49、実家のような安心感!
遅れましたが22日の分です
「もう一回? てか、魔力にあてられて具合悪いんじゃねえのかよ」
「具合が悪いのはユリオプスくんでしょ。僕は影響受けてないと思う、精神的に疲弊してたのは間違いないけどさ」
疲れの残る声で答えたユリオプスに軽く首を振って立ち上がる。軽口をたたいている割に、いつものキレはないし無理しているのが丸わかりだ。
私より体力がありそうなユリオプスがこの調子なのだから、もし私が土地に流れる魔力に影響を受けているなら立っていられないはず。
それに、例の男との戦闘時に使った氷魔法は制御が利いていたのに想定外の強さだった。どちらかと言えば、良い影響すら受けていると考えるのはおかしいだろうか。
それとも、因縁のありそうな相手と戦ったことで記憶が刺激されて魔法の感覚が戻ったとか? 何だかしっくりこないけど試しておくべきだろう。
ユリオプスに背を向けて、何もない場所へ先程と同じように魔力を込めて勢いよく氷魔法を放つ。
「……うーん」
思っていた通り、何の変哲もないそこそこの威力の氷魔法だ。謎の男と対峙した時の驚くような力はない。
あの時に特別なにかを掴んだ感覚はなかったし、想定内ではあったがますます先程の土地の謎が深まった結果と言える。
「急にどうしたんだよ?」
「さっき、強い魔法が使えたから体に変化でもあったのかと思ったんだけど、今ここで同じように試してもいつも通りなんだよね」
座り込んでいたユリオプスは、困惑混じりに立ち上がり問いかけてきた。素直に氷魔法を使った経緯を話せば彼は黙り込んで何やら考え始めてしまう。
ユリオプスは現に、土地の魔力にやられて体調を崩しているわけだから俄かに信じられない話だろう。当事者の私だってよく分かっていないのだから当然だ。
彼は私が普段と違う力を発揮した瞬間は見ていないから、ふざけたことを言っていると思われても仕方がない。
「つまり原因があるのは場所の方ってわけ?」
「僕はそう考えてるよ。確かめない限り分からないけど」
考えが纏まったらしいユリオプスは私と同じ結論を導いた。あの場所を離れた時の態度からして相手にしてくれないと思ったが、さすが調査班と言ったところか柔軟な思考をしているようだ。
「ま、同意見だな。仕方ねえから付き合ってやるよ」
「ここで休んでてよ、直ぐそこだから迷子にもならないし。まだ本調子じゃないでしょ?」
歩き出そうとするユリオプスの腕を掴んで制止をかければ、彼は振り向いて余裕ありげに笑みを浮かべた。何となく顔色が戻ってきた気はするものの、また例の土地に踏み入れば体調不良に逆戻りではないか?
「近くに行くくらいなら何んともねえよ。魔力の流れが変わる境界で見ててやるからさ」
「本当に大丈夫?」
軽い調子で返したユリオプスについ疑念の声が零れる。努力を隠したがったり、本心を見せないようにしたりしている節がある彼の大丈夫はあまり信用ならない。
「どっちにしろ、土地の分析はその内することになるわけだしな。普段のアンタの魔法を知ってるオレがいた方が客観的に分析できるだろ。アンタが盛大な思い違いを起こしちまう可能性もあるし?」
「確かに思い込みは怖いね。すごく助かるよ、ありがとう!」
妙に早口になったユリオプスに、ニコッと笑ってお礼を言って掴んでいた腕を離した。彼がついてきてくれた方が得られる情報は多いのだから大人しく感謝を示しておくのが得策だ。
「……ほんとアンタって素直だよな」
「うん、ユリオプスくんもそうするといいよ」
「余計なお世話だっつーの。さっさと済ませるぞ」
気まずそうに目を逸らしたユリオプスにうっかり本音が出てしまった。余計なことを言ったと思ったが、これくらいはいいだろう。
大袈裟なくらい不機嫌そうな顔を作ったユリオプスは先程、彼の腕から離した私の手を掴んで強く引いた。
同じ道を辿れば、あっという間に荒れた土地に逆戻りだ。草原が途切れるところで止まったユリオプスに小さく頷いて私はその先にへ再び足を踏み入れる。
「ここに流れてる魔力がおかしいって言ってたけど、それって悪いものなの?」
「魔法を使おうとすると地面から体に魔力が流れてくるだろ。他の場所と違ってここだと、合わない魔力が入ってくる……アンタにはあんまり分からねえみたいだけど」
しっかりと異質な風景の荒野に立っているがやはり違和感はない。それどころか心なしか体が軽い気すらしてきた。
