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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
2章

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62、信頼稼ぎゲーム

 

「あれは……思想の違いが原因ですね。ついカッとなって言葉を選べなかったとも言えます」


 ユリオプスと私の仲は誤解させた方がいい。しかし、嘘を言っても副団長にはバレるだろう……となれば、どうとでも取れる言葉で誤魔化すしかないのだ。


「元教育係だからといって庇わなくていい。奴は愚かで腰抜けなうえ、逃げることしか能のない人間だ。関わったところで君の成長には繋がらないだろう」

「不都合がありましたら、あなたを頼らせていただけたらと思います。今の僕にそのような価値はございませんから」


 煮え切らない私の態度に不信感を持ったのか、副団長の声が一層低く響く。ここで動揺しては、彼の思惑外に私がいると言っているようなものだ。


 なら、カルミアとしての自己否定ゆえの発言に持っていけばいい。自然に彼から視線を逸らして、不安げに見えるように右手で左手を握り込んだ。


「どうやら、記憶をあきらめたことを後悔しているようだな?」

「素直に言えば……そうかもしれません。あの日から不安で仕方ないのです。こんなでは、あなたに見捨てられてもおかしくないから」


 責めているともただの確認とも取れる副団長の声に、一瞬考えて直ぐに震えた声で返す。客観的に見て、今のカルミアには副団長の望む力はまだないのだから、この発言は筋が通っているはず。


「そのようなことはない……カルミア、君は賢い。いずれ私の理想に届くさ」

「魔物を、この世界から滅ぼすのがアスター副団長の理想ですよね。僕の存在が、あなたの高尚な理想の手助けになれば価値ができるでしょうか」


 ああ、また妙に甘さを感じる響きだ。


 オルテンシアとして自我を確立した私には、見え見えの罠にしか見えない。だが、こんな風に全て許されて肯定してくれるようにカルミアと呼ばれていては、自分を見失った瞬間に取り込まれていただろう。


「……安心しろ、君が正しくその意味を理解できるまで導くさ」

「魔力の制御は鍛錬を重ねます。それで……他に何かお役に立てることはないでしょうか?」


 床に落ちていた視線を再び副団長に向ければ、彼は満足げに目元を緩めた。


 とりあえず誤魔化せたかな。防戦一方でも意味がない、聞ける範囲で情報を探っていこう。


 今の所は魔法の繊細な調節ができるようになれ、と指示されただけ。初日とは言え、もう少し踏み込みたいところだ。


「君のために魔導書を用意した、時間のある時に読み進めてくれ。この先の研究に進むには必要な知識だ」

「分かりました。この机にある本がそうでしょうか?」


 部屋の背景の一部として認識していた机に積み上がった魔導書。この量を全て読めと? なんて顔に出すわけにもいかず、声を落ち着けて慎重に話を進める。


 視界の中で存在感を放ち始めた本の山に、睡眠時間が犠牲になることが確定していく。見習いだった時よりも調査班で働いている今の方が自由はきくため、少しの無理で済むとは思うが負担は大きい。


「数は多いが君ならこなせるだろう」

「お任せください……!」

「ああ、期待している」


 静かに、それでいて期待を向けられたことに歓喜が溢れたとばかりに答える。嘘はついていない、副団長の計画を暴く一歩なら、ぜひ任せて欲しいと思っているのだから。

 私の返答に満足したのか抑揚は少ないものの、副団長の声は言葉通りの感情が滲んでいるように聞こえた。


 それから、副団長からの課題を熟しながら、調査班の仕事とその裏でユリオプスと魔物暴走の真相を追う日々が続いた。犠牲になったのは当然のように睡眠時間である。


 もちろん、ただ忙殺されていただけではなく、それなりに進歩はしているつもりだ。魔法の制御はかなり様になってきたし、分厚い魔導書の山も後半に差し掛かっている。


 そして、副団長からの呼び出しの回数が明らかに増えているのだ。まだ言い渡された課題二つは終わっていないものの、彼の雑務を日常的に手伝う流れになり自然と会話が発生している。


「……って聞いてるか?」

「えっ、ああ、うん! 聞いてるよ、あの場所の魔力はこの大陸とは何回調べてもやっぱり違かったってことでしょ」


 呆れと心配が混ざったユリオプスの声に思考の海から慌てて浮上した。ぼんやりと聞いていた彼の話に合わせてみたが手ごたえはない。


「アンタがいない間にもう一回行ってきたんだぜ?」

「え、なんか怒ってる?」


 隣りの椅子に座っているユリオプスが、私の顔をどこか不満げに覗き込む。蔵書室の机は狭いのに、わざわざ隣に座らなくてもいいのに、と思いつつ彼の態度に疑問を投げる。


 作戦会議中に思考を飛ばしてボケっとしていたのは、褒められた振る舞いではないがそれ以上に、彼の気配からは不満の匂いがするのだ。


「別にそういうんじゃねよ……でも、最近よくアイツに呼び出されてるじゃん。仲良くしてるみてえだし」

「まあ……何かしら僕に利用価値でも見出したんじゃない。仲良しではないね」


 わざとらしく頬杖をついたユリオプスは怒っているというより……これは、拗ねている?


