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第132話 いいのかな

 アランは、まったく起き上がれなくなった。


「アラン、大丈夫?」

 シンシアが、声をかける。


「……少し、…息が、……。」

 アランが、苦しそうに呟く。

 自力で息をするのが、難しくなっていた。


「少し、薬草を使うわね。」

 シンシアは、薬草を使った魔法をアランに施した。


「ありがとう。……楽になったよ。」

 アランは、大きく息を吸い込み吐き出した。


「ちょっと、父の仕事場に行って、また戻って来るわね。」

 シンシアが、部屋を静かに出て行った。


 アランは、また眠りにつく。




 アランは、また野原に向かい歩いていた。


 スタンは、お子様サイズで横を歩いている。

 ローブを引っ張ったり、大きくなって上に乗っかかられることも無い。


 一度、アランは立ち止まり、スタンを見る。

 するとスタンは、アランの肩に向かって駆け上がる。


 スタさん……。

 駄目だって、もう……。


 アランは、ふと考える。


 このまま、野原に行くとスタさんまで連れて行ってしまうのではと。


 スタンは、ぷぃっとそっぽを向く。


 うーん、困った、……困った。




 アランは、目を覚ますと自分の胸の上にいるスタンと目が合った。



「ごめん、スタさん……、もう、……行かせてよ。」

 アランが、力なく呟く。

 スタンが立ち上がり、アランの胸から降りると、アランの頬や頭に駄目だと言わんばかりにスリスリしてくる。


「スタさん……、もう疲れたよ……」

 アランの涙がこぼれる。


 アランは、スリスリするスタンのもふもふ毛を楽しむように微笑んだ。


「アラン!アラン!」

 ドアが開く前から、シンシアの大きな声が聞こえる。


 なんだよ、今度はシンシアが邪魔しようとしているのか……。



「アラン!あったの!あったのよ!」

 目を開けると、シンシアが泣きながら叫んでいる。


「あったのよ、見て!」

 シンシアの手には、少しだけだが、ピンと伸びた、白い線のような模様がある、草の葉の束があった。


 確かに一度、魔法協会の専用図書館で見た、探していた薬草だった。


「……本当にあったんだ。本当に。」

 アランは、驚きの声を小さく呟いた。


「父が、すぐ調合するわ!」


 クライブが、シンシアの後ろから顔を覗かせる。

「アラン、すぐ用意するから待ってろ。もうひとつの薬草を合わせて使うんだよ、それはもうすでに、他の人が見つけてくれて有るから、待ってろよ、すぐ持ってくるから!」

 クライブが、待ち望んだ薬草を持って部屋を出て行った。


「アラン、あの薬草、あなたの友達から届いたみたいよ。箱と一緒に、あなた宛の手紙が付いていて、魔法協会がここに送ってくれたようなの。これが手紙よ。」

 シンシアは、泣きはらした目で微笑み、封筒をアランに見せた。


「ごめん、読んでくれるかな、目が良く見えない……。」

 アランが、弱々しい声で頼んだ。


「分かったわ、読むわね。」

 シンシアは、封筒を慎重に切り開き、手紙を取り出し、ゆっくりと読み始めた。


  ✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬


 アラン、

 この手紙が生きているお前さんに届くことを祈るよ。


 お前さんを森で見送ってから、あの人のことを良く思い出すようになったよ。

 喧嘩したことや楽しかったこと、本当に昨日の事のように思い出してね、今、とても幸せだよ。


 薬草のこと、あの時、思い出せなくて申し訳ない。

 私も、すっかり忘れていてね、と言うか、あの人のことを思い出さないようにしていたのかもしれない。

 ちょっと辛くてね。


 でも、思い出したんだよ。

 ありがとう。大切な思い出をまたひとつ思い出させてくれて。


 あの薬草はね、私が渡した地図の危ないとバツ印を付けた所にあったんだよ。


 あの人が昔、ハンターとして森の奥に入った時、珍しい薬草を見つけたと言っていてね。

 貴重な薬草だと、心底驚いたと話していたんだよ。

 ただ、その薬草は、ほんの少ししか無くてね、あの人は、沢山自生するように肥料を撒いただけで戻って来てしまったんだよ。


 そんな貴重な薬草なら、高く売れるだろうから持って来れば良かったのにって言ってやったら、

 あの人は、いつかお前が困ったら使えるように、なんて言ってね、

 その時は、枯れたらどうするのよって言ったけど。

 本当に、いい男だったんだよ、本当に。



 この量で大丈夫な事を祈るよ、あの場所には、本当に厄介な魔獣達がいてね、これしか採れなかったんだよ。


 話が長くなったけど、この薬草は、あの人、それに私の役に立ったようだよ。

 今は、幸せな気分だよ。


 お前さんは、この薬草を使って生きな、幸せにお成り、生きてこその幸せだよ。


 ありがとうね、坊や。


 森の魔女より


  ✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬✬


 アランの涙が頬を伝う。


「自分で使っても、良かっただろうに……。」

 アランは、力なく呟いた。




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