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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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56、乙女心ってやつ?

 

「……話を変えるけど、魔物暴走の件で聞きたいことがあるんだ」


 スズランちゃんの手を離して改めて向き直った。今日が休みとは言え情報共有の時間は限られている。いつまでも、しんみりとはしていられない。


「何か手掛かりでも見つけたの?」

「関係があるかもしれないって感じかな。少し前に調査で向かったラント村北部で、真っ赤な髪の胡散臭い男が急に魔法で攻撃してきて殺されかけたって言ったでしょ」


 一歩遅れて気持ちを切り替えたらしい彼女は、真剣な顔つきで私の話を聞いている。


 詐欺広告にも登場する謎の赤髪の男については、あれから全く情報がない。

 だが、賢いスズランちゃんなら私の知らない知識を使って何かしら考察してくれるだろう。


「その話はさっきも軽く聞いたけど、魔物暴走が何か関係ある?」

「いや、その人の魔法が本当に強くてさ。それに、僕の記憶を奪った犯人かそれに関わる人っぽいんだ」

「記憶を奪う魔法を普通の人が使えるわけ……ああ、そういうこと。そんな魔法が使えるなら魔物暴走の原因を何かしら作れる力があるかもしれないってことね」


 期待外れとでも言うように顔を顰めていたスズランちゃんだが、言葉の途中で納得したように頷いた。


 未だにこの世界の常識や価値観が掴みきれていない。

 そうゴロゴロ記憶を奪う魔法や魔物を暴走させる魔法を使える人間がいるとは思えない……というか、いて欲しくないというのが本音だ。


 これ以上、危険人物が増えてたまるか。もう既にやばい奴らの中で生活していると言うのに。


「うん、僕とその人は因縁もあったようだし。僕の記憶が戻れば魔物暴走の原因解明に近づくかもよ」

「カルミアさんが何者なのかの方が気になるくらいよ」


 呆れ交じりのスズランちゃんの声に苦笑いが浮かぶ。私がこの世界において一番困る問いだ。

 何しろ私自身が今こうして生きている自分が何者か把握しきれていないのだから。


「それは僕が知りたいよ。今のところ、分かっているのは大陸外出身で、怪しい男を捕まえようとしていた強めの魔法使いってことくらい」

「カルミアさんは、ラント村北部の魔力の流れが違う土地での、魔法の変化から大陸外出身だと考えてるって言ってたけど……」

「やっぱりありえないことなの? ユリオプスくんも、この仮説に納得いってなかったし」


 近況をざっと話した時に、大陸外出身であると予想していると伝えたものの反応は微妙だった。


 再び言及してくるという事はやはり、的外れな推測なのだろうか? 

 とは言え、私自身の体の感覚があの土地に流れていた魔力を見知ったものと認識したの確かだ。


「ううん……あまりないことだけど、状況的にそう考えるのが自然なのかも。となると、どうしてその場所にカルミアさんの故郷の魔力が流れてたのかって話になるけど」

「そこなんだよね! 賢いスズランちゃんなら何かわかるかなって思ってさ」


 顎に手を当ててブツブツと考えを纏める彼女に、にこりと笑って答える。


 この話をしたのも、知識の深いスズランちゃんに客観的に判断してもらうためでもあった。


 私が大陸外の人間という前提で、これから物事を考えて良いのか。そして、あの土地の謎が少しでも解決できれば記憶回復にも繋がるはずだ。


「実際にそこに行かないと何とも言えない。大陸内で流ている魔力が違うなんてゼロとは言わないけど、希有な例だし……後天的に土地の魔力が変わったなら尚更不思議なことよ」

「じゃあ、行ってみる? あ、でも修道院から勝手に出ちゃダメか」

「数日前から申請しないと無理よ」


 ダメ元で提案してみたが直ぐに首を振られた。申請すれば出られるなら、また次の休みにでもスズランちゃんに合わせてもらえば可能ではあるのだろう。


「なら、今度の休み時に申請しておこう。他にも調べたいことあるでしょ?」

「うん。アスターお兄ちゃんの目的が曖昧になっちゃったから、神話に関係する遺跡とかも調べたほうが良いと思う」


 副団長が女神の神話から何か着想を得たならば、スズランちゃんの言うように関連する遺跡を調べるのは意味がありそうだ。

  彼にバレないように彼女をどこまで連れ回せるかは分からないが。


「そうだね。僕もこれから、副団長の研究の手伝いが始まるだろうし情報は増えると思う。次はきっともう少し、彼の目的も掴めるはずだよ」

「……だといいけど。カルミアさんの記憶も、更に進展があれば情報が増えるのにね」


 副団長が女神の神話から何か着想を得たならば、スズランちゃんの言うように関連する遺跡を調べるのは意味がありそうだ。

 彼にバレないように彼女をどこまで連れ回せるかは分からないが。


「知っての通り僕には常識が欠けてるようだからスズランちゃんが、一般的な立場で僕の記憶について考察してくれると助かるよ! 僕には、正直さっぱりなことが沢山だからさ」

