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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
2章

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63、信者

 

「ま、行くなら魔物が活発化した遺跡の近くだな。そっちは他のヤツらの領域だから行くなら休みになるぜ?」

「なら、次の休みに行こうか」


 他のペアか……ユリオプスの発言で存在を思い出したレベルでディルさん以外の調査班とは会ったことがない。

 突然、相手の領域で出くわしたら面倒ごとになるのは目に見えている。大人しく休みを待つほうが良いだろう。


「暫くは近くの調査になるな。それと、記憶は進展あったのかよ?」

「いや、大してないよ。ま、落ち込んでもないけどね」


 衝撃のわりに記憶として戻った部分は少ない。ユリオプスに軽く首を振ったが、やることが分かっているだけマシだ。


「赤髪の尻尾をつかめれば、アンタの記憶も戻せるかもしれねえもんな?」

「はは、心配してくれてるんだ」

「さすがに気になるだろ。アンタ、謎が多すぎるんだよ」


 呆れ交じりな声に反して、ユリオプスのアイスブルーはやはり優しげに私を見ている。少しからかってみたら真顔で返されたうえに、ため息がさらに増えた。


「それは僕も思うよ。とは言え、例の赤毛と再会するなら実力をつけておかないと危険だよ」

「……光魔法の赤髪か」

「ね、身元とか割り出せないの? 光魔法の適正が珍しいって言うならさ」


 思考を赤髪の男に戻すと疑問が湧く。ゲームなら光属性なんて有名人だろう。あの男にもそういう悪名にしろ、何かしら認知があってもおかしくない。


「身元ってほどじゃねえけど……光適性で悪そうなヤツってあんまり見ねえな」

「そういう感じ? 中身まで明るい的な」

「明るいっつーか……ま、考えなしのお人好しが多いとは聞くぜ」


 私の予想と反して、ユリオプスは歯切れが悪そうに曖昧な印象を教えてくれた程度だ。だが、イメージ通り光属性が善と考えると、例の赤髪の異質さが増す。


「つまり、人格者タイプってことね。その理論だと、光魔法の男と対立してた僕は危険人物!」

「いや、明らかにあっちがヤバそうだっただろ! あんな人格者いてたまるかよ」


 あれが人格者ならこの世界は極めてあべこべだ。アシンメトリーな前髪を雑に払ったユリオプスの、ツッコミを聞き流しながら視線が手元に落ちる。


「……あはは、そうだといいんだけどね」


 話に夢中ですっかり机に放置された魔導書を意味もなく開いてみる。赤髪の問題も副団長に押し付けられた魔導書も山積みだ。乾いた笑いが零れても山は減らない。


 次の休みには調査が進展するだろうと思っていたが、そう上手くもいかない。



 四日後の休み、ユリオプスに急務が入り調査はお預けになってしまったのだ。かなりグチグチ言っていたユリオプスの態度からして副団長絡みだろうか。


「今日は一人なんだね! こんにちは、カルミアさん」


 突然呼ばれた名前に慌てて顔を上げると、見慣れないオリーブ色の髪がドアを閉める動きに合わせて揺れたのが目に入る。


 誰だろうか。調査室に来るのはここの班員くらいとしても見覚えがない。


「あなたは……えっと?」

「僕はクレオ。同じ調査班だよ」

「すみません、覚えていなくて」


 おずおずと尋ねてみるが、意外にも琥珀色の瞳は人懐っこそうに笑った。きっちり着こなされた騎士団の制服は少し土に汚れている。


「ううん、気にしないで。顔を合わせることも少ないし」

「たしかに……ディルさん以外とは会ったとがないかもしれません」


 ゆっくり近づいてきたクレオと名乗った青年は、軽く肩を竦めて見せた。調査班の良く言えば自由な空気には慣れているらしい。


「あとは、ユリオプスくらいでしょ?」

「……そうですね」


 ユリオプスとは流石に面識があるようだが、彼の名を呼ぶ声はどこか棘がある。そういえばユリオプスは、サボってる悪名の方が多い騎士ってことになっているんだった。


「そうだ、折角だし少し話さない? ここって人が少ないからさ、後輩ができて嬉しいんだ!」

「休暇ですし時間はありますよ」


 違和感よりも先に納得が来て、とりあえず苦笑いをしておいたが、クレオのテンションの高さにユリオプスの話は流れた。


 本当はやりたいことがあったけど……いや、ユリオプス以外の調査班から話が聞けるのは貴重な情報源だ。人の良さそうな笑顔のクレオに軽く頷いてみた。


「良かった! でも、お休みなのにこの部屋に来てるなんてすごく熱心だね」

「あはは、そういうわけでもなくて。この資料を置きに」


