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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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58、初めましてではないらしい

 

「モネさんも過去は殆ど思い出せないみたい。彼女には、常識とか一般的な知識はあるから貴女よりはマシだけど」


 まだ混乱が抜けてなさそうなモネさんを見ながら、スズランちゃんの情報に耳を傾ける。


 私は転生者としての記憶があったのと、魔法か何かで記憶を奪われた可能性が高い。そう考えると彼女の記憶喪失とはまた事情が違うだろう。


「はいはい、僕は非常識ですよ。それよりモネって言うのは彼女の本名?」

「うん、たぶんそう。ここに来て直ぐにモネって名前を口してたから覚えてたんだと思う」

「ふうん、そっか」


 私と違って自分の名前は覚えていたらしい。やはり、同じ記憶喪失といっても細かい部分は異なるようだ。

 何か参考になればなんて思ったもののそう都合よくは進まない。モネさんは魔物に襲われたショックで記憶を失った……表向きの私の記憶喪失と同じ理由だ。


「……何か気になる?」

「ううん、大したことじゃないよ。先ずは彼女を部屋に送ろうか」

「そうね、人はいないけど廊下で立ち話も変だし」


 訝しげに声を低めた彼女に小さく首を振って立ち上がる。

 あまりモネさんを放置してこそこそ話も印象が悪いだろう。

 びっくりするくらいの悲鳴だったわりに、私たち以外に誰もここに来ていたのが不思議だが、とりあえずは彼女を部屋で休ませたほうがいい。


「あ、あの……」

「どうされました? とりあえず、部屋まで送りますね。待たせて申し訳ありません」


 モネさんに歩み寄ると彼女は言いにくそうにモゴモゴと口を動かした。

 もしかして内緒話に不安になってしまったのだろうか? 話を変えてみるが、モネさんの顔は晴れない。


「いえ、勘違いかもしれないけど……あたし貴方と会ったことがあるかも」

「え?」


 深緑の瞳がじっと私を見た。そして、想定外の言葉が彼女から飛び出したせいで、取り繕うこともなく驚きが漏れる。


「その……記憶がなくて色々ぼんやりしてるんだけど、貴方のこと見たことがある気がして」

「……僕を?」


 彼女の記憶喪失がどこまで酷いのかは、スズランちゃんの話でしか分からないが、ぼんやりとした記憶の中に私……いや、過去の私がいるならそれは重要な手がかりだ。

 とは言え、記憶喪失の彼女の思い違いや他人の空似もありえる。


 焦って話を鵜呑みにしてはいけない。しかし、過去の自分に繋がる情報を期待して体が落ち着かず熱くなる。


「ねえねえ、お兄ちゃん! 先ずはモネお姉ちゃんのお部屋に行こうよ。ね、お姉ちゃんもいいでしょ?」

「え? いいけど……わっ! スズランさんそんなに引っ張らないで」


 スズランちゃんは、瞬時に幼い少女の声のトーンに戻してモネさんの服の袖を引っ張った。

 確かにこの話は落ち着いて、人に聞かれる可能性の低い場所でするべきだ。


 スズランちゃんの勢いに押された彼女は、よたよたと歩き出す。ドキドキとうるさい心臓を落ち着かせ、私も彼女たちに続いて足を進めた。


「なんか僕までお邪魔しちゃってすみません。体はもう大丈夫なんですか?」

 モネさんの自室まで来た頃には彼女は落ち着きを取り戻していた。流れに乗って彼女の部屋に招いてもらえたが、どこから話を聞くべきか。


「いえ、気にかけてくれてありがとうございます。先ずはどうぞ座って下さい。それと、さっきみたいなことは偶にあるんです……怖い記憶? みたいなものが溢れ出してパニックになっちゃって」


 彼女に促されて座った椅子は老朽化が進んでいるのかギシリと音がなった。


 深く腰掛け直して彼女の言葉を考える。スズランちゃんの言う通りフラッシュバック的なことらしい。記憶が戻りかけた瞬間になってしまっているのか? 


