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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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48、嵐過ぎ去って?

 

「……はぁ」

「お、おい、大丈夫かよ?」


 無意識に止まっていたらしい呼吸が、脅威が去ったことで正常に戻る。

 そして、息苦しさと緊張から解放されたせいか足元がぐらりとふらついた。


「ごめん、力が抜けちゃって」

「……さっきのヤツ、アンタの知り合いにしては殺伐としてたな。見るからに頭おかしそうだったし」


 支えてくれたユリオプスに、大丈夫だと笑いかけようとして失敗する。


 何だか上手く力が入らない。副団長と対峙している時の恐怖とはまた違う、ユリオプスの言う通り殺伐とした空気感は、知らないはずなのに体に覚えがあった。


「うん、記憶喪失前の僕と因縁があるみたいだね」

「てかアイツと話してた時と口調、全然違うじゃん」 


 赤髪の男について問いただされると思ったが、それより先にユリオプスは私の口調を指摘した。


 想定外の言葉に何度か瞬きしている内に、返事が遅れてしまう。

 軽く興奮状態だったせいで記憶が怪しくなってきた先ほどの出来事を思い返す。


「それはそうでしょ、知らない危険人物を相手にしてた……いや、言う通りかも。なんか、我を忘れてまではいかないけど殺気立ってたかも。今もソワソワして気分悪いし」


 今考えてみれば、普段の私とは口調も態度も酷く違っていたかもしれない。


 冷静に受け答えしていたつもりだったが、改めて振り返れば荒っぽかったし、いかにも敵を相手にしているといった振る舞いだった。


 それだけ、記憶喪失前の私にとって因縁の相手だったとか? その記憶が今の私の精神に影響を与えたのだろうか。


 今も怪しい男と話していた時のゾクゾクする不安と戦場に立っているような緊張感が体に残っている。


「それはこの土地の魔力じゃね?」

「さっき試したけど何にも感じなかったよ。むしろ相性がいいのかもしれない、魔法の調子がすごく良かったから」


 真顔から見慣れた少し呆れ混じった顔になったユリオプスに、私も少しずつ思考が纏まってきた。


 彼の言葉にうーん、と少し唸って言葉を返す。ユリオプスに言われるまで色々ありすぎて忘れかけていたが、ここは魔力の流れとやらがおかしい土地だ。


 彼の言葉を疑うわけではないが、不調どころか赤髪の男に氷魔法で応戦した時に今までで見たことのない威力の魔法が使えた。


 それに、今も体に合わない魔力に乱されている感覚はない。考えなければならないことが多すぎて、頭がパンク寸前だ。


「んなわけねえだろ、とりあえず一旦ここから離れよう。オレもここの魔力に当てられてわりとキツイし、アンタもその感じだと記憶どころじゃねえだろ?」

「うん、そうだね。さっきの人のことはまた考えるよ」


 私が大丈夫でもユリオプスの体には影響が出ているのだろう、元々色白の肌がいつにもまして青白い。もう少しこの土地について調べたかったが、ひとまず素直に頷いて歩き出したユリオプスの隣に並ぶ。


