表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

續・テオと「をばさん」

〈老いの目に映る姿は猫である猫しか見えぬ猫だけがゐる 平手みき〉



【ⅰ】


 テオは飽くまで足掻いた。「をばさん」に目の手術を受けさせたのである。

 その甲斐あつてか、だうやら光を感じるところぐらゐ迄は、「をばさん」の目は治つた。「をばさん」一名を砂田御由希(さだ・みゆき)と云つた。だが、テオには、「をばさん」で充分だつた。

「をばさん」、ふとテオを見て、「はて、猫?」と云ふ。(大變だ、「をばさん」惚けてしまつた)-くすん、折角の盡力も、僕を忘れてしまふなんて... テオはこの上なくセンティメンタルな氣分になつた。目、の次は脳か- もしかしたら*「依り代體質」なのかも...


*【魔】に憑かれ易い體質。


 と云ふ譯で、またもPCの厄介になる。(いゝ加減、このPCにも名前を付けてあげなくちや。さうだ、安保さんの「ロボテオ」に因んで、「PCテオ」にしやう)-だが、そんな事、「をばさん」の窮狀に比したら、全くだうでもいゝとさへ、云へた。



【ⅱ】


「濟まないねえ、あんたの名前、『をばさん』忘れちまつたよ」。テオは泣きたい氣持ちをぐつと堪へて、だつてさうでしよ? 泣いたつてだうせ猫の聲なのだ。人間のやうに上手くは泣けない。單なるおらびが漏れるだけでなのだ。(こゝは、男の子らしく、)泣くのは已めにした。「PCテオ」に、当たつてみたテオ、キイワードは「惚け」そして相も變はらず、「はぐれ【魔】」だ。

 たちどころに回答してくれる「PCテオ」だつた。テオの優秀な頭脳のうち、何%かは、このPCに頼りつきり。さてさて、PCの返した答へ、とは?


「老いの【魔】」。そのまんまやんけ、と云はないで慾しい。テオは眞つさらな心遣ひから、行動してゐるのだから。カンテラに相談してみやう。この前、それが功を奏したのだから、今度だつて-



【ⅲ】


 カンテラ「守錢奴のやうで濟まんが、『をばさん』の手術費用、幾らかゝつた? 俺はこの一件は仕事(ヤマ)にしたい、と思ふんだけど」「約百萬圓です」「それなら、3百(萬)殘金がある。じろさんも呼んで、仕事を遂行しやう」「ラジャー!」

 それだけで少しく、テオの心は眞つ暗闇から救はれた。「をばさん」に光が見えたのなら、僕だつて光を見たいんだ。テオ、哀しいまでに、「男の子」である。


「老いの【魔】」は、その微弱な力を最大限に行使する為に、人を撰ぶのである。丁度「をばさん」は、彼奴(きやつ)の魔力を發揮できる、最髙の狀件下にあつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈そしてまた春は更け行く夜の如く 涙次〉



【ⅳ】


 まづはなかなか本體を露はにせぬ「老いの【魔】」を、白日の下に、しかと見なければいけない。カンテラ、じろさん、で云つたら、じろさんの方が齡寄り臭い。本当は、カンテラは大東亞戦争前の「生まれ」で、じろさんより年上なのだが、人間であるじろさんは、カンテラから見ると、あつと云ふ間に年老いてしまふ、人間らしい人間、なのだつた。

 で、じろさん、「をばさん」の前に姿を現はした。テオは、「をばさん」に配偶者がゐた、か、だうか調べた。で、じろ「御由希、そこにゐるのは御由希か?」「をばさん」、「あんれまああんた、いつの間にそんな瘦せつこけて、おチビさんになつちやつて」おチビさん呼ばゝりは少しカチンと來たが、これは眞面目な仕事上のトライアルなのだ。じろさん平靜を装つて、「御由希- つて誰だつたつけ? 俺は最近、俺と云ふ者が分からぬ」。かうなれば、「老いの【魔】」の好餌、であつた。「をばさん」の口から飛び出た【魔】は、じろさんの體内に入り込まうとした。


 が、そこはじろさん、海千山千なのである。口を眞一文字に噤んで、【魔】の潜入を阻止。これもまた、日頃の武術鍛錬の賜物である。「はて?」「老いの【魔】」は困惑の(てい)。自ら惚けかゝつてゐる醜態を表に出してしまつた。



【ⅴ】


 すかさず、カンテラ。「だうやらボケかましてるのは貴様も同じだな」【魔】「な、なに?」

「このカンテラ様にひれ伏すのなら、今だぞ」テオ「!? 斬るんぢやないの?」カ「こやつ死期は近いわ。わざわざ俺の刀の錆を増やす迄もない」



【ⅵ】


 結局、カンテラのジャッジは正しく、「老いの【魔】」、そこらを彷徨つた挙句、ふつと消えてしまつた。テオ「やつた!!」

「をばさん」-「その聲はテオちやんだね? あんたあれ程こゝに來ちや駄目つて云つたのに」と云ひつゝ、「をばさん」は滿面の笑顔である。

 じろさん「これも女難と云ふのかだうか。カンさんあんただう思ふ?」じろさんはにやにやしてゐる。悦美、霧子、遷姫に、さう云や鞍田の情婦・斎子も... カン「いやだなあ、その『女難』つてのだけは」


 そして、氣付く迄もなく、カンテラとじろさんは50萬圓ずつ醸金し合つて、「をばさん」の次の手術は、成功裡に終はる。-なんだか、このシリーズにそぐはず、人情噺になつてしまつた。作者赤面の至りである。お仕舞ひ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈人情を刃傷沙汰に替へる時我がヒーローは笑みも浮かべぬ 平手みき〉


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