第58話 魔獣グリンとロクド
「その岩、本当に動いてんの?」
新人ハンターくんが、首を傾げている。
「微妙に動いてんのよ。……教えて師匠。」
女の子ハンターが、ロクドのことを指差してアランを見る。
「誰が、師匠だよ。そんなもんになった覚えはない。」
しかし、アランは、仕方なく教えることにした。
「このロクド様はだよ、まったく人間に危害を与えることも無く、逆に人間にとってはありがたい魔獣として生きておられるわけよ。俺等なんか生まれるより、うーんと前からな。」
アランは、ロクドを撫でる。
ただの岩にしか見えない。
足などは見えないが、微妙に浮いていて進んでいる。
「何、食うんだよ。」
新人ハンターくんは、戦えない魔獣と分かると興味を失ったようだ。
「草だよ。花や実がついていると寄り付かない。甘い匂いが嫌いなのかもな。」
「辛党かよ。」
新人ハンターくんがツッコみを入れる。
二択かよ、勝手に決めんな。
新人ハンターくんの一言を無視して、アランは説明する。
「このサイズで大人らしいぞ。んで子供の頃は、石と同じで持ち運びが出来るから、見つけると、家に連れ帰り庭にいてもらうのさ。夕方ぐらいに連れてくれば、朝には、庭の雑草が無くなっている。凄いだろう。だから、お隣さんから、次はうちの庭をお願い。なんてなって転々とするわけさ。」
「なんか全然、凄さが分からないんだけど。」
新人ハンターくんが感動のない返事をする。
分からねーだろうな、お子様には。
「その内、庭ありの家でも持てば分かるよ。」
親とロクド様のありがたみを噛みしめろ。
「今は、コイツも、ただの旅人さ。」
アランは、ロクドを撫でながら考える。
若いうちは、人の庭をまわり、大人になると徐々に、町から離れていく。
…もうすぐ、ただの岩になる。
「お役目ご苦労さま。」
アランは、ロクドを撫でる。
ゆっくりと最後の場所を見つけるだろう。
「なんか、つまんない人生だな。」
新人ハンターくんが呟く。
「まったく、失礼な言い方するなよ。それは、お前の考えだろう。人生なんて、自分が良かったか、どうかでしかない。良し悪しをお前が決めるな。」
アランは、ため息をついた。
「おら、じゃあ、人の人生にケチつけてないで、自分の人生考えろや。」
アランは、杖を出した。
火柱があがったかと思うと、美しい銀色の杖が現れた。
「戦う準備は、出来てるだろうな!」
アランの声に、2人とも急いで立ち上がる。
「来たの?」
女の子ハンターが、剣を構える。
「ずっといたさ。」
アランは、杖を地面に強く打ち付ける。
地表が小さな波のように揺れながら、見渡すかぎりの畑に伝わって行く。
突然、茶色の生き物が、地面から勢いよく飛び出して来た。
しかも、たくさんいる。
「何あれ?キモい!」
女の子ハンターが叫ぶ。
「あれがお待ちかねの魔獣グリンだよ。」