「推測するにも情報が必要なんだけど? もう、便利屋じゃないのよ」


 副団長を相手取ると考えて、また重くなりかけた空気も直ぐに崩れる。


 緊張感は大切だが、怯えてしまったら思考も鈍るしいざという時に迷いが出てしまう。


 特にスズランちゃんは、半分身内のような存在の副団長に牙を剥くわけだから、私以上に罪悪感や不安が強いはず。


「君にとっても僕の記憶を取り戻すことに意味は出てきたでしょ? これからも僕について、たくさん考察してね」

「そうね、なんか乗せられた感じがして癪だけど」

「冷た~い! 僕が記憶を取り戻したら多分、今より強いよ? 副団長と正面からの戦闘は避けたいけど、それまでに記憶を取り戻して力の使い方を思い出せれば、時間稼ぎくらいはできるはず」


 さらに軽い調子で言葉を続ければ、彼女の顔から緊張が薄くなっていくのが分かる。


 冗談のように言ってはいるものの、記憶を取り戻して本来あるはずと信じている力が戻ってこなければ大ピンチだ。ここまで頑張ってきて、あっさり焼死体にされるのは勘弁だ。


「そこは、倒せるくらい言ってくれない?」

「さっきはそう言ったら煽ってきたじゃんか。乙女心ってヤツ? 難しいね」


 スズランちゃんは、副団長に私が勝てると言えばお兄ちゃんの方が強い! と言うから素直に負けを認めたらこれだ。

 彼女は、冷静に見えてけっこう面倒な性格をしている、とじわじわ実感してきた。


 そんなことを口にすれば更に拗ねられるか、反撃されるかの二択なためグッと飲み込んだ。


「カルミアさんも女でしょ。それに、私……精神は乙女なんて年じゃないけど?」

「実際いくつなの? 答えなくても問題ないけど、どうしても気になるわけでもないから」


 魔法が変質して見た目の変化が幼女で止まってしまったという話は聞いたものの、実際の年齢は教えてもらっていない。 


 ぶすっとした顔で私を睨むスズランちゃんに、一応聞いてみる。


 正直、彼女の中身が何歳でも私にとってはそこまで影響がないため、レディに年を聞くなんて失礼! と言われたとしても別にいいわけで。


「それはそれでなんかムカつくわね。私の本当の姿についても聞いてこないし」

「え、なんか触れられたくない感じじゃなかった? 忌み嫌われる姿だから、僕も見たら嫌いになるかもしれないって言ってたよね」


 とうとうそっぽを向いたスズランちゃんに、困惑が頭を満たす。


 前回、彼女は本来の姿が一般的な価値観で忌み嫌われるものだからと話していた。 


 今は亡き彼女の兄ロベリアさんが、姿を変える魔法を掛けたお陰で現在は、茶髪のボブとくりくりの大きなピンクの瞳の可愛い今の姿のようだけれど。


 てっきりスズランちゃんはそのことについて触れられたくないのかと思っていた。

 だが、この拗ねた態度からして、もしかして突っ込んで聞くのが正解だったのだろうか?


「あけすけに言わないでくれる? 見せたい訳じゃないけど、普通、そう言われたら気になるものでしょ……別に貴方が普通の人間と同じ価値観なんてもちろん思ってないけど!」

「えぇ、なんか貶された? スズランちゃんの言う通り、記憶が飛んだ影響とか色々あるし、価値観はズレてる自信あるよ」


 イライラした口調で早口な彼女に、反論もなく同調した。

 私の価値観はどうしても、この世界のものより前世の方に引っ張られている。

 今は、こちらの価値観を何となく覚えてきて前世のものと徐々に混ざり合っている感じだろうか。


「……そ、その……いつかちゃんと話すから。それに、別に本当の見た目は見せなくてもアスターお兄ちゃんの計画を暴いて止めるのには問題ないから……」


 怒りっぽい態度から一変して下を向いて、小さな声で途切れ途切れに話し始めた彼女にやっと合点がいった。

 スズランちゃんは、彼女なりに私に誠実さを示して信頼を築こうとしていたのだと。


 彼女が見せたくないというその姿を明かさないのは不誠実に感じたのだろう。 


 私は全てを曝け出すのが信頼とは考えていないから気にはしていなかった。


 だが、副団長への裏切りとも言える決断をしなければならない彼女にとっては、どうにかして気持ちの整理をつけたいのかもしれない。


 その中に、自身の姿を隠すことへの罪悪感があったと考えれば今までの態度も納得がいく。


 さて、私は彼女になんて返せば誠実さに答えられるのだろうか?

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