第74話 噂通り
翌朝、目覚めると目の前にスタンの顔があり、大あくびをしている。
「くっさ!……スタさん、お口臭いよ。女の子に嫌われちゃうぞ。」
アランは、渋々起きた。
「……人間!」
スタンもボッサも、いつの間にか体が枕から落ち、頭だけが枕に乗っていて、まるで人間のように枕を使っている。
アランは、回りを見回した。
やっぱり王宮。
半端ねぇ、広さと綺麗さ……。
スタンとボッサは、やはり昨日のご飯を食べていた。
あいつら、汚くしてねぇだろうな。
ボッサが、ベッドを降り、伸びをして、体をふりふり振ると、急いでご飯を食べに行く。
いや、もう無くねぇ。
……もしやスタさん、お前全部食べたの。アランは、スタンを見ると我感せずと前足をぺろぺろと舐めて、顔を洗っている。
ボッサ、皿ぺろぺろ舐めてるよ。
……可哀想。
アランは、皿にいつものカリカリを入れてやる。
ボッサは、匂いを嗅いでまた待っている。
……ごめん、同じもの無い。
ドアをノックする音が聞こえ、アランが返事をすると、また、お城で従事している人達が、片付けてくれる。
いつの間にか、スタンは、ボッサと一緒に皿の前に座っていた。
しかし、朝食は、一階の客間に用意すると言われたので、先ずは朝風呂とした。
王宮にいるのだから、身だしなみ、身だしなみ。
アランは、泡風呂の中で鼻歌を歌いながら、スタンとボッサを洗ってやる。
流石だな、泡が違うぜ。
きめ細やかで、泡が崩れない。
「なっ、アフロっボーイズ!」
泡をたっぷりと頭に乗せられたスタンとボッサは、直ぐ様頭をふりふりする。
耳がくすぐったいようだ。
アランは、スタンとボッサを風呂から出して、魔法で乾かしてやる。
「おー、ふわふわじゃん、モデルかよー。」
スタンもボッサも、サラサラヘア。
アランも、さっと魔法で乾かして、朝食を食べに向かうところで、ポールもニーナも来たので、みんなで一階に移動した。
昨日と違って、給仕の人達が付いているので、緊張の中、朝食を食べていた。
魔獣達だけが、いつもの様に食べている。
ひと際、騒がしく食べているスタンとボッサが羨ましかった。
なんか、美味しいのに味わって食べれないなー。
アランが、そう思っていると、ドアが開いた。
白とピンクのひらひらした軽やかなドレスを着た女性が立っていた。
綺麗な長い金色の髪が、サラサラと歩く動きにあわせて揺れる。
アランには、彼女の動きが、まるでスローモーションのように見えた。
アランは、席を立ち、一礼をした。
彼女が手を差し出したので、手の甲にキスをした。
彼女の手は、氷のように冷たかったが、アランは表情に出さずにいた。
「魔獣の子らがいると聞いたので、会いに来ました。食事の途中に申し訳なかったですね。」
彼女の美しい声に、惹き込まれそうになる。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。」
どうせ閉じ込めてるとは、城の者も言わないだろう。
アランは、見惚れているポールとニーナを紹介して、魔獣達も紹介した。
ニゲル種のボッサとヘナ種のスタさんは、まだお子様なので、否スタさんは、お子様のフリだが、彼女は、初めて見たようで感激していた。
スタさんとボッサを触ったが、2匹とも彼女の手の冷たさに、驚いたのか後ずさった。
彼女は、悲しそうに目を伏せると立ち上がろうとしたので、アランは手を差し出した。
彼女が手を取り立ち上がったところで、もう片方の手も取った。
アランは、魔法を使い彼女を暖めた。
「……体が軽くなったわ。」
彼女の頬に少しだけ赤みがさした。
「これは一時ですよ。あまりお役に立てなくて、申し訳ございません。」
アランは、頬を染めた彼女に見惚れた。
「……また後で、魔法をかけて下さいね。」
彼女は、伏し目がちにそう言うと、静かに部屋を出て行った。
「……誰。」
ポールが、やっと声を出した。
「……綺麗。」
ニーナは、まだ彼女が出て行ったドアから目が離せないでいる。
……噂通り、本当に美しいな。
アランも、ポールもニーナも姫様の美しさに動けずにいた。




