち上がれそうに無いや。
アランは、ソフィーを見る姫様を離した。
スタンとボッサは、あぐらを組んで座るアランの足の上に乗っかり丸まろうとしている。
アランは、2匹を撫でながら、姫様とソフィーを見ていた。
姫様は、ニーナとチルチルの横を通り、檻の中のソフィーの前に立つ。
姫様が手を前に差し出すと、ソフィーを閉じ込めていた檻の鍵が外れ、扉が開いた。
「ソフィー、閉じ込めていた事、ごめんなさい。わたくしと、先代、その前の姫様達の事も、許してほしい。」
姫様の声は震えている。
「わたくしを、氷の中から助けてくれたのですね。ありがとう。……もう、わたくしは大丈夫です。わたくしを助けてくれる人達がいてくれます。」
ソフィーが、檻の中から出てくると、姫様がソフィーの頭を撫でた。
「ソフィー、ありがとう。どうか……自由になって。」
ソフィーは、ゆっくりと広間を進む。
一度、姫様を見たが、ソフィーは走り出した。




