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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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57、記憶喪失者

 

 下に向いていたスズランちゃんの桃色の瞳が静かに私を窺う。そんな彼女に対して直ぐに何か言おうとして、やめた。だらだら言葉を並べても意味はない気がしたせいだ。


「分かった」

「……それだけ!?」


 代わりに大きく頷いて、すうっと息を吸い込み改めて短く返答を音にすれば、彼女は元から大きな瞳をいっぱいに開いた。僅かな沈黙のあと、文句でも言いたげな大声が耳に響く。


「僕より君のほうが、知識も考察力もあるわけだしそこの判断は任せるよ。もし、僕が君を傷つける反応をしてしまったら、副団長を止める前に亀裂が入ってそれどころじゃなくなるかもしれないでしょ?」


 正直に言えば、スズランちゃんの本来の姿に対してはそこまで興味がない。無理に明かされて望まない態度をとってしまった場合のリスクが大きすぎる。

 それに、私の方が記憶がないうえに前世云々を考えれば、話せないことが多い。とても人のことを言える立場ではないのだ。


「そこは嘘でも、どんな姿でも受け入れる自信があるくらい言ってよ」


 お得意の半目になったスズランちゃんは、不貞腐れたように呟くと見るからにサラサラの栗色の髪を手持ち無沙汰に触った。

 彼女の動作につられるように、自身の伸びてきて鬱陶しい前髪を雑に払ってもう一度しっかりと視線を絡める。


「君がそんな嘘を欲しがるとは思えないね。じゃあ、副団長の計画を潰した後でスズランちゃんが本当に僕に話したい気持ちになったら話してよ」

「それでいいの? 手を結ぶ相手に話されていないことがあるって嫌じゃない?」


 下手な慰めも思いつかず率直に気持ちを伝えればピンクの瞳が小さく揺れた。彼女の言うことは尤もだが、そもそも脅されて始まった関係と思えば今更その程度どうでもいいとすら思う。


 冷静に考えてどちらかが裏切れば、互いの目的は達成できないのだから疑う必要性も薄い。そして、相手のことを無理して全て知る必要も同じようにない。

 前世の価値観では冷たい考えにも映るが、平和ボケして綺麗ごとだけ並べていられる環境ではないと今の私は知っている。


「作戦の成功前に気まずくなる方が問題だよ。そこまで僕はせっかちじゃないし、それに君が言ったんじゃん」

「え?」

「僕を協力相手に選んだのは、僕にも言えないことがありそうだからでしょ。だから、こっちのことも見逃してね!」


 声の調子を上げて笑いかければスズランちゃんは一瞬戸惑ったものの、前回の会話を思い出したのか表情を直ぐに戻した。私が秘密を明かしたんだから、貴方も全部話して! なんて言われなくて良かったと密かに安堵が広がる。


「そう……お礼は言わないわよ。でも、そう言われるとカルミアさんを信頼したくなってきちゃうね」

「え、もう運命共同体だよ? 強制副団長討伐作戦に巻き込んでおいて信頼してなかったの!?」


 彼女からの期待値が絶妙に低いことは承知していたが、ここまで信頼感が低かったのは純粋に悲しい。ユリオプスにも頼りなく見られるし、もしかして私が思うよりずっと弱そうに見えるのだろうか。


 中性的な顔のせい? それとも記憶喪失だから? いや、やめよう。私まで僕を信頼できなくなってしまう……自分くらいは己を信じなければ。


「そういうことじゃないわよ、おとぼけさん」


 悶々と考え始めた私にスズランちゃんがクスクス笑うものだから、言葉の真意を確かめようと口を開こうとしたが言葉が続くことはなかった。


「きゃーっ!! だ、だれか、誰か……助けて!!」


 突如、響いた女性の悲鳴は鬼気迫るもので細かいことを考える前にドアに手をかけた。声の大きさからして修道院内だろう、早く現場に向かわないと。


「……ここにいて、見てくるから」

「ちょっと待って、カルミアさんここに詳しくないでしょ……ってもう居ない!」


 急いで振り向いて、スズランちゃんに一言残して廊下へ飛び出した。彼女が何か言っていた気がしたが、今は声の主を探して安全を確かめるのが先決だ。


 慣れない建物内とは言え、騎士団より狭く入り組んでいないお陰で悲鳴を上げたであろう女性の元には直ぐたどり着けた。


「先程の悲鳴はあなたですね、立てますか? 外傷はないようですが……」


 廊下に尻もちをついたような形で座り込む、スズランちゃんと同じ修道女の服を身に纏った女性をざっと観察する。


 年齢は二十代前半くらいかな、憔悴した表情からも何かあったように見えるけど廊下には誰もいないし目立った異常はない。

 固まったように動かない彼女にもう一度、声をかけようとすれば虚ろだった深い緑の瞳が私をぼんやりと映している。


「え? あたし、いま何を……それに、貴方は誰でしょうか?」

「僕は青龍騎士です、あなたに害をなすつもりはありませんから落ち着いてください。先ずは怪我を確認させていただいても?」


 首を傾げた女性は、困惑を隠さずに思いついた言葉をそのまま口に出しているようだ。彼女自身も何が起きたか把握していないのだろうか? 

