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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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46、調査開始

 

「滅ぼした?」


 ユリオプスからすれば私の発言は唐突だっただろう。でも、彼には記憶を取り戻すべきか迷っていた時に掻い摘んで話をしている。


「前に少し話したの覚えてる? 記憶喪失前の僕が執念深く大量に魔物を殺してきた可能性があるってこと」

「アンタが、うざったいくらいウジウジしてた時ね。副団長サマにそれらしいこと言われて簡単に揺さぶられちゃってさあ」

「そ、そこは忘れていいから。大切なのは副団長がそう推測した理由だよ」


 余計なところまで覚えていたユリオプスはニヤッと意地悪く笑った。ここで突っかかると話が進まないため、軽く流して話を続ける。

 自分でもあの時は情けないくらいに、不安で頭がいっぱいになって気弱な発言ばかりしていたと思う。できれば思い出したくない事柄だ。


「ざっくりとしか聞いてねえけど、どっかにアンタと同じ魔力の痕跡が残ってて、そこの近くの魔物が全滅してたんだったか?」


 記憶力の良い彼のことだから、心配はしていなかったがしっかり覚えていたらしく簡単にまとめてくれた。そして、足跡のスケッチが終わったらしく、話を聞きながらも何やら走り書きのように記録している。


「うん、副団長の言い分をそのまま信じるならだけどね。魔物への私怨云々のところは、ユリオプスくんの言う通り思考を誘導しただけだと思うけど土地が荒廃して、魔物も寄り付かないなんて言ってたくらいだから……」

「確かにアイツが、調べて分かるような嘘はつかねえよな」


 概ねユリオプスも同じ考えのようで、考察らしき文字を掻きながらうんざりした顔で頷く。厄介なのはこれが何かしら企んでいる副団長の情報であり確証がないということ。


 副団長は、自分に都合がいい推測をいかにも真実のように語るのが上手い。だからこそ、ユリオプスの言う通り後から調べて矛盾することは言わないだろう。


 ラント村を北に行った土地の魔物が絶滅して土地が荒廃した、なんてそこに行けば簡単に確かめられるのだから。そこに私が関与しているかは、まだ分からないけれど実際に行けば何かしらの手がかりはあるぁもしれない。


「魔法の痕跡は日も経ってるし見つからないだろうけどね、行ってみる価値はあると思う」

「……まさかそれって、ラント村北部のことじゃねえよな?」

「お、知ってたんだ!」


 ノートから視線を私に移したユリオプスがおずおずと口を開く。場所までは話していなかったのによく分かったな、とつい感心が口から出た。


「それ、マジで言ってる?」

「マジだよ。正確な位置は知らないけど、ラント村の北ってことは間違いないよ」


 完全に記録の手を止めた彼は、信じられないとでもいう風に空色の瞳を瞬かせた。このタイミングで嘘をついたって意味なんてないのに。

 彼の物言いに合わせて答えれば、ユリオプスはノートをパラパラ捲っていつになく真剣に文字を追っている。


「じゃ、今から行こうぜ」

「え?」

「オレもあの場所の調査に詰まってんだよ。急に大量の魔物がいなくなって土地の雰囲気が変わったかと思えば、なんか変な魔力が流れてるのか気持ち悪くなって長くはいられねえし」


 少しの沈黙の末、彼の口から出たのはいつもの軽いノリの言葉だった。困惑す私を他所にユリオプスはつらつらと文句を言い始める。

 考えてみれば彼は調査班なんだし突然、様子の変わった土地があれば把握しているか。しかも、何だか彼のうんざりした表情から察するに思った以上に面倒なことになっているみたいだ。


 これ、私が土地を荒らした犯人ならとんでもなく迷惑行為だったのでは? 


「……もしかして、そのせいで調査の考察に邪魔が入った?」

「当たり前だろ! 前例もないんだから。謎として放置されかけてたんだからな! ほら、さっさと行くぞ」


 恐る恐る聞いてみれば、眉をキュッと少しだけ吊り上げたユリオプスが勢いよく喋り出す。何だかプンプンしていて、普段の彼よりずいぶんと子どもっぽい。

 もしかしなくても、例の土地の調査に軽く何でもこなす彼にしては珍しいくらいに手こずっていたのだろう……多分、私のせいだけど。


 いずれ行こうといったのは私なのに、善は急げと半ば引きずられる勢いでユリオプスにラント村近くへ連れて行かれた。


 滅んだラント村はあの時のままで、魔物の襲撃の傷が色濃く残っている。こうして見るとこの世界で目を覚ましたのも酷く昔に感じた。


 しかし、今日の目的はここではない。感傷に浸っている時間もなく、村を通り過ぎて私たちはさらに北を目指す。

 村の周辺をうろついていた魔物も北へ進むと姿が見えなくなってきて、奥へ進めば草原が途切れて何もない更地が広がっている。草も生えない、地面が抉られた跡だけが目立つ寂寥の漂うこの場所は異質な空気だ。


