第129話 アランの懺悔
「アラン、大丈夫?」
「あぁ、今日は、気分がいいかな。」
アランは、シンシアが持ってきた水を飲んだ。
「……ねぇ、シンシア、聞いてくれる?」
シンシアは、サイドテーブルに、アランから受け取ったコップを置き、ベッドに腰掛けるとふたり仲良く、ベッドのヘッドボードに寄り掛かり、アランは、シンシアの肩にもたれかかり話し始めた。
「……俺はね、子供の頃、凄い天才だったんだよ。自惚れているって笑っていいよ……、でも、本当に何でもすぐ覚えられて、どんな魔法でも、簡単におぼえちゃってさ。……本当、もう覚える魔法が無いんじゃないかと思ったぐらいにさ。退屈してたんだよ。……あいつが来るまでね。」
アランは、ため息をついた。
「俺が生まれた街はね、知っての通り保養地として有名で、師匠も病気の為に来ていたんだ。若いのに、可哀想にね。……俺もだけど。」
アランは、力無く微笑んだ。
シンシアは、アランの頭を撫で微笑むとアランは、また話し続ける。
「あいつに、街の外れで声をかけられたんだ……」
まだ幼いアランは、街の外れにあるお屋敷に、薬を届けに行くところだった。
細い川に架かる橋を渡り、その先にある小さな林を抜けて、小高い丘の上にお屋敷がある。
その小高い丘を越えると、大きな山に囲まれた、大きな湖がある。
そのお屋敷の近くは、自然に囲まれた静かな良い所だった。
お屋敷には、この街出身の特級魔法使いが住んでいて、病気の為に、この保養地に住んでいた。
「師匠、薬を持って来たよ。」
アランが、庭の椅子に座る特級魔法使いのクリストファーに渡す。
クリストファーは、アランと同じく、若くして特級魔法使いになった人だ。
「師匠って呼ぶのは、止めろって言ったろ!」
「何だよ、機嫌が悪いなー。」
クリストファーは、アランが勝手に師匠と呼ぶことに、前々から怒ってはいたが、アランは、今日の師匠はやけに機嫌が悪いと思った。
「あぁ、そう思うなら、さっさと退散しろ。」
師匠は、まだ30歳の若さだったが、可哀想に、金髪のイケメンが病気の為に、痩せ細り、気怠い顔になっていて、アランの両親の薬草が無ければ、すでに亡くなっていたかもしれないほど、病気は進行していた。
アランの両親は、とても凄い薬草師として有名で、師匠もわざわざ、アランの両親の元に通っていた。
その凄い薬草師をもってしても、病気は完全には治らず、現状を維持するに留まっていた。
アランは、まだ10才と幼く、病気と言うものを知っていても、それに伴う痛みや死というものを良く分かっていない年齢だった。
「まったく、弟子なんて取らなきゃ良かった!だから、お前も弟子じゃないからな!」
クリストファーは、袋の中身を確認して、アランの頭を撫でると部屋に戻り、棚から木の皿を出すと、無造作にクッキーを木の皿に流し込む。
ミルクをコップに入れて、テーブルにそれらが置かれる。
アランは、そそくさとクッキーとミルクの前の椅子に座った。
アランは、この口の悪い特級魔法使いの手作りクッキーが好きだった。
クリストファーは、料理も得意でお昼を食べた後のケーキを目当てに、アランは、お昼の少し前にお屋敷に着くように来ていた。
「お屋敷から出てきた人が、機嫌の悪い原因なの?」
アランは、クッキーをポリポリ食べながら話す。
「あぁ、そうだ!アイツと絶対話すなよ。絶対に!アイツは、なんでか知らないが魔法協会から追われている。」
クリストファーは、お昼の支度をしながらアランに怖い顔をする。
「悪いことしたの?」
「知らん!魔法協会の会長に聞いたが教えてくれないんだ。……あの偏屈ジジィ!」
クリストファーの口の悪さに呆れながら、アランはミルクを飲んだ。
「そんな酷いこと言って、師匠の師匠なんでしょう?」
アランは、口にミルクの髭を作りながら笑った。
「あぁ、そうだよ。師匠ってのは、ろくな奴がならねぇんだよ。だから、お前も諦めな!」
クリストファーは、アランの口のミルク髭を拭いてやる。
アランの両親、タイラーやラリーの親も皆、師匠と呼ばれているけど……。
アランは、ご機嫌斜めな師匠が作る、お昼ご飯が遅くならないように黙って待つことにした。
これじゃ、また新しい魔法を教えてもらえないや。
アランは、退屈だった。
あんな退屈じゃなかったら、アイツと話すことなど無かっただろうと、アランはそう思いたかった。
「……だけど、ただ愚かな子供だったんだよ。」
アランは、寂しそうにシンシアの肩にスリスリとして、甘えるような仕草をした。
シンシアは、アランがまた話し始めるのを静かに待った。