 私は、今のところそういった記憶が急に流れ込んでくるような経験はない。

 だが、モネさんは魔物に襲われて記憶を失ったらしいから、その記憶が色濃く残っているのかもしれない。忘れてもその恐怖は拭えないのだろう。


「さっき魔物がって言っていたのも?」

「多分そうだと思います。ちゃんとは覚えていないけど、あたしは魔物に襲われたショックで記憶がなくなっちゃったらしいんです。だからその時の記憶が蘇ってたのかも……」

「モネお姉ちゃんはさっき何か思い出したの?」


 スズランちゃんは無垢な顔で小首をかしげた。こういう時に、聞きにくいことをずかずかと子どものフリをして聞くのは彼女の強かさを感じる。


「今は、もうぼんやりしちゃって分からないの。でもすっごく怖くて、体が震えてたような気がする」

「そっか……実はね、この騎士のお兄ちゃんも記憶喪失なんだ」

「え?」


 急にこちらを向いたスズランちゃんは、どうやら私の記憶喪失の情報を掴む手伝いをしてくれる気らしい。

 後で、手伝ってあげたんだから代わりに何かやらされそうな気はするが乗らない手はない。


「僕も魔物に襲われているところを騎士団に助けられて保護されたんですよ」

「そうだったんですね、なんだか自分のことのように聞こえちゃいますね」

「ふふ、僕もそんなことを考えていました。モネさん、先程僕に会ったことがあると言いませんでしたか?」


 困ったようなそれでいて、柔らかく映るような笑みを意図的に浮かべてモネさんに返事を帰す。


 自身も大変な状況のはずだが、彼女は酷く同情的に眉を下げた。

 目に見えて警戒の色が薄くなる。記憶喪失の人間が他にいるかは知らないが、彼女も孤独を感じていたはずだ。

 そんな中、似た境遇の人間に出会えば言いにくいこともつい口をつくだろう。


「勘違いかもしれませんよ……記憶が真面になくていろんなことがごちゃ混ぜだから」


 先ほどの発言は、モネさんがまだ混乱している中で出たものだった。だから、彼女にとっては不確かな情報なのだろう。

 それを、他人に伝えるのを憚るのは誠実さなのかもしれない。


「少しでも情報が欲しいんです、思い違いでも何でも大歓迎です」


 だが、今の私には圧倒的に情報が足りてない。これではどんなに考えても、推理どころか妄想になってしまう。


「では話半分聞いてくださいね……さっきの恐ろしい記憶の中で、貴方みたいな銀髪で金の瞳をした人が魔物から助けてくれたような気がしたんです」

「その人、僕と顔とか似てました?」


 私のこの中性的な顔と銀髪と金の瞳というカラーリングはこの世界でもあまり見ない。もし似ていたなら、過去の私である可能性のほうが高いと言える。


「フードを被ってたような感じでしっかりとは見えなかったんですけど、雰囲気は似てて……。フラッシュバックしたタイミングで貴方が、あたしの目の前に現れたから重ねちゃっただけかもしれないですけど」

「なるほど、話してくれてありがとうございます」


 小さく唸りながら記憶を辿ろうとするモネさんは、自信なさげに小さな声で答えた。


「きっと、お兄ちゃんが記憶を失う前のことだね」

「……うぐっ! ううっ……ま、た、頭がわれそうっ!」

「無理しないで下さい。先ずは横になって……」


 スズランちゃんが私が返事をする前に口を開く。

 彼女の言葉に返す前に、モネさんが苦しげな声をあげて頭を押さえた。


 はっはっと不規則な息を漏らして彼女にベッドへ横になるように声を掛ける。

 男装とはいえ彼女からしたら私は、男の騎士として認識されているために下手に触れて落ち着かせることもできない。


「それで、たしか……えっと、なんだっけ」


 頭痛は治まったのか呼吸が段々と正常に戻ったモネさんは、虚ろな目で遠くを見ている。

 手を握ったり開いたりして感覚を確かめているようだが、今声をかけても届きそうにはない。


「ねぇ、さっきのどう思う?」

「目が覚めた時に着てたローブは、フードもついてたし彼女が見たのが僕の可能性はあるよ。僕も記憶がないから何とも言えないけどさ」


 隣の椅子に座ってたスズランちゃんがまた小声で耳打ちする。素直に今の見解を話せば、幼さが消えた彼女は視線を一瞬鋭くした。


「あのボロボロの布切れね」

「酷い言いようだ」


 何かと思えば、私が保護された日に着ていたローブを思い出していたらしい。

 確かに傷だらけではあったけど言い過ぎじゃないだろうか。


「……あっ!」

「な、なに!?」


 いきなり大声を出したモネさんは、虚空から視線を私に戻す。つい、驚いて私まで無駄に大きな声が出てしまった。


「思い出したの! その銀髪の人、スズランさんくらいの女の子と一緒にいたんです! 顔は見えなくて……でも、その子の名前を銀髪の人が呼んでて……えっと、なんだったかな……」

「カルミアお兄ちゃんが私くらいの年の女の子と?」


 興奮気味な彼女は、ばっと起き上がって前のめりに私を覗き込む。


 過去の私が女の子と一瞬にいた? それもスズランちゃんくらい小さな子と?


 思考が追いつかず言葉に迷っているとスズランちゃんが不思議に呟いた。


「そ、そう! カルミアだ!」


 スズランちゃんの発言にピンときたとでも言うようにモネさんは、さらに大きな声で叫んだ。


「その女の子のことを銀髪の人は、カルミアちゃんって呼んでました」

「……え?」

「……ん?」


 ぐっと両手を握った彼女はどこか満足気に頷いた。彼女の発言を脳内で処理すれば、スズランちゃんとほぼ同時に困惑が音になる。


「僕が呼ばれてたじゃなくて?」

「えっと、女の子に向かって……」


 つまり、彼女の言葉が真実ならカルミアというのは、銀髪の……私ではなく幼い少女の名前だ。


「じゃ、じゃあ、女の子は銀髪の人のことを名前で呼んでなかった? それかあなたに対して名乗ってたとか」


 問いかけた声はいつになく震えて、手には汗がじわりと滲んだ。

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