 彼の地雷である副団長と関わる私に敵意を向けているのかと、一瞬思ったがアイスブルーの瞳には悪意より寂しさに近い色が見えた。こんな顔をされては、罪悪感がじわじわと心に広がっていく。


 とは言え、スズランちゃんとの約束もあるし本当のことをそのまま話すわけにはいかない。


「副団長サマに骨の髄まで利用されちまうぜ? アンタ、危なっかしいしさ」

「そこまで何も考えてないわけじゃないよ。副団長がどこまで魔物暴走のことを掴んでるか探れるから」


 これも嘘ではない。目的の一つしか伝えていないだけだ。本当に探りたいのは、もっと深く危険な彼の計画だけれども。


「本気でアイツに勝つつもりかよ」

「当然だよ。もし、分かったらその情報も元にして僕たちが先に真相を突き止めよう」


 未だに副団長への劣等感は彼に影を落としているのか、分かりやすく声が小さくなった。気づかなふりをしてただ私は、強く頷いて彼に小さく微笑む。

 下手に追及するより私の意志を伝えるだけの方が、ユリオプスの負担にならない気がしたからだ。


「はいはい。それで、大量の魔導書は何なわけ?」

「課題かな。魔力に関わる人体構造って本が厄介でね」


 真っ直ぐに視線をぶつけたせいか彼は、色素の薄い空色の目を私の手元に向けた。釣られる形で私も開きっぱなしの魔導書をまじまじと見つめる。


 副団長に渡された魔導書の中でも難解寄りのもので、仕方なくユリオプスと作戦会議しながらも読み進めるしかなかったのだ。分かりそうで分からないのは、常識的な魔法感覚の欠落が響いているせいか。


「アンタあんまりその辺は分かってなさそうだもんな」

「そうだね、ここに書いてある髪の毛に強く魔力が宿るって話も初めて知ったよ」


 ユリオプスの言葉に否定もできず、苦笑いでページを指さした。人体に宿る魔力の分布や原理について書かれているが、読み解けた部分だけでも私にとっては初めて知ることばかりだ。


「髪は、儀式とか強い魔法を使うための媒体にもできる。だからこそ伸ばさないヤツの方が多いんだぜ」

「え、なんで? いざという時に切って使えば便利なんじゃない?」


 次のページに進もうとした手を止める。私の感覚と彼の発言がズレていたせいで、思わず湧いた疑問が口から零れた。


 強い魔法を使う材料になるなら伸ばしておいて、もしもの時に使うとなりそうなものだが、ユリオプスの口振りではそうもいかないらしい。言われてみれば、騎士団でも長髪の人はほぼ見ない。


「利用されたら面倒なんだよ。そっちのリスクの方がでかいってこと」


 細かいことは分からないが、禁術や古代魔法など物騒なものがある世界だと考えれば、不都合の方が多いと言われたほうが納得だ。


 私の想像を超えたおぞましい使用用途もあるだろうし……うん、絶対に伸ばさないようにしよう。となれば、気になることがもう一つ。


「……でも、ユリオプスくんって長くない? 三つ編みしてる状態でも長いし」

「この高貴な顔を見ろ。どうか考えたって長髪の方が似合うだろ?」


 大層な理由でもあるのかと綺麗に編まれたユリオプスの金糸を見れば、彼は三つ編みを軽くつかんで得意げに言い放つ。


 そうだ、ユリオプスはナルシストキャラだった。最近すっかり忘れていたが、詐欺広告ではそれに加えてヤンデレ壁ドン首絞め男という属性過多だ。


「はぁ? 見栄えの問題ってこと?」

「一番大事だろ」


 見つめ合うこと数秒、ようやく私は言葉を取り戻した。真剣な顔で返されれば、もう、そういうものだと納得するしかない。


 危険よりも見栄えをとる男、ユリオプス様である……うーん、始めの頃にそう聞けば疑いもしなかったが、少し彼を知った私としてはどこか違和感が残る。


「まあ、良いんじゃない? 君の顔なら長さとか関係なさそうに見えるけど」

「ま、当然だな」

「はいはーい。話を戻すよ、それで……次の調査はどこに行く?」


 この話を追求すべきか迷ったが、そろそろ本筋に戻さなければ時間がいくらあっても足りなくなってしまう。軽く流せば、ユリオプスがどこか安心したように小さく息を吐いたのが分かった。


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