45、便乗大作戦
矛盾だらけのユリオプスの発言に慎重に言葉を選ぶ。羞恥か副団長への気後れからかは分からないが、態度からしても副団長より先に魔物暴走の原因を解明したいと見て間違いなさそうだ。
前に、副団長は魔物暴走の原因を突き止めて魔物をこの世から滅ぼすとスズランちゃんに誓っていた。これも嘘ではないのだろうが、実際はもっと他に目的があることは確定している。
それが、スズランちゃんの推測通りにロベリアさんの蘇生なのか、はたまた別の何かなのかは分からない。
「副団長、今は他のことで手一杯な感じだし先を越すなら今だよ?」
だが、これだけは言える。副団長は自身の計画に夢中で魔物暴走の原因を本気で追い求める余裕はないはずだと。
「なんでアンタが妙にやる気なんだよ」
「正面から戦うよりは勝てそうだから!」
ユリオプスは意味が分からないとばかりに呟いた。副団長との競争に勝ちたいなら今が好機に違いない。
彼がどうして副団長より先に解決することに拘るのかははっきりとしないが、私が知らないチャラ男系キャラあるあるの重い過去が関係しているのだろう。
「やっぱアンタ、精神が野蛮人寄りじゃね? それに、アイツより先に真相を掴めたからってさ、別にオレがアイツを超えたって証明できるってことでもないし……」
「ま、いいじゃん! 一緒にやろうよ」
「は?」
慎重に言葉を選ぶつもりだったけれど、何だか彼に必要なのは勢いな気がしてきた。ディルさんの真似をして彼の背中をバシッと叩けば、思いつめたようにどんよりとしていたユリオプスはギョッと目を見開く。
私が思っていた以上に副団長へのライバル意識と劣等感が強いらしい。彼らの因縁が気になるところだが、安易に踏み込んで巻き込まれるのは危険すぎる、今は避けるべきだろう。
「僕も魔物暴走の原因は突き止めたいし」
「待てよ。多分アンタが思ってる感じじゃないぜ?」
つけ足すように私も意思表示した。魔物暴走については黒幕がいるならば、何かしら私の記憶喪失や過去に関わっている可能性も視野に入れている。
だから、何だかんだ鋭いユリオプスが本気で調査を続けるならば、私が一人で調べ回るよりずっと効率的だ。言ってしまえば、ちょうどいいから彼のやる気を出させて便乗させて貰おう作戦である。
しかし、ユリオプスの表情晴れないどころか、無理やり笑みを作っているようで焦燥がひしひしと伝わってきた。声もよく聞けば僅かに上擦っていて、普段の軽口を叩くような態度に装っているだけだと分かる。
「うん?」
「その……確かにオレは魔物暴走の原因を突き止めようとしてる。でも、別に他のヤツらみたいに正義感とかからじゃなくてアイツを超えられるならそこしかないと思ったからで……」
「……」
ユリオプスの視線は気まずそうに泳いでやがて居場所を失くして地に落ちた。尻すぼみに語る本音らしき言葉に疑問が浮かぶ。
「失望したか? でも別に意外ってこともないだろ? オレがこういうヤツだってアンタは知って……」
思考に気をとられて返事が遅れた私にユリオプスは、馬鹿みたいにへらへら笑って矢継ぎ早に言葉を放つ。割増しで軽薄さを演出する明るい声は、やはり怯える幼子みたいに震えている……本人に自覚があるかは知らないが。
「なんで、それで僕がユリオプスくんにがっかりするの?」
「へ?」
どうにも見ていられない、彼が彼自身を傷つけるのを良しとしているみたいで酷く嫌な気分だった。だから、ユリオプスの言葉を遮って私は勢いよく言葉を挟んでしまったのだ。
真ん丸に開いた空色の瞳に、一目見ただけで不機嫌だと分かる私が映る。それでも言葉は止まらない。
「僕だって自分の記憶に繋がりそうだから、折角なら便乗して原因を探しちゃおう! くらいの気持ちなんだけど。え! もしかしてこれ言ったらユリオプスくん失望する!?」
「全部、声に出てるけど……なんだよ、別にアンタもオレと変わんないじゃん」
うっかり余計なことまで声に出てしまったと気づいたのは、私を見るユリオプスが呆れ顔になってからだった。しかし、困惑と安堵が混じった声からは先程までの壁は感じない。
「悪いことじゃないと思うけどなぁ。理由が何にせよ、もし僕たちが解明できたら結果的に魔物の暴走も止められかもしれないし良いこと尽くめだよ」