「着いたけど、何か分かったか?」

「うーん、荒れた土地だなとは思うけど。まだ特には……」


 隣りからした声に首を振って答える。副団長が言っていたのはこの土地で間違いないだろう。辺りをキョロキョロ見渡してもただ荒廃した景色が続いているだけで記憶が刺激される感覚はない。


 だから、ここを私が滅ぼした、なんて実感もないわけで。副団長の勘違いか単純に嘘? いや、ただ刺激が足りていないのかも。

 物語の様に都合よく、縁の地に行けば記憶を思い出せる、などと甘いことを考えていたわけではないけれど、こうも何も感じ取れないとやはり焦りが顔を出す。


「ま、来たばっかだしな。オレはあっちで記録を取ってるぜ、記憶を思い出すには一人のほうが集中できるだろ?」

「そうだね、ありがとう。話の通り魔物もいないし危険はないと思う。ユリオプスくんこそ、魔力の流れが変って言ってたけど大丈夫?」


 考え込んでいた私の肩を軽く叩いたユリオプスは、気を遣ってくれたようだ少し離れた位置を指さしてそう言った。

 私は一切感じないせいで忘れかけていたが、ユリオプスは土地に流れる魔力がどうとか言っていたような。顔色に変化は見られないが、彼も彼でこういう時は瘦せ我慢しそうな印象があるため先に聞いておく。


「長くはいられないな。前よりはマシになってる気はするけど。アンタこそ何も感じないわけ?」

「魔力に鈍感ってことはないと思うけど違和感すらないよ」

「それ鈍感って言うんじゃねえの。それはいいや、なんか会ったら直ぐ呼べよ」

「分かった。ユリオプスくんも気をつけて」


 ひらりと手を振り背を向けたユリオプスに言葉を返して私も歩き出す。地面を見た感じ、戦いの後はもっと奥の方が強く残っているようだ。戦場の中心地まで行けばまた何か印象が変わるかもしれない。


「……うーん」


 とりあえず進んでみたものの景色は変わらない。生き物もいなければ植物すら生えていない不毛の土地だ。ただ、ここで大規模な戦闘が行われていたのは嘘ではないようだ。


 だが、予想していた通りここには誰かが魔法を使った後の残滓は残されていない。たとえ私がラント村近くで目を覚ます前に、この現状を魔法で戦闘して作り上げたとしてもそれを証明する手立てはないのだ。


 副団長は直ぐに調査して私の魔力を感じたと言っていたけれど、これだけ日数が経っていれば当然、魔力は残らない。

 副団長の言っていることがどこまで本当か確かめられる良い機会だと思ったけれど、何者かによって荒廃した土地があるのは事実というところまでか。


「よし……」


 屈んで地面に手をつける。さらさらとした砂の感触に目を閉じて土地に流れる魔力を掴む。爽やかさもない風が寒々しく首元を通り抜けていく。


 ユリオプスはこの土地の魔力に違和感を持っていたようだがそれも何か関係があるのだろうか? 何か分かればと、試しに地面から魔力を自分の体に取り込んでみても不快感もなければ、何かを特別に感じたわけでもない。


 普通の魔力だ、よく馴れた体が適合している居心地の良い魔力。


 彼の言うように残念なくらい私が魔力に鈍感なのか。いや、副団長に魔力を流された時に吐き気で地獄を見たんだからそれはない。そこまで考えて立ち上がり手についた砂を払う。


「……っ!?」


 その瞬間、総毛立つような不快感に思わずその場を強く蹴って飛びのいた。何事かと視線を先程いた場所に向ければ、眩しい光と共に地面が抉られ砂埃がたった。もし、あそこに留まっていたらひとたまりもなかっただろう。


 一体何が起きてる? 警戒しようにも視界は舞った砂によってはっきりしない。それでも、何かの気配は感じる。一般的な魔物ほど大きくはないが私よりも背は高い。


「おっと、反射神経は健在ですか」


 視界が晴れてくるとぼやけたシルエットが成人男性のものだと分かる。私が声を出す前にシルエットはこちらへ歩きながら音を発した。まだ、逆なでされたみたいに落ち着かない体が警戒をさらに強めている。


「何者だ!」

「おやおや、お久しぶりですね。死に損ないの英雄さん!」


 とうとう姿を現した男に剣を向けて威圧すれば、彼は演劇めいた抑揚のある話し方で私へ笑いかける。久しぶりどころか初めましてだが、なんとも気味の悪い笑みと大袈裟に手を広げる態度からして、記憶喪失前に関わりがあったのだろう。


 落ち着こう、剣を握る手に入った無駄な力を抜きながら呼吸を整える。先程の奇襲の犯人は間違いなくこの男。そして、地面に穴をあけたのはあまり見ない光魔法だ……それも、炎魔法を操る副団長レベルの強さの。


 緩めたはずの手に無意識に力が籠る、バクバクと急かすような鼓動が思考を惑わす。誤魔化すように目を細めて前を見据えれば、冷たい風が吹き抜けて男の燃えるような赤髪を静かに揺らした。


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