「あ、そうだ。さっきのことは誰にも言わないでね」

「明らかにヤバそうなヤツだったろ? 放っておいていいわけ?」


 短い背丈の草が生えた魔力に問題のない土地まで来て、どちらからともなく座り込んだ。

 そして、視線を幾分か力の戻った空色の瞳に合わせてお願いすれば、ユリオプスは困惑を隠さずに聞き返す。


「うーん、二人だけのひみつってことで」

「可愛く言ったって誤魔化されないからな」


 本当は二人だけの秘密なんて、攻略対象らしき人物と作るのはリスクが上がって御免だがそうも言ってられない状況だ。


 それに、ユリオプスは二人だけの秘密って響きがどうやら好きみたいだし、こう言えば言いふらすことはないだろう。


「へぇ、僕が可愛いの?」

「は……はあ? 言葉の綾だ。可愛いなんて言ってない、生意気で手に負えねーって言っただけだ」


 彼がいつもするように意地悪くニヤニヤ笑ってあげれば、すごい勢いで顔をそらされた挙げ句ブツブツ文句を言い始めた。

 よく人をからかうくせに、自分がからかわれるのには慣れていないらしい。


「うんうん、どっちでもいいよ! まあ、ちゃんと話すと、十中八九あの男は僕の記憶に関わってるよ。そして、あの感じだと魔物暴走にも関係してると思う」

「どうでもって……まあいいや。なるほどな、他のヤツらに協力を仰げば副団長サマにどっかしらから話が伝わっちまうわけだ」


 いつまでもふざけてはいられないため適当に流して本題に移る。

 不満げにこちらを睨んだユリオプスだったが私の意図は直ぐに伝わった。


「そういうこと、僕たちが先に真相を突き止めるのに情報が副団長に渡ったら意味ないからね」

「全くしたたかなもんで」


 ユリオプスには言っていないが、副団長は私が記憶を諦めたという認識になっているため、いかにも記憶に繋がっていそうな赤髪の男を追うことは止められるだろう。 


 行動が矛盾してしまえば、信頼を得て副団長の計画の情報を集めるという目的も達成できない。だから、このことは絶対に副団長の耳に入らないようにしなければ。


 一緒にいたのが、副団長に忠誠を誓うどころか反抗的なユリオプスだったのはラッキーだ。

 他の調査班の人だったら、副団長に情報が回って折角の記憶の手がかりをみすみす逃すことになっていただろう。


「お互い正義感で動いてないんだし問題ないでしょ。解決を何より急ぐなら、調査班の全員に伝えて副団長にも報告することになるけど……」

「絶対しない。じゃあ、オレたちだけでアイツを追うか?」


 断るだろうと思いながら提案すれば、ユリオプス場食い気味で首を振る。


 彼に副団長の計画を探るために取り入ろうと頑張っていることは流石に言えないが、表向きの被害は一致しているし行動を共にした方が賢明だ。


 ユリオプスの能力は信頼しているし、人柄も軽薄そうに見せたり素直ではなかったりと不器用だが本質的には優しさが見える。


 何より私たちは友達なのだから、これからもっと信頼を築いていけるはずだ。


「そうなるけど、見た感じ副団長クラスの強さだよ。もしかするとそれより上かも」

「迂闊に追えないってわけね」


 ここで副団長の名を出すのは嫌がられると思ったが、ゴクリと唾を飲んだユリオプスの顔が強張ったことから相手の強大さが正しく伝わったようだ。


 もし謎の男の魔法に当たっていれば、大怪我か当たりどころが悪ければ殺されていたかもしれない。


 それくらいあの男から感じた脅威は大きく、騎士団でも殆ど使っている人のいない光魔法を使いこなしていたし只者ではないのだうろ。

 光魔法は、他の属性に比べても適性のある人は圧倒的に少ないと聞く。


 それに、記憶は戻らないがどうにもあの赤髪の男どこかで見たことがある気がするのだ。

 喪失前の記憶の片鱗か、それでもまた別にどこかで? いや、騎士団から殆ど出てない私の知り合いにあんな人はいない。


「調査を続けてれば、もしかしたらまた出会うかも。僕も、あの人に聞きたいことは山ほどあるけど……次こそ絶対に捕まえてやる」

「次こそ捕まえる?」


 何気なく言ったことを、ユリオプスに不思議そうに復唱されて私が困惑する番になった。


「え? あ、今回逃がしちゃったから……って言いたいけど、今のは気づいたら口に出てた感じ。それに、冷静に考えたら捕まえるなんて言える実力差じゃないし、何言ってるんだろ」


 自分で言っててよく分からなくなってしまい、次こそ笑って誤魔化す。

 例の男が消えた時も、本格的な戦闘にならなかったことを喜ぶべきだったのに「待て」なんて叫んでたし我ながらおかしな行動だ。


「アイツと因縁があるっぽかったし、記憶がまた少し戻ったのか?」

「はっきりとした感じではないけど、さっきの人と対峙してると何か闘争心というか嫌悪感というかそんなのが湧き上がってきたんだよね」


 言語化するのは難しく、私の感覚がユリオプスに正しく伝わったかは自信がない。

 それでも、彼は茶化さず聞いてくれている。こうして話すことで思考の整理にはなっているから意味があるのだろう。


「それは、随分と根深そうだな。でも明らかにアイツ悪人ぽかったし。それと敵対してるアンタは悪いヤツじゃないってことだろ」

「だといいけど。また別の悪い組織だったらごめんね」


 空気を軽くするようにユリオプスは笑い飛ばした。それに乗っかる形で私も意識して明るい声を出す。


 冗談のように言ったものの半分本当だ、私が何者かだったかは未だに掴めないのだから。


 もし本当に悪い人間だったらどうしよう。もちろん、過去はどうすることもでないけど。


「そんなタマでもないだろ。ま、悪いヤツだったらちゃんとオレが捕まえてやるよ」

「それはどうも。ねえ、もう一回だけ、さっきの場所で魔法試していい?」


 私に過った僅かな不安を感じだったのかユリオプスは、さらに軽い調子で続けた。


 本人は否定するだろうが、あまり気を遣わせるのも良くない。

 話題を変えるついでに一つ聞いてみればユリオプスは、よく分からないとでも言うように眉をひそめた。


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