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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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50、距離をはかる

 

「そんなこと……いや、有り得るのか? そしたら、アンタがこの大陸の魔力に適応してることがおかしな話になっちまうが」


 思考が絡まったのは私だけではなかったようだ。未だに眉を寄せて分かりやすく考え込んでいるユリオプスは、半ば独り言のように私の問いに答えた。

 私は自身が大陸外の人間だったのだともう確信すら持っているが、彼の態度からしても滅多にないレイなのだろう。


「大陸外の文字が読めたのも、大陸の共通文字が読めなかったのも出身が海の向こうなら辻褄が合うと思うけど」

「そうだけどさ……大陸外の魔力に適応するって殆ど見たことないから、あんまり想像つかねえな」


 前にユリオプス自身が推測した仮説を持ち出しても、煮え切らない態度で否定的な言葉が返される。私からすれば、魔力への親和性という確実な感覚があるが彼は違う。


 ユリオプスは先程、魔法の威力の違いを見たとはいえ、知識があるぶん他の大陸の魔力に一般的な活動ができる程度の適性を持つ人間の珍しさを考えてしまうのだろ。


 調査の記録がびしっり書かれたノートとにらみ合いを始めてしまったユリオプスから、目を逸らせば既に日が落ちかけている空が目に入った。


 ユリオプスは一度考えだすと長いし今日は本部に帰った方がいい。あまり帰りが遅くなっても、ディルさんに迷惑をかけてしまう。それにもし副団長と彼が密接に関わっていたら不信感を持たれる可能性すらある。


「とりあえず手掛かりが増えたと思えばいいじゃん、難しく考えなくてさ!」

「なんで、オレよりアンタの方が適当に考えてるんだよ」


 気負わせないように弾んだ声で話しかければ、空色の瞳が一瞬で鋭さを失う。眉間に寄っていたしわが少し残った顔は、どこか副団長と似ていた。


 先程までの考え込んでいた時の剣呑さすら感じた表情はまさに彼とそっくりだったし、細かい事情は未だに分からないが血縁関係があるというのも納得だ……こんなことを言えばユリオプスは苦虫を嚙み潰したような顔をするんだろうけど。


「これからもっと情報が増えるだろうし、結論を急がなくてもいいかなって」

「その考え方は調査班の仕事に向いてるかもな」


 情報が足りていいのもまた事実だ。ユリオプスも同意見だったのかやっと納得した様に頷いた。意見が割れることは考察の幅が広がるから悪いことでもないが、不確かな状態で議論するのも違うだろう。


「未だに調査班に入れられた理由はよく分からないけどね」

「副団長サマの采配だろ? どうせ碌なことじゃねーよ」

「それは否定できないね。でも、僕たちだってタダで出し抜かれるわけでもないよ。ね、ユリオプスくん?」


 ここはユリオプスの対抗意識を煽っておこう。私が調査班の仕事外でどれだけ魔物暴走の黒幕を追えるか分からない以上、彼にやる気を出させて頑張ってもらう必要があるのだから。


「アンタって何だかんだ好戦的だよな」

「バレないようにコソコソ調査頑張ろうね」

「そこは攻めないのかよ!」

「攻めたら燃やされるでしょ」


 勢いよく叫んだ彼に透かさず正論をぶつける。そもそも副団長の計画を暴こうなんて命がけのミッションについている私が言うのもおかしな話だが、副団長とはできる限り正面からぶつかる展開は避けたい。

 理由は勿論、炎魔法の耐性が無どころかマイナスに振り切った私が戦ったら一秒で灰にされるからだ。


「間違いねえな。ま、とりあえずしばらくの間は、調査の相方として……えっと、よろしくな?」

「うん、よろしく……もちろん、友達としてもね!」


 水魔法が得意な彼でも副団長の実力は嫌でも分かっているのか微妙な顔で肯定を返す。そして、言いにくそうに言葉を止めた後、照れくさそうに握手を求めるように手を伸ばしてきた。


 まだ手に残っていた砂を急いで払って彼の手をぎゅっと握って笑いかける。利害の一致した協力関係でお互い何かしらの打算があると言っても、私たちの関係を一番に表わすならば友達だ。


 そうでありたいと思うから私は、あの日彼に友達になろうと約束したのだろう。言えないことは多いが、それでもユリオプスを裏切らない形でこの世界を生きていけるように努力しよう、ちょっと困った顔で笑った彼の顔に密かに決意を固めた。



 日が暮れる前にと本部に急いで帰れば、鼓膜が破れそうなディルさんの声に出迎えられ、直ぐに今まで何をしていたのか私たちに問いかけた。


 ユリオプスは素知らぬ顔で近場で私に調査班の仕事を軽くレクチャーしていたと答える。呆気にとられた顔になったディルさんに、疑われているのかと冷や汗が出たのも束の間で彼はいたく感動した様にユリオプスの背中をバシバシと強く叩いたのだ。