「そうか? いや、そうなのかもな。ま、なんか能天気なアンタの顔見てたら考えるのもアホらしくなってきたぜ」
「言い過ぎだよ、僕だって色々考えてるんだけど」
彼の中で何やら納得できたらしい。すっかり元の調子で毒を挟んでくる彼に、文句を言いつつも安心が私の心に広がる。
もし、彼が似合わぬ正義感でそんな気持ちで調査をするのはダメだ! とか言い出したら説得が大変なことになっていた。それに、あれだけ自己肯定感が低いユリオプスを見ていれば嫌でもどうにかしたくなる。
「ハイハイ、その賢い頭で原因を突き止めような」
「ふふん、名探偵にお任せを!」
調子に乗ったユリオプスに雑に頭を撫でられて髪がボサボサだが、その程度では怒らない広い心を持っている。今回は問題なかったが、つい勢いで余計なことを口走るのはそろそろやめたい。
私ってこんなにうっかりで暴走気味な性格だっただろうか? 前世ではそこまで勢い任せでなかった記憶があるが、都合よく自己認識が歪んでいるだけかもしれない。
それとも、私の人格が過去に引っ張られているのか。いや、自身の過失をまだ見ぬ過去の自分に押し付けるのは良くないか。
「探偵って言うより、アンタの詰め方の気迫は取り調べだったぜ」
「え、そんなことないと思うけど」
乱れた髪を撫でつけていると、ユリオプスがボソッと当てつけみたいに言葉を漏らす。全く自覚はないが、スズランちゃんには拷問官疑惑をかけられたし、何かを突き止めようと人に聞くとき滅茶苦茶こわい顔でもしているのかもしれない。
「そうだな、警察をするには抜けすぎてる」
「もうツッコまないよ。それで、ユリオプスくんはどこまで突き止めてるの?」
心配して損したくらいに、意地悪くこちらを弄ってくるユリオプスを軽く睨んで話を変える。隠したノートを再び開いたユリオプスは私の問いかけを聞きながら、魔物の足跡をササっとスケッチしていく。
「……これが、人為的なものってことは確定してる」
「うん」
スズランちゃんも暴走させた黒幕がいると確信していたし、彼女の話では副団長も同じ考えの様だった。ユリオプスもそう辿り着いたならやはり黒幕なる人物がいるのだろう。
私の記憶喪失はユリオプスには誰かの魔法によるものという可能性は低いと言われたが、一般人は到底使えない禁忌とされる記憶を消す魔法だって、魔物を暴走させる力を持つ人物なら使えるんじゃないのか。
そんな推測が頭から離れない、握った手にさらに力がこもる。どうして記憶喪失前の私が、そんな人物に態々、狙われたのかと言われればそれまでだが。少しでも手掛かりになるなら追わない手はない。
「驚かないんだな?」
「想定内って感じかな、流石に僕もただの魔物の問題とは思ってないよ」
手に入った力を緩めて、不思議そうに記録の手を止めたユリオプスに曖昧に笑う。元々知っていたのもあるが、どう考えても異常事態の魔物暴走がただの魔物による自然現象とは少し問題に触れれば思わないだろう。
「もうちょっとビビると思ったけど、アンタは見た目のわりに肝が据わってるんだったな」
「まあ、やらないといけないことも沢山あるし」
軽く笑ったユリオプスからしたら、中性的で背の低い私は頼りなく見えるのだろう。見習いの服よりも、外套は着ているとはいえ騎士団の制服は体の線が分かりやすいから余計にそう見えてしまうのか。
「元のアンタも兵隊か何かだったんだろうし、それくらいじゃないとやっていけなかったのかもしれねーな」
そういえば、ユリオプスは私がどこかの国の兵隊だと推理してたっけ。彼の言葉は、ある程度筋が通ってはいたがやはり今考えてもしっくりはこない。
元の私には副団長が狙う程の力があり、魔物と戦った時に実感した体に残された戦闘経験や思考からも、魔物と戦う仕事をしていたのは納得がいく推測だ。
まてよ……副団長が欲しがるくらいの力が本当にあったなら、それって魔物暴走の黒幕に狙われる理由になるんじゃないか? なら、私が力を使った形跡があったという場所に行けば何か手掛かりがあるかもしれない。
「今度、僕が倒れてた場所とおそらく滅ぼしたっぽい場所に行ってみない? もしかしたら何か分かるかも」
思考が飛んだ末の提案にユリオプスは不思議そうに首を傾げた。でも、私の直感はそうするべきだと言っている。