後ろで見守っているであろうユリオプスに問いかければ、理解できるようなできないような回答が返ってくる。
確かに土地や空気に漂う魔力を体内に取り込んでいる感覚はあるけれど、今こうしてこの場所に立っていても嫌なものを取り込んでいる感じはしない。
「それは、うん……体調に異変がないからユリオプスくんの言うような違いは感じ取れてない。でも雰囲気が違うのは分かるよ。もう少し近づけばはっきりするかも」
「おい、そんな風に触れたら!」
地面に膝と両手をつけて意識を集中させる。ユリオプスの叫び声が聞こえた気はするが、今は感覚を研ぎ澄ませることだけに神経を使うべきだ。
「……うん?」
手のひらに伝わってくる魔力は少し冷ややかで、どこか懐かしい……懐かしい? 目を閉じて更に魔力を体に移せば脈打つ音が少しずつ早くなっていくのが分かる。
この感覚も体が覚えているようで体中に得体の知れないはずの魔力が馴染んでいく。
「……ねえ、この場所に流れてる魔力すごく知ってる」
間違いなく私はこの土地に流れる魔力をよく知っていた。膝と手についた砂も気にせず、ゆっくりと立ち上がる。
目を覚ました時から今まで過ごしてきた中で、今この瞬間が一番コンディションが良いと言い切れる自信があるくらいだ。
「は?」
「やっと分かった。異変を感じなかったんじゃなくて僕にとってこの場所に流れてる魔力こそ慣れ親しんだものなんだよ。ほらっ!」
やや遅れて私の呟きに戸惑いの声をあげたユリオプスに見せつけるように荒廃した土地に制御した魔力を放つ。寂寥感のある土地に追い打ちをかけたみたいになってしまったが、私たちの目の前には凍り付いた大地が広がった。
「な……」
「ね? 魔法の質が全然違う。でも、ここから出るといつも通り」
呆気にとられた顔のユリオプスの元に小走りで駆け寄って荒れ地を飛び出す。そして、同じように氷魔法を使って見せれば先程の力が嘘のように、騎士団での訓練で見慣れた普段通りの威力しか出ない。
「どういうことだ?」
「僕にとって異常なのは、この荒れ地に流れる魔力じゃなくてこの大陸の普通の魔力の方なんだよ」
私は確信をもってユリオプスに告げる。初めはこの場所に魔法を強化する何かがあると思ったが多分、逆だ。
大陸で暮らす人たちが当たり前のように使っている魔力こそ、私にとって違和感の塊だったのだと、荒れ地の魔力に触れた私には分かる。体への馴染み方が今までと全然違かったうえに、体の調子も確実に良かったのだから。
「ここに流れてる魔力の正体に見当はついてるのか?」
「それは分からない……けど、もしかしたら僕の故郷と似てるのかもしれない。すごく懐かしくて違和感を感じなかったんだ」
自信満々に言ったものの魔力の正体を問われれば困ってしまう。それでも、私の推測は間違っていないはずだ。
記憶喪失前の私が住んでいた場所は分からないが、ずっと前から知っている感覚があったということは故郷か長く滞在していた場所に流れる魔力だと考えるのが自然だ。
考えながら言葉を続けるとどうしても纏まらない、たどたどしい私の言葉にユリオプスも顎に手を当てて思考を巡らせ始めた。
「この大陸なら土地に流れてる魔力は共通してるはずだぜ。だから……」
「じゃあ、前にユリオプスくんが予想してた、僕がこの大陸外から来た人間って言うのが現実味を増したんじゃない? 記憶は戻ってないから推測の域は出ないけど」
前に蔵書室で、大陸外の謎の文字を私が読めた時に浮上した『私の出身が大陸外である説』がここにきて信憑性が高まってきた。
あの時も、自分がこの大陸の出身って思い込んでいてその可能性を見落としていたけど、今回も同じパターンではないだろうか。
結局、心のどこかで大陸の出身だと思い込んでいたし、この大陸に流れる魔力に違和感を感じもしなかった。
比較対象がなかったから仕方がないものの、こうして本当に体に適した魔力に触れると、どこまでも続きそうな程広い大陸に流れる魔力は明らかに私の体に適しているとは言えない。
副団長に魔力を無理やり流された時の様なあからさまな不調はないが、何となく噛み合っていない感覚がどうにもぬぐえないのだ。
今まで魔法を使うときにどこか足りなさはあったし、今思えば記憶がなかったせいとは言え魔法を使えるようになるまで時間がかかったのも本来は適さない魔力の流れる土地だったから感覚が掴めなかったのではないだろうか? 正解は分からないまま思考は絡まった。