「ユリオプス、お前が後輩の面倒を見るようになったとは! 俺は嬉しいよ! カルミア君、君も初めてとは思えない記録の取り方だ、将来有望だな!」

「あ、ありがとうございます?」


 ユリオプスからこちらに意識が向きかけたためディルさんと少し距離を取る。そして、彼の言葉の意味が分からないまま話の流れを汲んでとりあえずお礼を述べる。


 私、レクチャーを受ける予定だったのに結局、記録何も取ってないか? さっきユリオプスが渡した記録は彼が初めに取っていた魔物の足跡のメモだろうか。なぜそれを私がやったことに? 


 まだディルさんに背中を叩かれているユリオプスにどういうことだ、と視線を向ければ、話を合わせろとばかりに目配せされた。


「コイツすごいだろ、適当に教えただけで完璧に仕事熟してくれたぜ? これから仕事が楽に……」

「おっと、お前のサボリも許さないさ! だが、お前たちを組ませて正解だった気が今からしているぞ! これからも調査班として頑張っていこう!」

「あー、うるせえな。いい加減にしろよ、ディル。オレの背中に傷でもついたらどうするんだよ」

「それはすまないな! つい気分が上がってな!」


 流石に耐えられなかったのかディルの手をしっしと払ったユリオプスは、いつにも増してやる気のなさそうな顔で彼に向かって文句を言っている。


 テンションの上がったディルさんから私たちが解放されたのは一時間後だった。その頃には、鼓膜が悲鳴を上げていたが一晩中彼の調査班に対しての思いを聞かされることにならなかっただけマシだと思うしかない。


「さっきの何だったの?」


 部屋を出て自室へ向かう途中で隣に並んで歩みを進めるユリオプスに小声で問いかける。囁くくらい小さな声のつもりだったが、まだ寝ていない騎士たちの喧騒も遠く廊下は静かでやけに自身の声が耳についた。


「何のこと?」

「ユリオプスくんがとった記録をどうして僕の成果にしたの?」


 視線をこちらに向けないで彼はとぼけてみせた。聞いてほしくないことなのかもしれないが、話を合わせた以上その意味を求めるのは仕方がないことだ。それに、なんだかずっとその後も心に引っ掛かりを覚えている。


「アンタのレクチャーをしてたってことになってるんだから証拠が必要だろ」

「まあ、そうだけど……」

「何か気になることがあるか?」


 気のせいかいつもより温度の低い彼の声に上手く言葉が返せない。言っていることは正しいし、疑われないためにも彼の行動は正解だ。

 でも、別に私には仕事ぶりを見せただけで記録はまだやらせていないと言っても良かった。本来受けるべきでない称賛は、居心地悪かった……だが、これは気になることというより私の気持ちの問題でしかない。


「……ないとは思うけど、少しもやもやしたよ」

「アンタが嫌に感じる部分はなかったと思うけど。実力のある新人が入ってきたって喜ばれてたじゃねえか。事前に言ってなかったから困ったってこと?」


 ユリオプスは分からないことが不愉快なのか足を止めて私に、不満の色が滲むアイスブルーを向けた。彼からしたら、助けたつもりの行動だろうに何故か私に責められている気分になってしまったのかもしれない。


 私は彼を責めてはいない、だが自身の気持ちが纏まらないまま押し付けてしまっているのもまた事実だ。どうして私は、こんなに嫌な気持ちになっているんだろう?


「……君の手柄を奪ったのが嫌だったのかも」

「はあ? そんなこと? オレとしてはやる気ないけど、ある程度の成果は出すくらいのヤツって認識が動きやすいんだけど」


 思いついた考えを口にしてもしっくりこない。ユリオプスはそんな私の言葉に、意味が分からないとばかりにつらつらと淀みなく喋る。

 秘密裏に副団長より先に真相を掴むためにも必要なことだ、私の態度よりよっぽど筋が通っているはずだ。


「だったら、適当なユリオプスくんが教えた僕が、あんなにしっかりとした調査記録を書けるのはおかしいでしょ。君が手本を見せて僕は今日は見ていただけって方が自然だと思う」

「アンタの考えは普通に考えたらあってると思うぜ。だけど、オレの周りからの信用度を考えればアンタのものとして出した方が信頼される」


 もどかしくて望まないまま語気ばかり強くなる、こんなことが言いたいわけではない。飄々とした彼の態度もいつもより棘があって踏み込むことを拒絶しているようだった。


 これ以上は何も言わない方がいい?


 強く握った手に切り忘れていた爪が食い込む。それよりもなぜか胸の方が痛んだ、ユリオプスはまた私から逃げるように目を逸らした。


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