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第131話 アランの後悔

 アランは、急いで家を出た。


 アランの両親は、日中は、ほとんど仕事場にいるので、帰ってから一度も顔を会わせずに出て行った。



 橋を渡り、林を走っていると急に飛び掛かられた。

 今、一番会いたくないアイツだった。


「おい!どこへ行く気だ。まさか師匠の所に行く気か!さっきの本返せ!今すぐここを出る!」

 慌てた様子で、師匠の元弟子は周りを見渡した。


「これは、駄目な魔法だ!師匠に渡すんだ。弟子失格の奴が持ってたって言いつけてやる!」

 アランと元弟子は、本の引っ張り合いになった。


「放せ!クソ餓鬼!……放さないと、……あそこにいる犬とジジィに、この本に載っている魔法をかけるぞ!」

 アランは、咄嗟に本を放した。

 犬と老人は、最近、両親のもとに薬を買いに来た人で、両親に何度も感謝の言葉を言い深々と頭を下げていた人だった。


「じゃあな!クソ餓鬼!」

 元弟子が、立ち去ろうとした瞬間、後ろから声がした。


「おい!止まれ!」

 帰りに橋の所で会った3人だった。


 元弟子は、走り出した。

 3人は、アランを無視して、元弟子を追いかけた。



「アラン!」

 師匠が、血相変えてアランのもとに走って来た。

 あの3人と一緒だったのかもしれないとアランは思った。


「大丈夫か?怪我は?」

 師匠は、アランを抱きしめた。


「アイツ、危険だよ!危ない本を持っているんだ!あの人達、大丈夫かな……。」

 アランの最後の言葉は、小さくなった。

 師匠の顔が、見る見る間に怖い顔になっていく。


「読んだのか!……なんで、まさか全部、読んだのか……。」

 師匠の顔は、怖い顔から、悲しそうな顔に変化していく。


「だって、アイツが覚えられないだろうって馬鹿にするから!」

 アランは、泣きそうになっていた。

 師匠に嫌われる、弟子失格になる!


「アラン、……お前は頭のいい子だろう?中を見て、なんで直ぐ読むのを止めなかった!」

 師匠の手が、非難を表すようにアランの腕を強く掴む。


 アランは、怖くて声が出なかった。


 女の悲鳴が聞こえた。


 師匠が、家に急いで帰れと、アランを離し、女の悲鳴が聞こえた方向に走って行った。


 アランは、呆然としていた。


 帰るべきだと思いながら、足は師匠を追っていた。



 林を通り、小さな丘を下り、湖までもう少しの所まで着くと、アランは足を止め、木の陰からそっと覗いた。


 元弟子が、本を手に持ち師匠に叫んでいるが、師匠は、膝と右手を地面に付いて苦しそうにしている。

 師匠は、病気だ。

 力を出し切れないんだ!


 魔法協会の男が、師匠の前に入って戦っている。

 1人で。


 アランは、木の陰から出て辺りを見回した。

 アランの直ぐ側の草むらに、橋でアランに話しかけた女が倒れていた。


 アランを見ているのに、見えていない、まるで遠くを見ているようだ。


 ……魂を抜く魔法。


 アランは、小さな悲鳴を上げた。


 もうひとりいた男も倒れていた。

 顔が見えないから、死んでいるのか、女と同じなのか分からなかった。



「止めろ!」

 師匠の声だった。


 魔法協会の男が、倒れた。


 元弟子が、師匠に近づこうとしていた。


 師匠は、魔法を繰り出しながらも、苦しそうに膝を付いている。


 師匠が……。


 アイツに…、アイツに魔法を……、あの本に載っていた魔法を……。

 アランは、震えていた。


 魂を抜く魔法……、覚えてる……。

 魔法を使って、師匠を助けるんだ……アイツを……、アイツを……。

 さっきの女の顔が、チラついた。


 師匠が……。


 アランは、咄嗟に魔法をかけた。


 アランは、体の不調を感じて、そのまま膝を付き、苦しみに耐えながら師匠を見た。


 師匠がアランを見る。

 悲壮な顔が、激昂に変わった。


 アランは、地べたに倒れた。


 怖くて、魂を抜く魔法を使えなかった。


 代わりにアランは、師匠に魔法を使った。


 身代わりの魔法。


 なんで、これが禁術なのか、アランには分からなかったが、アランは、師匠の病気をもらい、自分に代わって師匠に戦ってほしかった。



 師匠は、立ち上がり元弟子に魔法を使ったようだったが、アランは、苦しくて気を失った。


 どうか、師匠が勝ちますように……。




 アランが目を覚ましたのは、タイラーの両親が営む診療所のベッドだった。


 体が怠くて、ろくに話すことも出来なかったが、アランの両親が泣きながらアランの頭を撫でた。



 知らない声が、アランの両親に話しかけた。少しだけ、二人だけで話しがしたいと。


 両親は出て行き、アランは知らない年配の男と二人きりになった。


「クリストファーは、……君は、禁術書のことは知らないと言っていた。そう言うことであっているか?」

 無表情で、静かに押し付けるような物言いで、怖い人だと思った。

 有無をも言わせない雰囲気に、アランは思わず頷いた。


 男は、頷くと部屋を出て行こうとした。


「師匠は?」

 アランは、掠れた声で尋ねた。


「クリストファーのことは、忘れなさい。……今日のことも、誰にも話さず、全てを忘れなさい。」

 威圧的な雰囲気の男は、静かに出て行った。





「忘れられないんだよ……、何もかも……。」

 アランは、シンシアの肩で泣いていた。


「……師匠は?」

 シンシアが、静かに尋ねる。


「刑務所にいる。……アイツを殺したから……。」

 アランが、小さな声で呟く。


「みんな教えてくれなくて、体のことを心配しなさいと言われるばかりで。タイラーがやっと教えてくれた。

 あの後、魔法協会の会長や特級魔法使いが来たと。師匠が元弟子を殺し、その戦いで、本は燃えて灰になったと話していたって。……師匠は、彼らに連れて行かれた。……あれから一度も会ってない。師匠は、俺のこと怒っているだろうな……。」

 アランは、寂しそうに話す。


「師匠は、可哀想だ。……人殺しで、弟子に病気を押し付けたと思っているんだろうな。……身代わりの魔法がなんで禁術なのか、今なら分かるよ。師匠は、居た堪れない気持ちだろうな。自分の病気で、弟子が先に死ぬなんて……。全て、俺が、あのとき自分でやれば良かったんだ。

 意気地なしなんだよ。全部師匠に押し付けて、汚い奴さ。……師匠に謝りたい……。」

 アランは、自分の足を殴った。


「怒ったりしてないわ…。かわいい弟子に怒ったりするもんですか!」

 シンシアは、アランの両頬に優しく手を当てた。


「アラン、病気を治して自分で師匠に会いに行くのよ。お願い!頑張って。死なないでアラン、お願いよ……。」

 シンシアは、アランにキスをして泣きながら、アランを抱きしめた。



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