 修道女ならば、青龍騎士の身分を明かせば経過期は解けるはず。そう思い、端的に伝えてとりあえず不安を拭い去ろうと努めて穏やかな声を出す。


「せい、りゅうきし……? あ、あたしは怪我してないです」

「では、一体何があったんですか」

「助けてくれてありがとうございます、でも先に……あれ、何を言おうとしたんだっけ」


 しかし、私の予想は破られ、青龍騎士、と呟いた彼女はまるで初めてその単語を知ったとでも言うように困惑を強めて見せた。

 それにこの違和感。目が合っているようないないような、会話が成り立っているようないないようなこの感じ。一体何が起きているというのだろうか?


 何に対してか分からない感謝を口にした女性は更に言葉を続けそうに見えたが、ぐっと眉を寄せてまた首を傾げてしまった。


「うん? まだ混乱してますね。助けるどころか僕は今ここに来たばかりですよ」

「でもさっき……魔物を倒して」

「魔物がいたんですか? 騎士団より弱いとはいえこの修道院にも結界は張られているはずです」


 オロオロとしながら必死に口を開く彼女が嘘をついているとは思えないが、この場所に魔物がいた痕跡も気配もない。それに、ここは魔物の侵入を防ぐ結界の中だ。破られていたら今頃大騒ぎになっているはず。


「……騎士じゃなくて貴方は確か」

「え?」

「ダメだ、全然おもいだせない、うう、頭痛い」


 急に緑の瞳がしっかりと私を見たかと思えば再び話が飛んだ。言葉の続きを待ったが、ふわふわの明るい茶髪が勢いよく横に揺れた。勢いよく首を振った彼女は呻きながら両手で頭を押さえている。


「大丈夫ですか? えっと、医務室は……」


 事情は全く分からないが、未だ座り込んだままの女性が異常をきたしているのは間違いない。急いで医務室に連れて行くべきだと行動し移そうとしたものの自分がこの修道院に詳しくなかったことを思い出す。医務室らしき場所は通っていない、誰か人を探して……


「モネお姉さん、どうしたの! もしかして、また頭が痛いの?」


 思考を巡らせかけてところに聞き慣れた長に声が響く。パタパタと軽快な足音をさせてこちらに向かってくるのは話の途中でおいてきてしまったスズランちゃんだ。危険があったらと、待っているように伝えたがどうやら追いかけてきてしまったらしい。


「あ、あれ? 貴方はスズランさんだね。それに……ここは修道院の廊下?」

「お姉さんの声が聞こえたから来たんだ、大丈夫?」

「迷惑かけちゃったね。もう落ち着いたよありがとう」


 スズランちゃんが座り込んでいた女性の顔を覗き込めば、彼女は、不思議そうに緑の目をぱちぱちとさせてからゆっくりと辺りを見回した。


 そして、何でもないように立ち上がってスズランちゃんの問いかけに頷く。見た通り怪我などはないようだが、先程までの様子を見てしまえば手放しに大丈夫とも判断できない。


「ついて来てたんだ、スズランちゃん」


 まだ、ぼんやりしている女性に何やら言葉をかけたスズランちゃんは、目が合うと直ぐに私の手を引いて廊下の隅に移動した。

 何やら彼女は訳知り顔だ。部屋で待っていてと言った手前どうかとは思うが、来てくれて助かったと混乱中の私は既に掌返しである。


「いいからちょっと耳かして」

「ん?」


 小声のスズランちゃんに、素早くしゃがみこんで耳を向ける。堂々とした密談ではあるが、彼女が幼い姿なお陰で傍からは微笑ましいものに見えるだろう。


「さっきの人が前に話した魔物に襲われて記憶喪失になった人よ。たまにこうして、嫌な記憶がフラッシュバックしてるみたい」

「……なるほど。だから話がかみ合ってなかったんだ」


 副団長に保護されて直ぐ、記憶喪失だと伝えた時にそんな話を聞いた覚えがある。その後、スズランちゃんからも魔物に襲われて記憶を失くした人がいるとか言われたせいで、この世界への恐怖で震えあがったんだった。


思い返してみれば、その人が修道院にいるとは聞いていたけれど、こんな形で合うことになるとは。私以外の記憶喪失者……何か掴めるのだろうか。未だ強張った表情で頭を押さえる女性へ静かに視線を向けた。


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