 にこにこと私を見つめるクレオに、机の上を指さして首を振る。本当は、ユリオプスと今日行く予定だった場所の資料を探しに来たが、言えるわけもない。


「あー、なるほど。失くすと班長に怒られるもんね」

「昨日の調査帰りに置き忘れてしまって。クレオさんはどうしたんですか?」


 目を瞬せた後に、少し疲れた顔になったクレオは恐らくディルさんの大音量説教でも思い出したのだろう。調査班の洗礼というやつかもしれない。


「前に出した資料が間違ってた気がして確認にきたんだよね」

「そうでしたか。僕、少しお邪魔でしたね」

「ううん! 休みに仕事の確認なんて一人だとつまらなかったしちょうどいいよ」

「え?」


 部屋を出ようとした私の手首を軽く掴んだクレオに誘導されるまま椅子に座る。同じように腰掛けたクレオは資料を広げながらため息をつく。


「僕ね、調査班でペアがいないんだ。カルミアさんが来るまで一番下でさ。しかも、入った時にペアがいないのユリオプスだけだったんだよ」

「組まなかったんですね?」

「うーん。ディル班長にもユリオプスは、お前だと合わないからやめとけ! って言われちゃってさ」

「ディルさんが? なんだか意外です」


 ディルさんなら、豪快な……というか強引な感じに組ませてしまいそうだが実際はそうでもないらしい。ユリオプスが先に誰とも組まないと突っ張っていただけかもしれないけれど。


 クレオは寂しさの滲む声で語るが、ユリオプスに対して棘があったのも納得ではある。


「うん、たしかに僕とユリオプスは合わないしさ。だから新人が入るの楽しみにしてたんだよ」

「……それは」


 つまるところ、新人とペアを組めると楽しみにしていたわけだ。ユリオプスと私が組んだせいでクレオが組むのはまた先延ばしということになってしまう。


 副団長とディルさんの話を考えると、調査班に人が増えるのはかなり遠い話になりそうだ。


「君がユリオプスと組むと思ってなくてさぁ……ちょっと残念! あ、でも気にしないでね。先輩面させてよ」

「後輩として学ばせてもらいますね」


 口を軽く尖らせたかと思うと、クレオは伏せていた琥珀の瞳を笑みの形にした。周りの隊員より少し小柄な彼は、後輩という存在がかなり欲しかったようだ。


「でも、ユリオプスと組んでて何かあったら頼ってよ。班長には言いにくいだろうしさ」

「お気遣いありがとうございます」


 ユリオプスにはやはり思う所があるのか半眼のクレオにお礼だけ言って、彼の広げた資料に視線を逃がす。二人分のスペースに一つだけ書かれた彼の名は、綺麗なのにどこか寂しい。


「でも、ユリオプスと上手くやれてるくらいだから器用なのかな?」

「どうでしょう……たまたま、教育係で関りがあったからですかね」


 詳しく話せないせいで言葉を選ぶのが難しい。資料を流し見るクレオの目を何となく追いながら次の言葉を探す。


「はぁ……僕も君とペアが良かったなぁ」

「……」


 大きなため息をつくと、資料を追いかけていたアンバーが私をとらえた。


 近くで見ると少し幼い顔立ちだが、綺麗な造形をしていることが分かる。オリーブ色の前髪が長いせいで、ぼやけて見えるのはもったいないのかもしれない。


「だって、ここの人達クセが強すぎない!?」

「それは、否定できませんね……本当に」


 次の言葉が見つかる前にクレオが叫ぶ。全くの同意であった。


 クセが少ないのはそれこそ、セダムさんくらいだろうか。彼は彼で鋭そうなため、クセの強い善人といった方があっているような。


「振り回される身にもなって欲しいよね!」

「なんというか、振り回している自覚がなさそうですよね」


 鬱憤が溜まっているらしいクレオに深々と頷いた。常識人らしい彼には、調査班のまだ見ぬクセの塊のような人たちは天敵なのだろう。


「ほんとだよ。みんな、アスター様みたいにきっちりルールを守ればいいのにさ」

「……副団長?」


 聞き慣れない呼び名に思わず首を傾げる。私の周りで、彼を名前に様付けで呼ぶ人はあまりいない。私は、本人に名前で呼ぶように命令されてしまったがクレオは自主的だろう。


 控えめに言って、嫌な予感しかしない。


「うん、アスター様だよ。厳格で強くて、かっこいいよね。僕もあれくらいの体格だったらなぁ」

「……威厳がありますよね」


 琥珀色はうっとりと心酔に沈む。もう、その瞳に私は映っていなかった。適当な同調の返事も大して聞こえてはいなそうなのが救いか。


 噂に聞くアスターの過激派とこんなタイミングで会うとは……運がないらしい。騎士団の中でも、副団長のカリスマ性に惹かれて信者のような団員もいるとは知っていたけれど。


 心の中で今日、一番の大きなため息をつく。クレオもしっかりクセが強い方の騎士団員であることが決定した瞬間であった。


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