第54話 最低限の準備
「スタさん、ボッサ可愛いな。中々似合っているぞ。これ買うか。」
アランは、スタンとボッサにレインコートを試着させていた。
「お前、雨の中歩かないじゃん。雨降るとすぐマジックハウス出すクセに。」
新人ハンターくんは、鋭い一言をアランに浴びせる。
「…いつか必要になるかもしれないだろう。準備は大切だ。お前も準備しとけよ。」
アランは、もっともらしいことを言い返す。
間違ってない。
「だいたい、お前の攻撃は、矢ばかりじゃないか。他に攻撃に使える物は無いのか。それからアレクサンダーの装備もな。」
「……今いち、欲しいのが見つからない…。」
新人ハンターくんは、歯切れ悪く答える。語尾は何やら聞き取れない。
アランは、女の子ハンターも見た。
こちらも何やら、目を合わせない。
こいつら、素直に分からないと言いやがれ。
アランは、アレクサンダーとチルチルも見た。
アレクサンダーは、縋るように見返し、チルチルは珍しくアランに救いの目を向けている。
アランは、アレクサンダーの着ている装備を掴む。
「重っ!」
マジか。
チルチルの装備も掴む。
こちらも、アレクサンダーよりは軽いがチルチルの体からすると重い。
アランは、思わず新人ハンターくんの装備や女の子ハンターの装備も掴む。
「重いな。良く頑張って歩いたな。」
アランは、感心したが、同時に気づいてやれなくて悪かったと思った。
アランにとっては、ハンターの装備についての関心は、全くといって無かった。
「ハンターだから、これくらい頑張るさ。」
新人ハンターくんが言うと、女の子ハンターも同じようなことを言ってのけた。
……俺、無理。
アランは、ササッと魔法で、彼ら全体の装備を軽くしてやる。
「軽い!」
女の子ハンターが、思わず声を上げる。
「基本的に機能は変わらない。ただ、防具に魔獣よけつけたから、魔獣からの至近距離の攻撃は受けにくいはずだよ。俺には、このぐらいしか出来ないかな。だから、少しは装備を増やせよ。」
アランの言葉に、2人とも店内を物色し始めた。
「おい、買う前に念の為、俺に見せろよ。俺の魔法で何とか出来るものあるかもしれないからな。」
アランは、あの2人じゃ何買うか心配になって声をかけた。
アレクサンダーとチルチルは、尻尾を振りながら相棒と店内を歩いている。
やっぱりしんどかったんだな。
アランは、スタンとボッサを見た。
相棒どもは、困ったように座っている。
「ずっと着る訳じゃないよ。雨の時だけな。それと、やっぱりお前達にも必要だよな。なんか装備を見つけような。」
アランは、スタンとボッサのレインコートを脱がしてやると店内を歩きだした。
「危ないな、転ぶだろ。」
動き易くなったスタンとボッサは、アランの足に、まとわりつきながらついて行く。




